それは、偶然の一言。
次の作戦のために必要なメンバーが談話室へと集まって簡易的な確認をしている時の事。確認の際のちょっとした会話でも他のナンバーに比べたら大人しいはずだが、それでもうるさかったらしい。
「そんなに無駄話するなら空へ落とすよ」
ホログラムのディスプレイを開いて操作しながら淡々とした口調で伝えられる。それを聞いた者たちは、ピタリと会話を止めた。ほとんどが言葉の内容よりも言った本人――グラビティーマンの機嫌を伺っての事。だが、一体だけ場違いにアイカメラを輝かせた。
「空へ落ちるのかい!?」
身を乗り出すような勢いで食いついたのはスターマン。それを見た他メンバーは、一様に呆れ顔だ。そして、その直撃を受けたグラビティーマンもさすがに驚いた様子だったが、すぐにいつもの淡々とした言葉で何事もなかったように返す。
「不可能じゃないからね? 君、落ちたいの?」
続いた言葉にスターマンの表情が更に明るくなる。
すると何かを察知した他メンバーは、少しずつ二体から距離を取った。
衛星基地での活動を前提としているスターマンは、見た目以上に丈夫で数倍の重力や真空にも簡単に耐える。硬いだけならストーンマンやクリスタルマンあたりだろうが、重力など特殊条件下で耐える事に関して言えば、スターマンが群を抜いている。
そんな彼相手にグラビティーマンが手加減をするかと言えば、否しかない。だからこそ巻き込まれる訳には行かず、中には談話室から我先にと脱出するメンバーも居た。
それでもスターマンの勢いは変わらない。
「素敵じゃないか! 空から落ちるではなく空へ落ちるなんて!」
「!?」
グラビティーマンの機嫌悪化など見えてないのか興味の前には些細な事なのか、ズイッとグラビティーマンに近寄るスターマンの表情は一貫して輝いていた。あまりに変化のない反応に今度こそグラビティーマンも困惑し、残っていたメンバーは諦めの色を見せる。
「空に吸い込まれるとも言えるのかな? とても素敵だよ!」
周囲の反応など気にしていないようにスターマンが身振り手振りも加えて宣言する。その様子にグラビティーマンが不用意な言葉だったと認識しても、もう遅い。
その後、しばらく空に落ちてみたいと逆にスターマンから付き纏わられたグラビティーマン。何度か基地内の重力が無作為に反転し、一部が阿鼻叫喚となったのは言うまでもない。
初出 2021.12.27
修正 2024.6.5 星重力
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