▼ あるいは比翼の

 工場地帯の一部区画にて爆発と煙、警告のサイレンが鳴り響く。それらは止むこと無く、最初の爆発が合図のように段々と激しくなり、爆発の感覚が短くなっていく。
 周辺は、火災のため鎮火作業に勤しむロボットと爆発の原因を取り除こうとする警備ロボットたちに溢れていた。その様子から既に人間たちは安全区域まで退避しているのが伺える。
 そんな乱雑な雰囲気の中を平然とした様子で、建物と建物の間をオレンジ色が駆け抜ける。少し開けた場所に出た途端に待ち構えていた敵機のバスターによる集中砲火。
 しかし数発当たったとしても反動で足が止まる事もなく、真正面からその集団に襲いかかり、キィィンと突き抜けるドリルの回転音を響かせ、すべてのロボットを一方的に破壊していく。

『クラッシュ、次かなり来るぞ』

 派手な倒壊や爆発の中で鮮明に聞こえる通信に、クラッシュは口元で笑みを作る。既にクラッシュの戦闘システムは、敵機を多数捕捉済みで臨戦態勢に入っていた。

「望むところだ」

 その区域で活動するすべてのロボットを嘲笑うかのように、次々と邪魔になるモノを破壊しつくし、爆発でボディなどが煤けたとしても傷一つない。嫌味なくらいの丈夫さで正面からすべて迎撃していく。
 本来そこまで圧倒的な性能であれば、相手が恐怖し作戦を考え直す事が多い。けれど相手側のロボットには細かいAIなど積んでいないらしく、淡々と攻撃を仕掛けてくるばかり。それが更にクラッシュたちを優位にさせていく。

『しっかり時間稼ぎしてくれよ?』

 通信の向こう側から確認の声が聞こえた時には、周囲のロボットは鉄屑や部品の残骸になっていた。クラッシュは少し不満そうにしながら近くにあった何かの部品を踏み潰して口を開く。

「その代わりデータちゃんとしろよ」
『誰に向かって言ってんだ? 余裕過ぎて退屈しそうだ』

 その声は笑っていた。まるで退屈しているようにしか聞こえない。その意図をなんとか考えついたクラッシュもまた笑う。そして、システムの警告から空を見上げた。

『そろそろ玩具が飛んでくるぞ? 怪我すんなよ? オニーサマ?』
「それこそ誰に向かって言ってるんだ? フラッシュ」

 口で笑みを作りながらすべての小型ミサイルを捕捉し、フラッシュからの追加データも加えた全ての着弾と飛散予測を予測し走りだす。
 さすがに直撃では何かしらの支障が出る事も考えられたので、すべて綺麗に回避していく。通信の向こう側にいるフラッシュは、既に工場内の中枢に潜り込んでマザーコンピューターからデータを強引に抜き出し、ほとんどの作業を終えていた。
 その口元は、相変わらず笑っている。

「そろそろコッチからも行くぜ、クラッシュ」
『なんでも来い』

 クラッシュの特に感情が無い返答にも気にした様子がなく、フラッシュは、データを引き出す以外の作業をし始めた。ディスプレイに移るのは、工場内や周辺を警備するロボットたちの管制システムの大事なプログラム。
 一方クラッシュは、大型の敵機を発見するなり、他には目もくれずにそれに跳びかかると温存していたクラッシュボムを投げつけ、そのまま退避するように建物の影を目指しながら駆け抜ける。そして、支障がない程度に他のロボットをドリルで貫き処理しつつ、建物の影に入り込むと、見計らったようにクラッシュボムが爆発して大型の敵機が周囲を巻き込み崩れていく。
 その爆発と敵機の様子を建物の影から見届けると、次の獲物を探すため走りだした。

『そこを右に曲がった先で面白いモノが見れるぞ』
「面白いモノってなんだ? 大物か? 大量か?」

 その会話を続けながら信じられない早さで一方的な破壊を繰り返すクラッシュと、信じられない早さでセキュリティーを突破し、データを改ざん又は破壊していくフラッシュ。
 誰も彼らを止められず、被害は広がっていくばかり。
 そんな中でクラッシュが、言わるままに現在走っていた通路から右へ曲がれる箇所を見つけ、ドリルを身構えながら飛び込んだ。するとまた建物と建物に囲まれつつも開けた場所に出る。
 本来なら中庭のように整えられた憩いの場なのだろうが、警備ロボットたちがクラッシュに気づかずに暴れており、無残な姿を晒していた。

「なんだ? バグか? アレ全部破壊して良いんだろ?」
『管制システムの一部を乗っ取ったんだ。俺が手駒として動かしてるから壊すよ!』

 警備ロボットたちは、お互いを攻撃出来ないに加え、敵と認識する事が出来ないらしく、フラッシュに操られていないロボットが尽くフラッシュの操る警備ロボットに破壊されているのだが、問題の操られたロボットに対して排除する動きを見せない。
 只管にクラッシュを排除するべく向かおうとするだけで、同士討ちによる一方的な破壊が繰り返され、異様な光景になっていた。
 そんな様子を見ていたクラッシュは、今の状況には何も思わず、自分の取り分が少なくなったことに対して不機嫌になっていく。

「……面倒だ。まとめてヤる」
『ハァ!? 負けるかこの野郎!』

 宣言と共にキィィンと高い音を立てながらクラッシュが、ロボットの集団に突進していく。するとそれに反応したのは、フラッシュが操るロボットだけで、性能に違いが無いはずなのに操られていないロボットよりも機敏に反応し、クラッシュから逃げようとしていた。
 操られていないロボットは、すぐに処理出来るが、それ以外のフラッシュが操るロボットは巧みにクラッシュの攻撃を避けた。少しばかりの苛立ちを見せたクラッシュは、容赦なくクラッシュボムを周囲にバラまいて爆破した。

『さすが壊し屋』

 元々破壊されひどい有様だった場所は、地面が削れるなどしているが、形を持っていたモノはすべて綺麗に何もなくなっていた。
 皮肉るような言葉でもフラッシュの声は、何処か楽しそうに聞こえる。
 そして唯一焦げた残骸から煙が上がって視界を悪くするが、それすら関係ないようにスッキリした様子で、クラッシュは次の獲物を探し始める。

「お前も随分と楽しそうだぞ」

 ポツリと呟いた言葉には笑い声が返ってくるばかり。
 工場が静かになったのは、すべてが終わって工場としての機能をすべて失った後。




 任務後、いつものように2機が揃ってリペアやメンテをしてから報告へと向かう。そこには博士が居り、その傍らには当然のようにメタルが控えていた。
 細かな部分でメタルが注意するも博士の「問題ない」の一言ですぐにお開きになってしまう。さすがに博士への報告後、メタルを含めた3機は安堵した表情を浮かべていた。

 それから残りのメンバーへ報告するため3機は談話室へと足を運ぶ。そこには既に残りの兄機たちが揃っていて、それぞれソファやイスに座って時間を潰しているところだった。
 談話室にやって来たメタルも当然のように空いているソファへと腰掛けるが、クラッシュとフラッシュは最初から座る気がないらしく、興味無さそうに出入口前に並んで立つだけ。
 その様子にメタルは、諦めたのか指摘する事なく言葉を口にしていく。

「博士が良いと仰られた手前、余りしつこく言いたくもないが、もしもクラッシュが戦闘不能になっていたらどうするんだ。そうでなくとも状況不利になっていたらフラッシュにも危険が及ぶかもしれないんだぞ?」

 そう言いながらメタルは、今回の報告データを待機していた3機へと転送し、受け取った3機は、各々確認して三者三様の反応でもって返す。

「なるほど。俺たちを集めたのはこのためか……」
「まぁ、普通この作戦が危ない事は、少し考えればわかる事だよね」

 エアーは冷静に淡々として頷き、確認するように問題の2機を見てからメタルの次の言葉を待っていた。変わってバブルは、最初から呆れた様子で既に何か忠告する事を諦めているように投げやりな雰囲気まであった。
 そんな中、唯一キョトンとして不思議そうにクイックがデータと兄機たちを見比べていた。

「この程度で危ないのか? 別に全部ぶっ飛ばせば良いんだろ??」

 迷い一つもなく当然だと言わんばかりに、スパッと言い放たれた言葉。
 それに対してメタルとエアーは、なんとも言えない微妙な表情をし、バブルに至ってはあからさまに呆れと馬鹿にするような視線まで送ってしまっている。

「君は少し黙っててね? 内容が酷すぎて綺麗に話の腰を折って進まないから」
「そうか? なら少し黙ってるな! 良かったら言えよ!」

 比較的わかり易いはずり言葉にも良く受け取ったらそのまま突き進むらしく、無駄に爽やかなイケメン笑顔でクイックは不満の色を出す事なく本当に黙り込んで、ソファに見を預けたまま話の様子を見守る事に徹し始める。

「うん、君は本当に呆れ果てるぐらい素直で助かるよ」

 バブルの丁寧な物言いの中に潜む直球の言葉が織りなす皮肉に理解出来たメタルやエアーは更に頭を抱えそうになり、フラッシュも当然理解出来るので呆れ顔。
 でもクラッシュだけはクイックと同じようにキョトンとしていて、その場の雰囲気を理解しきれてないらしい。

「よくわからないが、仮定の話に興味無いぞ? 俺がダメならフラッシュがなんとかするに決まってる。だろ?」
「確かに。お前が万が一を起こしそうなパターンは、全て把握してる。抜かりなんて有るわけねぇよ」

 その態度は、最初から最後まで変わらない一貫して相互の信頼を語る。けどそれは、ある意味ではすべて相手に丸投げしているようにも感じられ、何かしらの事故が起こらないとも限らないため、兄機たちは慎重にならざる終えない。

「だがお互いへの過信は、事故に繋がりかねないだろう? だから危ないと言ってるんだ」
「でも本当の事だ! 逆も同じだぞ! フラッシュの時は俺が守る!」

 一切引く様子もないクラッシュにエアーは表情を曇らせ、念のためにフラッシュにも視線を投げるが、クラッシュと同意見のようで意味がない。
 それらの様子を見ていたメタルは、予想通りの話の進み方に小さく溜息をし、バブルは会話を聞き流すだけで既に様子見に徹している。

「あの時、俺に何かあったらクラッシュが直行してきただろうし、その時間ぐらいは耐える。何ならストッパー発動したままの移動も出来ない事ないしな」
「そうだな! 続けて俺がなんとかするぞ! 全部破壊してお前を助ける! それが俺のやり方だ!」

 いつの間にか完成されたお互いをフォローし合う事が当たり前の戦い方。
 本人たちは、それが当然として変える気など無いという言葉がわかるが、最後までエアーやメタルは不服な表情をしていたが、バブルは呆れ返っていたため既に2機を攻めるほどの関心もなくなっているようだ。

「つくづく呆れた弟機たちだよね〜。まるで拘る僕らが馬鹿みたい」
「確かにここまでとはな……」

 バブルの言葉に釣られるようにエアーも諦めたのかため息混じりの言葉を呟く。けれどメタルだけは相変わらずだ。
 先ほどから律儀に黙っているクイックは、少しずつソワソワし始めていた。

「呆れても何しても無駄だ。良い加減諦めろよ」

 平然とした顔で放たれたクラッシュの言葉に、周囲が一瞬止まる。
 止まった事は理解したらしいクラッシュが、不思議そうに首を傾げていると、隣にいたフラッシュがさすがに耐えかねてバシッとバイザーを片手で叩く。
 突然の事に驚いて振り向きながら見上げると、居心地悪そうなフラッシュと視線がぶつかる。

「今の流れで流石にそれは無ぇだろ! メタルたちの顔見てみろよ? 未だかつてねぇ表情してるぞ!?」

 フラッシュに言われて改めてクラッシュは、兄機たちに向き直る。
 すると呆れとも怒りとも取れない、どうにも微妙で不思議な表情をした兄機たちが居て、更にクラッシュは首を傾げた。それから改めてフラッシュを見上げながら口を開く。

「メタルたちが、どう思おうと他に言い方がわからないから無理だ」
「さすが戦闘馬鹿なオニーサマは語彙力が違いマスネー」

 まるで居心地悪さからの八つ当たりのように頭をグリグリと撫で回すフラッシュ。クラッシュは少しだけ不愉快そうにしながらもされるがままで会話に集中していた。

「ゴイりょく? どんなエネルギーだ??」

 そこでフラッシュの動きがピタッと止まる。そして、クラッシュの頭から手を降ろしてチラリと兄機たちを見てからクラッシュへと視線を戻して溜息をした。

「……言葉や単語の知識レベルの事だ」
「そうか! 確かに無いな!」

 素直に受け取れて感心するクラッシュにフラッシュは、また溜息をする。兄機たち側からも少なからず溜息が漏れていたのは気のせいじゃないだろう。

「少しは馬鹿にされた事を理解してくれませんかね? 俺の立場が無くて笑えねぇよ」
「馬鹿にされた?? 本当の事だろ? とにかく俺にゴイリョクが無いってわかるなら、お前がメタルたちに言え。力でなら俺が担当する。それで解決だ!」

 迷い一つないハッキリとした言葉を言われ、フラッシュは、片手で頭を抱えながら溜息をした。けれどその理由がわからないクラッシュは、首を傾げてフラッシュや兄機たちを交互に見て確認するばかりだ。

「……とりあえず毎回俺たちに干渉しまくるの止めて貰えると嬉しいんですけどね? 俺らのコレもう崩す気無いし、一番楽なんで」
「そうだ! 手遅れだ!」

 まるでフラッシュの言葉に加勢するようにクラッシュが横から強く言い放つも、その内容にフラッシュは、またバイザーをベシッと軽く叩き、驚いたクラッシュが抗議するように振り向いて見上げる。するとまた呆れ顔のフラッシュがクラッシュを見ていた。

「もう少し言い方ってもんがあるだろ!」
「……施しようがない?」
「なんで更にイメージ悪化させやがるんだ!」

 既に話が脱線してクラッシュとフラッシュのボケと突っ込みの応酬が繰り返される。
 それを見せられた兄機たちもすっかり冷めてしまい、今は話を切り上げて解散するタイミングを図っているような雰囲気だ。するとここぞと空気を読んだのか、クイックが嬉しそうにバブルを見ながら口を開いた。

「そろそろ良いか? もう良いだろ??」

 バブルを含めて兄機たちは、何の事かと一瞬考えたような間があった。けれどすぐに思い出して呆れた空気が流れる。
 だがクイックは、気づく様子もなくバブルの反応を待っていた。

「ダメだね。もう少し黙っててくれる? あと52,594,876分くらい」
「ごせんにひゃ……長ぇよ!! だったらココに居ない方がマシだ! 走ってくる!!」

 そう宣言すると立ち上がり止める声も聞かずに談話室から飛び出していく。
 まさか飛び出すとは思ってなかったらしいが、バブルは肩を竦めただけで悪気なし。そのままなし崩し的に解散の流れになった。

「フラッシュ、行くぞ」
「また少しお前のパーツチェックさせろ」
「任せる」

 最後のグタグダを気にした様子もなく2機は清々したように談話室を後にした。
 ある意味、会話へのとどめを刺したバブルは、歩行器を使ってさっさと自分のプールへと戻っていった。何気なく残されたメタルとエアーは、溜息を漏らす。

「どうしてこうなったんだろうな……」
「ッ羨ましくなんか無いんだからな! 私にはまだエアーがいる! 博士もだ!!」

 てっきり何か思うことがあって残っていたと思い込んでいたエアーを裏切る形で突如騒ぎ出したメタル。その内容は反応に困るものばかり。

「お前は何を言ってるんだ……」

 残念そうにエアーは、独り騒ぐメタルを見た。



初出 2014.8.27
修正 2018.1.18 光壊


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