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君のご飯がうまいっ! 〜後編〜





「ここに来るの久々だね」


「うむ」


「飲みに行こうなんて珍しいね」


「そうだな!」


変です。杏寿郎が変です。
先ほどから会話が続かない。
え、なになにこの感じ、何か重要な事を話されるの?

頭に浮かぶのはネガティブな内容。
お別れ?私の事をもう好きじゃなくなった。他に好きな人ができた。同棲を辞めたい。
なんだろう…嫌だよ杏寿郎。


不安な気持ちのまま、杏寿郎と地下の階段を降りていく。
何度か訪れた事のあるbarの扉を開くと、そこにはやはり宇随くんがいた。とても同じ大学生には見えない。
同じ大学で杏寿郎のお友達の宇随くんはここのbarでアルバイトしおり、大学でもバイト先でも女性に大人気。学祭の時なんて、宇随くんの後をくっついて来る女性が長蛇の列になってしまい、その先頭にいる宇随くんは大人数を束ねるツアーコンダクターのようで、兎に角、常軌を逸した人気を誇る人物。
そんな宇随くんが働くbarはいつも混んでいるんだけど、今日は珍しい。お客様が私達だけのようだ。


「いらっしゃい」


「すまん宇随、邪魔をする」


「お邪魔します」


スッとおしぼりにお摘みのナッツ、杏寿郎にはお洒落なグラスに入ったビールと私にはスパークリングワインが出された。

乾杯して飲み始めちゃったけど、高そうな気がするけど大丈夫だろうか。貧乏生活が身に付いてしまった私は、いろいろ不安な気持ちのままお酒を頂く。
やっぱりご飯とかいろいろケチリ過ぎて、パーとお金を使いたくなったのかなぁ、もう節約生活うんざりしちゃったのではないかとかネガティブ思考は加速し、もうお酒の味なんかよく分からない。


「今日は、報告があるんだ」


早速来た。やっぱり、いつもの杏寿郎と雰囲気が違うのは間違いではなかった。
なんだ、なんなんだ!トドメを刺すなら早くして!そんな心境で杏寿郎をじっと見つめる。


「実はな…教員採用試験の合否が出た」


「うそ!?もう出たの!?」


「うむ!」


「で、どうだったの?」


この緊張感はもしかして駄目だったの…?杏寿郎、とても努力していたし、私も本当に教師に向いていると思うのであまり心配していなかったのだけど…


「合格した!」


「 ! …おめ、おめでとう!」


「ありがとう!」


にこっと笑った杏寿郎に肩の力が抜ける。
もう、こんなに緊張感出さないでよね!と思ったが、そもそも私の勝手な思い違いだったんだと思い、口にはせずに純粋に杏寿郎の合格をお祝いすることにした。


「杏寿郎は受かると思ってたよ」


「ちなみに俺も受かりました〜」


「えぇ!?宇随くんも受かったの!?わぁ、おめでとう!」


「あんがと。しかし、なんだその反応は」


宇随くんの容姿からして教師っぽくないと思っていて、正直難しいのではと思っていたので驚いてしまった。
聞けば杏寿郎の友達は冨岡くん、伊黒くん、不死川くん皆が合格したようだ。凄すぎる。

杏寿郎の笑顔が見れたところで私も一安心。やっと美味しいお酒の味がした。


それから安心した私は口数も多くなり、学生生活も後半年と残っていないと言う話から過去の思い出話で盛り上がった。
皆でキャンプに行き、BBQの火起こしで宇随くんが着火材を入れすぎて凄い勢いで燃え上がり、炭が即灰になってしまい、まだお酒を飲んでいなかった免許取り立ての冨岡くんのスリリングな運転で炭を買い足しに行った事や、鍋パをやって酔った勢いで、ワックスを使って男性陣の髪型をスーパーサイヤ人にした事、授業中に珍しく寝ていた不死川くんの教科書を拝借して、人や動物のイラスト全てに吹き出しをつけて、「おはぎ食べたい」と悪戯した事、私たちはプライベートから授業中まで沢山の時間を共に過ごしてきたので話が尽きない。

barにお客さんはまだ来なくて、宇随くんが定期的に料理やお酒を注文しなくても提供してくれる。お酒もその時の料理の飲み物に合わせてくれいるみたいだ。


「そろそろデザートでいいか?」


「うむ…頼む」


「あ、ちょっと私はお手洗いに行って来るね」


結構酔っぱらってしまった。
少しふらつく足取りでお手洗いに向かう。
それにしてもお客様さんが来ないなぁ。あれだけ人気だったのに大丈夫だろうか、お店が潰れないか心配。

楽しい時間はあっという間で、節約はしなきゃだけどたまに皆で集まって飲みに行きたいと思う。




お手洗いから出るとお店が静かな事に気づく。
あれBGMは?そして、何か暗い。
お店のホールに戻ると薄暗く、何故かそこに一人、スポットライトで照された杏寿郎が立っている。


「杏寿郎?」


不思議に思いながら傍に行くと名を呼ばれた。


「うん?」


「高校で君と出会ってから約7年。色んな思い出ができた。今でも君と過ごす毎日はとても楽しく、幸せだ」


何だろう、杏寿郎がゆっくり話し出す言葉に背筋がぞわりとする。


「節約しながら、毎日美味しいご飯をありがとう。君のつくるご飯を毎日楽しみにしている。学業をしながら、家事にアルバイト。大変だっただろう。それでも、一緒に同棲生活をしてくれてありがとう」


杏寿郎の言葉を聞きながら、込み上げてくる涙を必死で堪える。


「君といれば俺は何だって乗り越えられる。苦労をかける事もあるかもしれないが、それでも全身全霊全力で君を幸せにするよう努力する!俺は7年間経った今でも変わらず夢が大好きだ!」


我慢していた涙がとうとう溢れ出してしまった。
杏寿郎が一歩近づくとジャケットから小さな箱を取り出し、開くとそこにはキラキラと輝く指輪。


「夢…俺と、結婚してほしい」


「ぅん、うん、グスッ、宜しく、お願い、します」


パーンッ!パッパッパーン!パーン!


「おめでとう〜!」


杏寿郎のプロポーズに勿論、YESの返答をした直後、激しくクラッカーが鳴り、よく見知った面々がbarの入り口からどっと現れた。一学年下の竈門達もいる。

barの照明も明るくなり、BGMも復活。ただ、BGMはGReeeeNの愛唄に変更されている。


「夢ちゃんも煉獄さんもおめでとうー!」


「うむ、ありがとう!」


「おめでとう!素敵だわぁ!」


「テメェらァ!まだ早ェだろうがァ!煉獄が夢に指輪嵌めてからだろうがァ!誰だ先にクラッカー鳴らしたやつゥ!」


皆、テンション上がって、おめでとう!おめでとう!と祝福の言葉を投げ掛ける中、不死川は冷静にフライングして出て来てしまった事へツッコミを入れる。


「あっ!そうだわ!指輪!指輪嵌めてあげて」


「うむ!」


やはり少なからず杏寿郎も先ほどまでは緊張していたのだろう、今は柔らかい表情で箱から指輪を取り出す。


左手の薬指にピッタリと収まると、また祝福と拍手が巻き起こり、夢の涙は止まらず、そんな夢を杏寿郎が抱き締める。


「おら!ここの貸し切りもあと、1時間ちょっとだ!ビール飲みたい奴は瓶ビール持ってけ!それ以外は俺に言いに来い!」


道理で他のお客さんが来ない訳だ。貸し切りにしてくれていたとは。




「煉獄!夢!結婚おめでとうっ!」


「ありがとう!」「ありがとう!みんなっ!」



end.



宇随に呼ばれるまでは同じビルの居酒屋で飲んでた面々。
そして、フライングで最初にクラッカーを鳴らしちゃったのは…冨岡さんでした\(^o^)/





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