キメツ幼稚園〜番外編3
「うぅぅえぇぇぇぇん!ひっ、ひっ、うぅぅえぇぇぇぇん!」
「泣かないで」
凄い勢いで泣いているのは実弥が大大大好きな女の子の夢ちゃん。
いつもは実弥が好き過ぎて意地悪をして泣かしたり、スカート捲り過ぎて泣かしてしまうが今日は違う。
「うっ、ひっく、さぁ、ねみ、くん…うっ、ごぉめん、ごぉめんねぇ、うっえぇぇぇん!ひっ、ひっく、ごぉめんねぇえぇぇぇ!」
実弥に悪いことをしてしまったと、謝りながら大泣きしているのだ。
謝られている本人は夢が酷くショックを受けた事に心を痛めており、どうしようと困惑している。
泣かないでと言っても収まる様子は泣く、涙で濡れる目を優しく拭いてやって、涙はどんどん出てくる。
「おれは怒ってないよ、泣かないで」
実弥の言葉に泣きながら、首を横に振り、またごめんね、と繰り返す女の子。
どうしてこんなことになったか…
「実弥くん!実弥くん!昨日ね、テレビでお仕事体験出来るところがあるってやってたの!お母さんに今度、実弥くんと行きたいなってお願いしたんだぁ!」
お母さんが作ったお弁当を皆で仲良く食べながら夢が言った。
皆で食べているのだが、゛実弥くんと行きたいなって゛と言われて、嬉しい言葉が実弥の中でエコーがかかったように再生され、1人ふわふわとしたが幸せな世界へ旅立ってしまった。
天元が不死川〜あとでドッジボールしようぜ!と話かけるも無反応。
「実弥くんは何のお仕事体験したい?」
「仕事…お巡りさん、とか」
幸せな世界にいても、女の子の呼び掛けだけは聞こえるようで、即座に反応し、天元は面白く無かった。
「私はね!たーくさん体験してみたい事あるんだ!おはぎ屋さんとかあるかな?そしたら、実弥くんにおはぎ作ってあげられるよ!」
好き。もう大好きって叫びたい。抱き締めてどれだけ好きか伝えたい。
また、実弥が幸せな世界に旅立って好きが爆発しそうなのを耐えていると、女の子は皆にも質問をした。
お医者さんやってみたーい、や、キメツヤイバーになりたいなど可愛い意見が飛ぶ中で、王様!鮭…など変わった意見もある。
昼食後にドッチボールを誘われた実弥は、ドッチボールを断り、お店やさんごっこをしたいと言うと
一緒に遊ぶ事にした。
天元が、明日はドッチボールするからな!聞いているのか!おーいっ!と実弥の後ろ姿に叫ぶが、夢と手を繋いで、こっち!実弥くんこっち来て?と可愛く話しかけられている今は、天元の声は届かない仕様になっているから不思議。
「あのね、美容室ごっこしたいの!」
コクり頷くと、夢は嬉しそうに笑い、実弥を椅子に座るように促す。夢が楽しそうに笑うから、実弥も連れて笑顔だ。
「お客様〜今日はどうしますか〜?」
いきなり始まった美容室ごっこ。
女の子は店員になりきっている。お母さんに美容室へ連れてきてもらった事はあるが、リクエストを自分でした事がないので、慣れないことにもじもじしてしまう。
「えっと、髪が伸びたので切りにきました」
「分かりましたー!じゃあ、毛先をそろえる感じで切っていきますねー!」
ニコニコしながら夢が実弥の髪を手櫛でとかしていく。
聞いたことのあるようなセリフで本当に店員さんみたいだし、大好きな子に触れられて実弥はドキドキだ。
実弥の前髪を指で伸ばし、どこからか持ってきたハサミでチョキチョキと切るフリをしている。その表情は真剣で、顔が近い。
幼稚園にいるのを忘れて、2人だけの空間にいるような気持ちで幸せいっぱいの実弥。
前髪を伸ばしてはチョキチョキと切るマネをしていると…
゛ジョキンッ゛
「あっ」
なんと本当に前髪を夢が切ってしまった。
「ごめん、ね、実弥くん、ごめんね」
「大丈夫だから」
泣かないで、と実弥が声を掛けようとした瞬間にポロポロと涙が零れ落ちて、次第に声を出して泣き始めてしまい、声を聞いた錆兎先生やって来て、短くなった実弥前髪に、落ちてる髪の毛を見てビックリ。
更に錆兎先生の反応でショックを受けた夢が大泣きしてしまい、抱っこして落ち着かせようとする錆兎先生だが、それを阻止すべく実弥が夢に抱きついてよしよしと頭を撫でてやる。
そうしてるうちにドッチボールしていたはずの園児が集まって実弥を冷やかし始めた。
「ヒューヒューお熱いねー」
「前髪が、真っ直ぐだな!」
「う、うるせー!どっか行けー!」
天元達に冷やかされた翌朝、髪を短くした実弥は母とそわそわしながらバス停で待っていた。
昨日、怒ってないよ、大丈夫だよ。とたくさん言ったけど、夢は落ち込んだままだったのだ。
「おはようございますー」
大好きな夢のお母さんの挨拶で振り向くと、そこにはお母さんの後ろにいる夢の姿。
なにやらもじもじしている夢がお母さんに促されながら、実弥に小さな紙を差し出してきた。
それを受け取り、開いてみると…
『さねみくんへ ごめんね』と書いてあり、その下には女の子と実弥がニコニコ笑って手を繋いでいる絵が描いてある。
「実弥くん、これからも、仲良くしてくれる?」
「うん!もちろんだよ!」
そう言うと、実弥くん大好き!と夢がぎゅっと抱きついてきたもんだから、朝から実弥は幸せな世界に旅立ってしまい、双方の母はあらあらと微笑むのだった。
end.
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