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前髪様3





どうしよう。ずんずん無言で歩く前髪様が怖い。ついでに腰も痛い。痛いけどそんな事を言える雰囲気でもないので私の選択肢としては黙ってるしかないのだけれども…




「さてと、私が怒っている理由がわかるかな?」


逆らう訳にも行かず、え、どこ行くの?こっち男子寮だよね?と思っていたら夏油の整理整頓されたお部屋に着いて、ベッドに降ろされた。なんか分からないけどかなりお怒りのようだから、さっさと謝りたい。とりあえず謝って済ませたい。


「………ご、ごめんなさい」


謝ったのにー!とりあえず意味分からないけど、怒りが収まるどころか、険しい顔になって迫って来ている。か、顔が近い!


「謝ると言う事は悪い事をした自覚があると言うことだね?詳しく教えてくれるかい?」


「えと、えーと…」


迫力に押されて少し声が震えてしまった。変な冷や汗をかきながら何を説明したらいいのか困っていると、身体に聞いた方がいいかい?と後に倒されてしまう。片手を顔の横に着き、わ、わ、わ…右手が頬に添えられる。

いったい何を教えればいいんだ。


「何をって夢が昨日、誰と、ナニを、していたのか」


え、え、また心を読まれた!?私実は声に出し…


「声に出してないよ」


えー…どゆこと?何で?いろいろと分からない!そんな、至近距離で睨まないでくれ。そして、いざ意識して目を合わせてみると両目見るって難しいな…片方ずつ見てしまってキョロキョロしちゃう…ってそんな事考えてる場合じゃなかった!昨日は、皆が任務で居なくって、いつもは待機の硝子までいないから伏黒先生と体術の授業で腰が痛くなるほどぶつけて…


「そこ、そこをもっと詳しく」


「だ、だから昨日、受け身がなってないと言われて」


「受け身?」


「うん、受け身の練習でぶん投げられまくって、多分…気絶しました」


「はぁ…」


「うっ、重っ」


な、なんなんだ…溜息の後にそのまま夏油が倒れ込んで押しつぶされてしまう。でも、お怒りではなくなった?今は大人しくしていた方が良さそう。

少しの間押しつぶされて、そのうち背中に腕が回って上体を起こすとそのまま跨るようにお膝に乗せられてしまった。なんだこの恥ずかしい体制。

もう怒ってない?じぃっと見つめられている。うぅぅ…居心地が悪い。


「気絶してどうしたのかな」


「うっ、わからない、です」


「じゃあその後の記憶は」


「気づいたら朝でした」


不味い事を言ったのだろか、また目つきが細く、悪くなってまるで「なにやってんだマヌケ」と蔑まされている気分。言われてないけども。
でも、確かに私はどうやって自分の部屋に帰って寝てたんだろう。そして、そういえばお風呂も入ってないから臭うかもしれない。逃げたい、離れたい。

そんな私の心をまた読んだのか、嫌がらせのように逞しい腕でグッと引き寄せられ…


「ひゃあっ!?んな、な、」


「本当だ、少ししょっぱいな」


首筋をベロリと舐められた!?


「フフ、真っ赤になって可愛い。そんな可愛い顔されると私も我慢できないな」


「ちょっ、まっ」


わっわっわっ!ちょっとーー!!

私は抗議の声を上げられなかった。それはそれは美しい前髪様のお顔が近づいてきたもんだから、これは不味いと思ったけど既に遅し。夏油にまたしても口を口で塞がれてしまい、ちょっとと言いたくて開きかけた口からヌルリとしたものが入り込み、私の舌に絡められる。夏油の舌!と理解した時にはもう、私の舌を舐められたり吸われたりして身体に力が入らなくなってしまった。なんだかふわふわするし、こ、ここれは大人のキスのやつだ。あぁ、どうしよう力が入らない、何これ、凄い。

暫くして唇が離れて、やっと満足に酸素を取り込めた。


「蕩けた顔をしてるね。私のキスはそんなに良かったかい?」


「な、何と言うか……すご、凄かった、です」


素直に感想を述べるとぎゅっと抱き寄せられて、私の肩口に顔を埋めた夏油が次は耳を舐めてきたもんだから変な声が反射的に漏れた。自分の声じゃないような厭らしい声。私じゃないのかもしれない。だって身体も変なんだもん。


「私も凄く、興奮したよ」なんてそんなとんでもないことを耳もとで低い声で呟かれ、お腹の下のほうがギュンと重く苦しくなって、もういっぱいいっぱいでどうしたらいいかわからなくて、夏油の体操着をぎゅっと握ってなんとか耐えた。


「続き、いい?」


「へ?」


ゆっくりとベッドに押し倒されて、またあのすっごいやつをされるのかと思って目を瞑ると、思っていたあの感触はやってこなくて片目を開けると…

身体を起こして体操着のファスナーを下ろして脱ぎ、中に着ていたTシャツまでも脱ぎだした。それはそれは素晴らしい色気を放つ筋肉質の上半身裸をさらけ出して。本当に同い年かな?そして、なんか目がいつもと違う。怒ってるとも違うんだけど、鋭い目。


「ちょ、ちょっと待って!」


「煩い口は塞ぐよ」


煩かったらしい口はまたしても覆いかぶさって来た夏油に塞がれて、あ、これ私ダメだ。これされると頭回らなくなる。なんか、不味いと思うのに力は入らなくて好き勝手にされてしまう。何これ、そーゆー術式?なんて思っていると私の体操着のファスナーを器用にも見ないまま下ろされて、Tシャツの裾から大きくて熱い手が侵入してその手が身体をなぞりながら上に登ってくる。
本当にどうしよう、どうなっちゃうんだろうと思っているとドアがガチャガチャ鳴った。





「おー授業サボって盛るとは生意気だな」


「夢ー無事かー」


「スゲー臨戦態勢ウケる」


鍵を開けて玄関に入って来た面倒臭そうな伏黒先生の後ろから顔を出す硝子と五条。硝子ニヤニヤしながらこんなところ写メ取らないで!そして、半分無事じゃないよぉ!五条もカメラ構えるな!覆いかぶさったままの夏油の横顔はとても不機嫌そう…




その後はその後で大変だった。
突入して来た3人を無視して、先程の続きを始めようとした夏油を伏黒先生が止めに入り、また喧嘩が再開。硝子はまた写真撮ってたけど、夏油の部屋の隣室の五条が自分の部屋まで壊れるのは勘弁とすぐに止めてくれてなんとかなった。また、グラウンドに向かう事になりズキズキする腰を庇いながら歩いていると突然の浮遊感。なんと夏油にお姫様抱っこされている。


「急に何!?」


「腰痛いんだろう」


う、確カニ痛イッス。でも、これは恥ずかしい。


「ほら、掴まって」


「…はい」


どうせ抵抗もできないし、腰痛いしで動けないので大人しく言う通りに前髪様の首に腕を回して、ついでに恥ずかしいので顔を見えないように肩口におでこをくっつけて隠す。頭の上でフッと笑う声がした。


「可愛いことしてくれるじゃないか」


「夏油、何てことしてくれたの」


「夢が隙きだらけなのが悪い。私以外に触らせては駄目だ、お仕置きだよ」


「触らせる?」


何のこと?と思えばまたよくない事を言ったのだろう。目つきが悪くなる。これはあれだまた絶対蔑まされているに違いない。もう、何だよう。


「はぁーーー…分かってないな。君は昨日気絶して気付いたら寝ていたと言うことは、君の身体を部屋まで運んだ者がいると言うことだ。部屋の鍵を開けれるのは教師か私だけ、昨日はあのオッサンが君の身体に触れて運んだんだろう、許せないな」


…いや…ちょっと待って、私も許せないな。部屋の鍵を開けれるのは教師か私だけっておかしいよ。昨日も知らない間に部屋に入って来てたみたいだけど、普通に鍵持ってるの!?呪霊操術とかじゃなかったのね!?


「私の部屋の鍵持ってるの?」


「持ってるよ」


何か普通に答えられたけど…何かおかしい?みたいな不思議な顔をしてるけど可笑しいところしかないよ、前髪様め!だんだん腹が立ってきた。
ムッとしていると顔に出ていたのか、それと、と呟いた前髪様の顔を見るとニッコリ笑っているけど何だか圧を感じる。


「夢、いい加減私のことを前髪様と呼ぶのは辞めようね」


「ひぃっ、ご、ごめんなさい」


「今後私のことは名前で呼んでくれたら許してあげるよ」


「いきなり呼び方変えるのはなかなか難しいと…」


「ん?」


「呼びます!呼ばせて頂きます!」


「良かった、じゃ呼んでみて」


「すー、すぐ、すぐる?」


「はぁ、可愛い…可愛いよ夢!」


「ちょっ、ちょっと止めて!」


興奮気味にぎゅーっと抱き始められて頬にちゅちゅっとキスをしてくる。キャラ可笑しくなってるよぉ!


「だぁーー!!止めろ傑っ!さっきからいちゃいちゃしてるの聞こえてったら!こっちは寒イボ立ってっから!」


「ふふふ、すまない。つい嬉しくてね、フリーの悟への当てつけみたいになって」


「はぁ?何いってんの?お前だって付き合ってねーだろ、勝手に彼氏面してんじゃねーよ、オッエー」


「なんだと?ちゃんと告白の返事は貰ってるよ」


「へ?」


「夜な夜な夢の部屋に忍び込んで寝言で貰った返事を鵜呑みにしてんじゃねーよ、ヘタレ」


「へ?」


「聞き捨てならないな、外で話そうか、悟」


「寂しんぼか?1人でいけよ」


「外で話そうって外行くんだろうがガキ共、さっさとしろ」


「「うるせー!クソジジイ!」」




何はともあれ、生徒2人と教師1人三つ巴の喧嘩という名の体術の授業が始まったようで、危ないから下ろすねとやっとこさ恥ずかしいお姫様抱っこから解放されて、硝子と2人グラウンドの階段に座って観戦。


「元気だなー彼奴等」


「そうだねー硝子」


「で、夢は夏油どうするの」


「に、逃げれると思う」


「無理だと思うぞ。せいぜい目一杯愛されな」


「ははは…お手柔らかに、お願い、してみようかな」


end.

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