:波が何か失敗したよ!
:波は変態じゃないよ!
:素だよ!深い意味はないよ!
スターとクリスタルが他愛も無い話を交えて各々自由な時間を過ごしていた時、ドタバタと慌てた足音でウェーブが駆け込んできた。
珍しい姿に2機が自然と視線で追っていると少し遅れて更に珍しい姿が現れた。
「ウェーブ君! 僕から逃げられると思ってんの!?」
「もう来たァ! 勘弁してくれグラビティー!」
繰り広げられる攻防戦は既にグラビティの一方的なモノに変化していてウェーブの言葉の反撃は微々たるものだった。それでも怒りが収まらないのかグラビティの言葉が止まらない。
「久しぶりに見かけたと思えば痴話喧嘩ですか」
「あはは、グラビティーがあんなにテンション高いの珍しいよね」
呆れ顔でクリスタルが呟くと近くに居たスターはそんな気にした様子もなく微笑ましげなやり取りを見るかのように笑っていた。その反応を見たクリスタルは今度はスターを心底呆れた目で見ていた。
「今日という今日は許さないよ!」
その声と共にウェーブが後ろへと尻餅をつく形で倒れこんだ。それを見逃さないようにグラビティーはウェーブの右肩を片足で踏む。
普段なら体格差もあってウェーブが本気で動けばグラビティーが転びそうだったが、重力を前もって操っているらしく床に縫い付けられたように起き上がる様子もない。
「ギャアアア!! 勘弁してく……あ?」
「え?」
重力も加わったことで少しパニックになったウェーブが大げさに悲鳴を上げたが、途中で途切れた。不意打ちだったため、グラビティも驚いてウェーブを確認するように眺める。
スターやクリスタルも何事かと様子を伺っていた。
「……このアングル、良いな」
「ぶふっ」
ポロリと出た言葉にスターが吹き出した。クリスタルでさえ、信じられないモノを見るかのように騒ぎの中心へと釘付けになっている。
そして、今までに無い反応に困ったらしいグラビティーは、ウェーブから視線を上げてチラリとスターやクリスタルへ視線を送る。その表情は困惑していて、意味がわかっていないようだ。
ここでいつもなら助け舟が来るが、2機とも衝撃の余り状況を飲み込む事でいっぱいだったらしい。
いつまでも必死に笑いを堪えているスターと凝視するだけで無言のクリスタルの様子を見て諦めたグラビティー。再度そのままの体勢でウェーブに視線を下げた。
「良いって何? どういう意味? こんな時に言う事なの?」
「いや、カッコイイ……ぞ? 様になるというか、なんだろうなコレ」
「…………」
なんだろうねソレ。コッチが聞きたい。
今のグラビティーの顔は、まさにそんな言葉が似合う。しかも予想外の言葉が立て続けに発せられたためか、処理に戸惑う様子も全然隠せていない。
そして、とうとう判断に困ったグラビティーが、ウェーブに視線を下げたまま動きを止めて黙り込んでしまった。それでも当のウェーブは気にした様子もなく新しいこと見つけた如く無駄に明るい。むしろ楽しそうだ。
「ねぇ、クリスタル」
「なんですか」
先ほどまで笑いを必死で堪えていたとは思えないほど冷静で落ち着いたスターの声に、クリスタルも釣られるように意識を正し、少しだけ身構えて言葉に応じる。
「今どうやったら安全且つ適切な方向に話を戻せるか考えてるんだけど良い案ない?」
「無視が妥当でしょう。下手に触ると悪化しますよ?」
クリスタルは、深く溜息をする。
終
初出 2013.4.24
修正 2018.1.12 波重力