24  




昼頃になると、予知通り大きな貨物船が現れた。
乗員を守りながら承太郎がすぐにオラウータンを片づける。
陸につくと、まずホテルを用意して、
『人形のスタンド』のことをポルナレフに知らせる。
そうすればすればすぐさま人形を一刺しにし、戦いは終わる。
花京院に化けていたスタンド遣いに関しては
誰にも知らせず自分で奴を倒した。
波紋を使えば余裕だったのだが、不意を喰らって腕を傷つけてしまった

「…大丈夫か名前。お前一人で敵と戦うなんて無謀じゃぞ」
「そうです、ただでさえあなたはあなた自身の予知に現れないんだ。あまり危険なことはしないほうがいい」
確かにここは出しゃばらずに承太郎に任せておくべきだったのかもしれないが
戦いは名前の予想通り早く終わらせることができた。
年長二のジョセフとアブドゥルからお叱りを受けて首を下げて反省するも
自分の行動は正しいはずという自信があった。
少し怪我をしても波紋で治せるのだからいいだろうと

「わしらは心配なんじゃ。…わしらは仲間だ、
決して、決して無茶なことはしちゃあいけない」
ジョセフは真剣に、名前と目をしっかりと合わせてそう言った
それは素直に嬉しかった。
ふと、両親が死ぬ前のことを思い出した
夜中に私は寝相が悪くて布団を蹴り飛ばしてしまうんだ
それを父様と母様がこっそり直してくれる。それがなんだかとても嬉しくて、心が小躍りする
たぶん、あれがとても嬉しく感じたのは私を心配してくれていたからなんだ
だから、ジョセフの言葉がこんなにも嬉しい。私を本当に心配しているのだと伝わった

「次から・・・気をつける」
名前は気づかなかないが
承太郎も名前を心配そうに見つめていた、
もっとも、はたから見れば承太郎の表情はいつもと変わらないものだったが
そういったことに勘のきくポルナレフはニヤニヤと見ていた

「承太郎よぉ〜。そんなんじゃ意中のやつは落せねぇぜ〜?
もっとアタックしなきゃよ〜」
突然、呼び止められたと思ったらそんなことか
からかっているのだとはわかっていたがここはフランス人の教えを乞おうと
承太郎は黙ってポルナレフの言葉を聞いてた。

「具体的にどうすればいいんだ」
「いいか、まずは二人きりになるんだ
それでいいムードを作った好きに愛の告白を」
「・・・もういいぜ。」
お前はそれで成功したことがあるのかと言いたいが
二人きりになってみるのはいいかもしれない、もしかしたら名前も自分を意識するかと考えた。
(あいつ全く俺のこと意識してねぇからな・・・)

「俺が思うに、名前ちゃんはお前のことそんなに嫌いでもねーと思うぜ
日本人はシャイだからいけねーよ、もっと自分に素直になんなきゃよ」
もっとオープンに!と叫ぶポルナレフを置いて
承太郎はさっそくホテルで名前の部屋にノックもせずにズカズカと部屋の中に入る。

「…ノックくらいしろ。」
「以後気を付けるぜ。」
口を尖らせ、あからさまに承太郎に不満を抱いている顔だ。
わしわしと掻いた名前の頭は風呂上りなのか湿っていた、近づくとシャンプーのいい香りが鼻をくすぐる。
ホテルのシャンプー類は全て同じで、自分もこれを使ったがこんなにもいい香りには思えなかった。
もっと嗅ぎたい。そんな欲に駆られてベットに座っている彼女の隣に座る

「で、なんか用かよ。…へっくショイィッ」
用件をいつまでも言わない承太郎にしびれを切らし
先ほど以上に苛立った顔をするがそれは自身のくしゃみにより表情を崩す。
(色気のねぇくしゃみだな)

「冷えたんじゃねぇか。ちゃんと髪を乾かせ」
「いいよ、別に。めんどくせー」
「女なんだからちゃんとしろ」
名前は目を丸くした。
ジョナサンからいつもいわれていたことを承太郎がいうもんだから、
血は争えないな、と微笑ましい気持ちになる。
承太郎は洗面台からドライヤーを持ってきて名前の髪にあてる
どうやら自分の髪を乾かしてくれるらしい。これは楽だぞ、と名前は悪い気分ではなく気持ちよさそうにされるがままになる

他人に優しく髪を乾かしてもらうのなんて初めてだった
承太郎の男らしいごつごつした手が頭皮を撫で、強くない熱風が髪を揺らす。

「終わったぞ」
「ありがとう。空条」
「…あぁ」
てっきり、「余計なことするな」と一喝させるものだと思っていたから承太郎は少し戸惑う。乾いた自分の髪を撫で、満足そうに微笑んでいる

「…なぁ。」
「お、やっと用件を言う気になったか。」
「…お前。ボートの上で貧民街出身っていってただろ。」
「…あぁ、そうだが。」
ふわり、と花のような笑顔から途端。険しい顔になる
こんなことを言いに来たはずではないのに、ふと気になってしまったのだ。

「お前、日本人の両親がいただろう。部屋の写真立てを見た
お前がイギリスの貧民街出身なのが信じられない」
「…話しても減るもんじゃあるまいし別に言ってもいいけどよ」
名前はそれほど、自分の過去をコンプレックスには思っていないようで
いつもの調子で自分のことを話した。

「私は貧民街で生まれた。物心ついたとき、両親はいなかった
ただ、卑しい母だというこということは思えている。」
恐らく、仏壇の母のことではない、
写真の中の母親はとても上品で優しそうに見えたし
名前自信。物凄く両親を大切に思っているように見えたが。

「お前の思っている通り、私が言っている母はあの写真立ての母さんじゃあない
卑しい母ってのは本当の母親の話だぜ」
つまり、あの時みた両親の写真は。義理の両親だというとこだ。
ツン、と心臓が針で刺されたように痛む
自分のことではないはずなのに、淡々とこのことを語る名前を見たら承太郎は胸が痛んだ。

「あのクソ女は娼婦だった。ある日、客の相手をしたんだ
その客は母のお気に入りの客だった。幾晩も避妊しなかったもんでついにポンッと私が生まれたってわけさ、まぁ、物心ついた頃には私は捨てられ
その客は私という子供がいることを知らずに帰ったよ、客の戸籍は日本だったかな
まぁ、いまあいつがどこでどうしてるかは知らないが
酒ばかり飲んで、暴力は振るうわ、ろくな人間じゃなかったのは確かだ。」
自分はその頃、周りの愛を一身に受け、何不自由な暮らしをしていた。
皆から愛されいい家に住み、好きな時に好きなものを食える
そんな場所で育った自分を、名前は嫌ってもしょうがないかもしれないと
理不尽だが、人間とはそういうものだ。どうしても自分より優れたものに嫉妬心や嫌悪感が抱くものだ。

「…、それからどうしたんだ。」
「それからは…まぁ、色々あって。お前の見た両親に養子として引き取られた」
色々。その言葉にはとても悲惨な生活が詰まっているのだろう
名前がぎゅっと力強く写真が入っていたペンダントを握る名前の悲しそうな顔が物語っている。もっと深く聞きたかったが…。聞けなかった
承太郎は咄嗟に、名前を抱きしめる。承太郎自身もそんなことする気は全くなく、自分でも驚いた。名前は予想外のことに放心状態にあったが
何故だかこのとき安心したのを覚えている。

「俺にできることがあったら言え。」
「え?・・・あ、あぁ。」
「じゃあ、俺はもう寝るぜ」
「あ、あぁ。おや・・・すみ」
突然パッと手を離し、ズカズカとぎこちない足取りで部屋を出た。

「…何だったんだあいつ…」
ばくばくととんでもない速さで鳴る心臓を抑え
熱い顔を冷やすため、外へ散歩に出ることにした。

(ったく。俺は何してんだ)
そわそわと落ち着かない気持ちをなんとかしようとポケットからタバコをとりだす
が、船で「そういえば名前はタバコが嫌いだったか」とあの嫌悪に満ちた顔を思い出しまたタバコをしまった。


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