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前髪様




「夢、どこに行くつもりだい」


「……ちょっと…いえ…何処にも、行きません」


見つかったぁぁぁ!最悪だぁああ!!


あともうちょっとだった。
教室の窓から逃亡しようと、窓枠に乗せた片足をゆっくりと下ろし、窓枠を掴んでいた手も離した。逃げれない。従うしかない。背後から宜しくないオーラをビシビシ感じる。大人しくこのドS前髪様に従うしか道はないと言うのに素直に振り向いて許しを請うのを拒む自分がいる。
しかし、そんなモタモタしている私をドS黒髪前髪様が何時までも待ってくれるはずもなく、気づけば教室の入口にいたはずなのに誰かが右肩を掴んだ。誰が肩を掴んだかなんて分かりきっている。ドS鬼畜黒


「イタタタタ!」


「私が任務の報告をしていたというのに夢はお手洗いに行くと行ったきり戻って来ない。仕方ないから私が全て報告を終わらせて教室に戻って来れば…何処に行こうとしているんだ?私は優しいからね、この後は弱っちぃ君を強くする為に体術の特訓をしてあげると言っただろう?それなのに、君は、」


「イタタタタッ!ごめ、ごめんなさいぃぃぃ!」


足音も無くいつの間にか背後に立っていたドS鬼畜変態黒髪前髪様が私の肩を掴む手にもっと力を込めてきて、これ以上は私のそんなに華奢でもない肩が粉砕されそうになったので謝りたくなかったのに口が勝手に謝っていた。ちなみに変態かどうかは知らないし、知りたくないけどきっと変態に決まっている。だって、前髪一房だけプラプラさせて、拡張ピアスにぼんたんみたいな制服。普通じゃない。普通じゃないのに態度だけは優しい紳士ぶったり常識人ぶっている。そんなやつ変態に決まっている!いや、やっぱり変態の象徴はその前髪やっ!と言うか、何故私だけには優しい紳士になってくれないのだ。おかしいだろ、不平等だ。

肩の痛さから逃れるように崩れ落ちて床にへたり込む。そして、振り向いて見上げると…やっぱり振り向かなきゃ良かった。ドS鬼畜変態えーと、バカ!


「私は馬鹿ではないよ。少なくとも夢よりはね」


「すぃまふぇん…」


え、伝わったの!?心の中で悪態ついたの伝わったの!?バカと言った瞬間にドS鬼畜変態、バカは止めておこう…えーとドS鬼畜変態クズ!……よし、大丈夫なようだ。クズ黒髪前髪様がヤンキーのようにしゃがんで私の頬を摘んだのだ。
またまた、ちなみにクズかどうかは知らないけど硝子がいつも五条とドS鬼畜変態えーと、ヤンキー?クズ黒髪前髪様をクズと呼んでいるからクズなんだと思う。何したか知らないけど悪い事してるんだろうなー。2人共高身長&イケメンだから、ついでに声までいい。ズルい。きっと女の子を沢山誑かせて、きっと泣かせているんだ!女の敵っ、え?なんか、ほっぺを摘まれて引っ張られていたと思えば今度は笑顔でほっぺを撫でられた。


「え」


「ん?」


先程までの宜しくないオーラが和らいだのは気のせいかな?ご機嫌にも見える、えーとドS鬼畜変態…ヤンキーだ!次、何にしようかな?イケメン!悪口じゃなくなったけどいや。ドS鬼畜変態ヤンキーイケメンクズ黒髪前髪様はするすると長い指で何故か私の頬を撫でる。ちょ、昨日、顎辺りのニキビ潰したり、気になる角栓押し出したりして肌がポコっとしてるところあって恥ずかしい!触らないで!気づかないでー!

え?やっぱりこれ心の中読まれてる?でも、そんなニキビ事情まで読めるものなの?
でも今度は顎周りを探るように指先が動いているような…


「ニキビは潰さない方がいいらしいよ?」


「ぅえ?あ、はい?あの、もしかして私、考えてる事口に出てる?」


「出てないよ」


じゃあやっぱり読まれてるってこと!?
てゆうか、ちょっとドS鬼畜変態前髪様!あれ?かなりすっ飛ばしたな。って考えてる場合か!なんで唇触るの!?


親指で唇を撫でられた私の顔は今、赤くなってるに違いない。恥ずかしい。逃げたい。けど、逃げられる気がしない。


「フフ、目を瞑って私にキスを強請っているのかい?」


「ちがっ!?」


恥ずかしくて目を瞑ってしまったけど、キスを強請ってるとか変な事言われて目を開けたらドS、イケメンの顔が近づいて来ていて、


「ちょっ、ちょっ、え、」


左手は壁に着いて、右手は私の顎を掴み近づいてくるお顔に逃げることも目を逸らすこともどうする事もできず…




スパーンッ


「傑ー!桃鉄やろうぜー!…ってありゃ?」


「…悟」


「夢ー大丈夫ー?」


神の助け!何時もは私の事を馬鹿にしてくるムカつく五条が今は神様に思えた!


私の勘違いで無ければあと数cmで、あとちょっとで夏油にキスされるとこだったと思う。

馬鹿みたいに元気よく教室のドアを開け放って現れた五条のお陰でよそ見したドS…もう前髪でいい!前髪様から逃げて、五条の後ろから顔を出した硝子に抱きついた。


「硝子ー硝子ー!」


「また夏油に虐められてたの?」


「とんでもない、可愛がってただけさ」


「ごめーん邪魔した?」


「した」


可愛がってたって何。邪魔したって何。いや、邪魔じゃないよ!すっごくいいタイミングで来てくれたよ五条。グッドタイミング五条だよ、GTGと今度から呼ぶ事にするよ。初めて五条が来てくれて嬉しいと思ったかもしれない。いや、それは言いすぎた。何時も任務で助けてくれてありがとう。


「まぁいいっしょ。お菓子もあるし、桃鉄しようぜー」


「悪いが私はこれから夢を鍛えなきゃいけない。あんなに弱いと呪霊どころか、一般人にも負けてしまうかもしれないからね」


「酷い」


「いや、夢なんて鍛えても無駄無駄。無駄だしそんな事しなくても傑が守ってやれば良くねー?」


「…それもそうか」


「じゃあ桃鉄やろうぜー」


自分勝手な五…GTGは頭の後ろで手を組み、寮の方へご機嫌に鼻歌を歌いながら歩いて行く。私、桃鉄飽きたんだけど。どんだけ桃鉄好きなのGTG。


とりあえず、ようやく落ち着いてきた自分の心拍数にため息をついて、私と硝子もGTGの後を後を追う。すぐ後ろから前髪様の足音がして、またちょっと心拍数が上がってしまう。さっきのは何だったの。いやいや、忘れよう思い出したらまた顔が赤くなって…




顔が赤くなりそうだった私の腕を後ろから掴んで引っ張ったと思えば、腰に回る腕と唇に触れた感触。柔らかな唇に挟まれた。後ろから聞こえる硝子の驚く声。


「私が守ってあげるけど、一般人に勝てるぐらいは強くなろうね」


唇が離れるといつもの胡散臭いような紳士的な笑みを浮かべて、今、首まで真っ赤になってそうな私に夏油が言った。



な、なななんて事を。固まる私にさ、行こうと背中を優しく押されて訳が分からないまま歩く。
混乱する私の耳に硝子と五条の会話。


「なんかあった?」


「コイツやりやがった」


「何を」


「今キスした」


「今?うけるねー。俺も見たい。傑もっかいやって」


「かまわないよ」


「だめ!だだだめ!」


背中を押していた腕が抱き寄せて来て、焦って夏油の胸に手を置いて距離を取る。


「やっぱり夢の可愛い顔を悟に見せる訳にはいかないから、止めておくよ。悟が惚れたら大変だ。」


可愛い…可愛いって言われた。
私のこと可愛いって思ってたの?うそ、じゃあキスしたのはすすす好きだから?


「惚れねーし」


「夢はね、私も悟の事も高身長&イケメン。おまけに声もいい。と思ってるらしいからね、悟にライバルになられるのは厄介なんだ」




ちょっと待って…
いきなりキスしてきたり、可愛いとか言ってきたり、私がさっき思ってた事言い当てたれたり、


全てどーゆーことぉぉぉぉお!?



end.


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