キメツ幼稚園〜番外編2
「さーねーみーくーん!あーそーぼっ!」
チャイムを押して元気な女の子の声。
インターホン越しに聞こえたのか、それとも開けていた窓から聞こえた夢の声に反応したのか、家の中の階段を掛け降りる音がする。
数秒後、靴を履きながら元気良く実弥が玄関の扉を開けて出てきた。わくわくして仕方がない感が満載。
「実弥、暗くなる前に帰ってくるのよー」
「わかったー!」
実弥の母親に見送られて家を出る。
「実弥くん、行こう!」
「うん!」
二人は今日、探検に行く約束をしていた。
先日、父親と一緒に見た冒険映画に影響された、実弥の大大大好きな夢が探検に行きたいと言い出したのがきっかけ。
調度近所に立ち入ったことの無い場所があり、今日はそこへこれから行く。
「チャンチャラチャーン♪チャンチャチャーン♪」
ご機嫌に映画のメロディを歌いながら、実弥と手を繋ぎ、繋いでる手をぶんぶん振って楽しそう。
可愛らしい笑顔を向けながら、自然に手を繋いで実弥の心を鷲掴みにする、とんでもない小悪魔的なことをさらっとしてしまうこの女の子が実弥は大大大好きなのだ。
手を繋いでくれる事も、自分と一緒にいて楽しそうにしてくれるのもそれはそれは嬉しくて、このホワホワと受かれた気持ちは何なのか。込み上げてくる幸せな気持ちに悶えそうになるのをなんとか押さえる。
夢も自分と同じ気持ちになったりするのか、自分と同じ気持ちになってほしくて、たまに勇気を出して自分から手を繋いだりしてみるが、夢は嬉しそうに笑っていて余裕があるように見える。自分は夢に触れられたり、話かけられたりすると嬉しくて余裕なんて全くなくて、押し寄せる幸せのダメージに負けないように耐えているのに、余裕がある夢はなんかずるい。とたまに実弥は思う。
数年後に『惚れたら負け』と言うフレーズを聞き、実弥はもう幼稚園の時から俺は負け(?)ていたんだ!一生夢には敵わないんだ!と衝撃を受ける事になる。
家の近くに土手があり、土手と住宅地の間にちょっとした森のような場所がある。
草木が生い茂り、例え迷子になっても少し歩けば直ぐに脱出できる大きさだ。
あの森に言ってみたいと言われた時、安全な所か事前に1周回って、なんとかなる大きさだと言うことは確認済。
実弥はそういった所が幼稚園児にしてはとてもしっかりして、たまに天元に中に親父入ってんのか?と言われてしまう。
「では、隊長!探検開始です!」
「隊長…」
頼られている感じがしてとてもいい響き。
「危ないかもしれないから、俺の後ろに着いてこい」
「はーい、隊長!」
縦に並んで森の中に入っていく。
繋いだ手は離さずに。
背の高い草は引っこ抜いて、大大大好きな子が歩きやすいにしながら、隊長実弥は進む。
少しずつ進み、途中綺麗な蝶々を見つけたり、いつもとは違う新鮮な地にワクワクしていると少し拓けた空間に出た。
「隊長!ここを私たちの秘密基地にしよう!」
『秘密基地』…なんて魅力的な響きだろう。
「うん!」
それから二人は土手に落ちていた植木鉢や木の板を拝借してベンチを作ったり、家から小さいスコップを持って来てベンチ周辺のデコボコを整地したりと黙々と作業をしたらアッと言う間に時間が過ぎて行った。
もう、夕方か。名残惜しけど帰らなくてはいけない。
「実弥くん、今度は花壇作ろう!お花植えるの、いいでしょ?」
「うん、やろう。また今度」
手が汚れている2人だけれども、やっぱり帰りも仲良く手を繋いで帰る。
次の約束で嬉しくなって、お別れの寂しさが半減。
「秘密基地は2人だけの秘密だからね!」
そう言い、バイバ〜イ隊長!と家に入って行った夢に実弥は今日もまたメロメロにされて、幸せいっぱいで浮かれまくって帰宅したのだった。
end.
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