:発電+手品+冷蔵
:モブ注意
:発電は懐き仕様
ある街にダイナモとマジック、コールドの姿があった。
最初は、マジックとコールドで必要なモノの買い出しという形だったのが、珍しくダイナモが手を上げたので、マジックが買い出しを担当し、コールドがダイナモのお目付け役のように歩いている。
「お店、いっぱい」
「……場所が、わからなくなるほど、離れないように気をつけてください」
「うん!」
返事と同時に今の高ぶる感情を表現するように軽くパチパチとダイナモから音がした。
ダイナモの機嫌が普段よりも相当良く、最近キングとの関係も上向いてきたにしても良い意味で驚いてしまうくらいで、マジックたちの安心感も増していた。
だからこそマジックは、クスリと笑いつつコールドへと視線を送ると、コールドも軽く頷き、小走りで進むダイナモを追いかけていく。
マジックは、その様子を見て満足そうにしながら自分のペースで歩いていた。
「コールドくんもお店に興味あるの?」
不意に小走りをやめて追いかけてきたコールドを立ち止まって振り返る。コールドは、特に言葉で答える事もなく頷いただけだったが、ダイナモは満足そうにして前へ向き直した。
「いっぱいだから面白いね」
今度は小走りをやめてキョロキョロとなんでも物珍しそうにしては、駆け寄るを繰り返すダイナモにコールドは黙ってついていく。
もう少し進んでいくと広めの通りに差し掛かり、通りの中央部分を使ってそれほど大きくない噴水とベンチなどがある場所に出た。
調度良く店も周囲に揃っていたので、ダイナモを噴水の近くで遊んでいるように伝え、マジックとコールドは、ダイナモの位置を確認しながら手早く用事を済ませていく。
噴水の周りには買い物待ちの子ども連れや子供同士だけというのも少なくない。そんな中、ロボットのダイナモが1体のみでベンチに座っていると興味という意味で注目を浴びるらしく、ダイナモ自身は緊張の繰り返しだった。
それでも時間が経つと存在に慣れてくるらしく視線も感じなくなり、緊張から解放されたとダイナモが一息ついていると、小さな足音がすぐ近くまで来ている事に気づき、一気に緊張が戻ってきた。
「ねぇねぇロボットさん! ついてきて!」
駆けてきながら話しかけられたダイナモは、困った顔をしつつパリパリと音を発する自分の機体に気をつけながら、近づいてきた5,6歳の女の子に視線をあわせる。
言葉の意味は理解していても、突然の事なのですぐに動く気にはなれず、近くに頼れそうな大人も居れば、ロボットですら少々遠くともダイナモ以外にもちゃんと居るのだ。だからこそ警戒する。
「どうして僕なの? 大人がいるでしょ?」
不快感を露わにすると女の子も困った顔をする。それでもそのまま引き下がるような事もなく子供なりに必死に伝えようとしていた。
「ッあのね! ロボットさんを呼んでる人が居るの!」
「僕を? 誰なの?」
今更知り合いが居るような街でもないので心当たりは皆無。なので自然と子供が態々そんな事を言いに来る理由に納得できずに首を傾げて考えこむ。
もっと確実な答えが欲しくなったダイナモが、戸惑いながら聞き返すと女の子もダイナモを真似したように首を傾げてしまった。
「わかんない。呼んできてって言ってた! あっち! ついてきて!」
女の子が必死に指差して伝えてきたけれど、ダイナモはやはり変わらず戸惑うばかり。すると女の子が自然とダイナモに手を伸ばしたので、慌てて立ち上がって距離を置く。
「アッチに居るの! 困ってたの!」
「わ、わかったから! 近づかないで! ついていくから!」
慌てて後退りしながら伝えると女の子もダイナモの様子を少し理解できたらしく、近寄ることはせずに「こわいの? だいじょうぶ?」と首を傾げていた。
けれどダイナモは、気不味そうに口を閉じるだけだったので、諦めたように女の子が先導するように歩き始める。それを見てダイナモは、小さく溜息をした。
「ここ真っ直ぐだよ。ばいばーい」
「え……」
女の子が案内した場所は、ダイナモが休んでいた場所からそれほど遠くない路地の入り口付近。
メインである店の並びに面した道から少し入っただけで特別怪しくもない。だからこそダイナモ自身も思うほど警戒もする事はなかった。
「……僕を呼んだのは誰なのー?」
実際に足を進めても特に変わった場所ではなく、シャッターが目立つ店が並んで人通りが少ないだけだ。
案内してきた女の子は、既に居ないので確認する事も出来ず、首を傾げながら少しずつ進んでいく。
「誰も居ないのかな? 悪戯?」
そう思いつくと自然と足も止まって帰ろうと踵を返す。すると目の前に見知らぬ男たちとロボットが路地の出口を塞ぐようにして目の前に立っていた。
「こんにちは、ダイナモマン」
「こんにちは?」
突然現れた集団に驚きながらも、挨拶された事で不思議に思いながらも応えた。すると男たちは不敵笑うばかり。
さすがに不気味に思ったダイナモが、ゆっくり後退りしていくとロボットたちが捕まえようと一気に動き出す。
「ち、近寄らないで!」
叫ぶような声と同調するようにダイナモが更に帯電して、バチバチと危険な音を大きくしていく。威嚇するには十分だったらしく、男たちはやや後ろへと下がり、ロボットたちも一旦動きを止めた。
「おじさんたち悪い人でしょ!」
「正解。じゃあ、大人しく捕まってもらおうか? ある程度対策が出来てる! 捕まえろ!」
男が苛立つように強くロボットに命令すると帯電したダイナモへ捕まえようと手を伸ばす。
ダイナモが恐怖で逃げようとしたが、次の瞬間、間の抜けた「ポンッ」という音がしてダイナモだけでなく男たちやロボットたちまでも動きを止めた。
周囲にキラキラとした紙吹雪が舞い散る。
『さぁさぁ、今日は特別なマジックをご覧に入れましょう!』
「なんだ!?」
響く声にダイナモの表情が明るくなり、次々と「ポンッ」「ポンッ」という音が響いて空から紙吹雪が舞い散って、お祭りのような雰囲気を演出していた。
男たちもダイナモも空へ注目し、紙吹雪が舞い散る様子を各々の反応を加えなが見上げていた。
「普段ならば、貴方のような者たちに見せるのも不快極まりないのですが、ダイナモのためとあれば仕方がありません!」
「何言ってやがる! お前ら始末……!?」
男たちの更に後ろに現れたのは、紛れも無く買い物途中のはずのマジック。
いつも戦闘時に使っているステッキでカツンと地面を突いていたので、不機嫌なのが伺えた。
先程から命令していた男が、慌てて視線をロボットに移したが、ロボットたちはいつの間にかマジックカードを受けて満足に動けなくなり、その場に座り込んでいた。
「KGNに手出しする事は、やめて頂けますか? 加えてマスターに仇なす事は我々が許しません」
ステッキで男たちを指し示しながら強く言い放つ。
すると男たちは、悔しそうに歯を噛み締め黙り込んだ。マジックは、これで終わりだと判断し、男たちよりもその奥にいるダイナモの様子を伺うように視線を動かした。
すると茫然と男たちを見るダイナモの姿があった。
「おじさんたち、キングに酷い事するつもりだったの?」
「だったらなんだ!」
開き直ったように男が叫ぶとダイナモの表情がなくなる。
それにいち早く気づいたマジックだが、何か言葉を発しようとした途端に男たちの悲鳴が上がって全員がその場に倒れてしまった。
やや大きなバチバチという音がダイナモから聞こえる。
「キングに酷い事するのダメなのに……」
ポツリと男たちを見ながら呟くダイナモ。マジックは、片手で頭を抱えるようにして溜息をついた。
ダイナモが元いたベンチにはコールドが座って帰りを待っていた。荷物番兼行き違い防止らしい。そして、合流するなりマジックが口を開く。
「いいですか! 知らない人には付いて行ってはダメですよ!」
「でも最初は、女の子で……」
最初からマジックの言いたい事もわかっているらしく、しょんぼりと肩を落とし、視線を下げたまま呟くダイナモ。
その様子を見れば、十分に反省し理解していると取れるが、マジックは話をやめる事はなかった。それにはコールドも同意らしく、黙ってベンチに座ったまま止める事なく2機を見ていた。
「女の子でも男の子でも知らない人に変わりはありません!」
「……ごめんなさい」
先程の出来事も手伝って、いつもより強めに言った事も自覚していたマジックだったが、段々と泣きそうになってくるダイナモにマジックもさすがに焦りだす。
すると助け舟のようにコールドが動いた。
「……心配してるだけです。マスターも心配します」
「そうですね。今度から同じ事があったら、私達に声をかけてくださいね? 約束ですよ?」
「うん。子供でもロボットでも、ちゃんと知らせるよ」
その言葉が終わりの合図になって、お互いの雰囲気も明るくなった。けれどすぐにマジックの表情が少し曇り、ダイナモとコールドが不思議そうに注目した。
「ダイナモ、マスターには今日の事、伏せておいてくださいね?」
「どうして?」
その言葉にダイナモは首を傾げたが、コールドは納得したらしく小さく頷いていた。マジックは少し真剣な顔になってダイナモを見て「お願いしますね?」と念を押していた。
「……マスター、暴走すると危険です」
「うん? よくわからないけど、秘密にするね」
「くれぐれもよろしくお願いします」
そして、不意の言葉でバレて一騒動起こるのは、お約束。
終
知ったら男たちを草の根分けても探し出し鉄槌を下すとか言い出すウチのキングさんです。
初出 2013.9.1
修正 2018.1.21
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