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キメツ幼稚園





「うぇ〜ん、うっ、うっ、えぇ〜ん」


「また実弥に意地悪されたのか?」


うんうん、と頷く夢を錆兎先生が抱っこする。


「今度は何されたんだ?」


錆兎先生に背中を撫でられればぐすん、ぐすん泣きながらも少し落ち着いて話し出した。


「たん、じ、ろう、くん、に、お花、もらったの、ぐすっ、実弥くんが、実弥くんがぁっ!うぇ〜んっ!」


また思い出したようで「実弥くんが」の先が言えずにまた豪快に泣き始めてしまった。


夢を泣かせた張本人、実弥は涙目になりながら下唇を噛んで耐えている。


錆兎先生の服を炭治郎がくいっと引っ張っていて、それに気づいた錆兎先生は夢抱っこしたまましゃがむと眉を下げた炭治郎に「どうした?」と優しく話しかけた。


「夢、泣かないで。おれ、またお花摘んでくるから」


炭治郎の声に夢が振り向き泣きながら「お花、ぐす、取られ、ちゃって、ん、ごめん、ね、たん、じろぉくぅん」と、ギリギリ言えたがまた、うぇ〜ん!と泣き始めてしまった。


近くでは天元が泣きそうな実弥に「な〜かした、な〜かした!せーんせいにいってやろー」とふざけている。

正義感の強い杏寿郎はそんな天元に「やめろ!宇髄!不死川が泣きそうだ!」と言えば「泣かねェ!」と言って実弥がやけになって跳び蹴りを天元にお見舞いした。

そうすればやんちゃな男の子同士の取っ組み合いの喧嘩が始まってしまい、天元が実弥を突飛ばし、突き飛ばされた実弥の頭が伊之助に当たり、伊之助が取っ組み合いに参加。
止めに入る杏寿郎も伊之助の蹴りを食らい止めるどころか取っ組み合いに参加してしまった。


錆兎先生が一旦、夢を下ろして喧嘩を止めに入ったが、今日の喧嘩はなかなか止まらず真菰先生もやって来て子供たちをひっぺがす。


離されると天元と杏寿郎、実弥はすんなり大人しくなってくれたが伊之助だけが足をジタバタして「放せー!」と暴れているので暫く真菰先生が抱き締めて抑える。


錆兎先生が実弥を掴む手を放した途端に実弥は夢に向かって走り、手を掴んで何処かへ連れて行こうと引っ張るが夢は嫌々!!と踏ん張った。


「実弥、まず、夢にごめんなさいは?」


無理矢理何処かへ連れて行こうとする実弥の手を錆兎先生は抑えて、謝るように促す。


「実弥くん、やだー!大嫌いー!」


夢に大嫌いと言われ、実弥は目を見開いて硬直した。

どんどん実弥の目に涙が溜まってあともう少しで溢れそうになる時。


「夢のばぁかァ!!」


実弥は手を放し、走って教室を出て行った。


そしてまた夢の泣き声が教室に響き渡った。




「お前みたいに、そくばくする男は嫌われるんだぜ?」


教室から走って出ていった後を天元と杏寿郎が庭でいじけている実弥の元にやってきた。


「宇髄、そくばくとは何だ?」


「不死川みたいなやつ」


「好きな女の子に意地悪をすることかっ!」


「たぶん、そんなん」


実弥の元にやって来ても慰めるわけでもなく、好き勝手に話をしている。


「べ、べ別に好きじゃねェ!ただ…」


「ただ、何だよ?」


「あいつは俺んだァ!」


「よもや!」


その後で、「ところでお前何したんだ?」と聞く天元に対して黙って話す気配が無さそうなので一部始終を見ていて杏寿郎が話し出した。


どうやら、外で綺麗な花を見つけた炭治郎はそれを摘み、錆兎先生に見せていた所に夢がやって来て「綺麗なお花!」と褒めると炭治郎が「夢にあげるよ!」とキラッキラの笑顔でプレゼントしたようだ。
暫く嬉しそうにしている夢に実弥は面白く無くなって無言で夢に近寄ると花を奪って何処かへ隠してしまったらしい。


謝りたくても時間が経つにつれてどんどん謝りづらくなってしまい、今に至る。


「謝った方がいいんじゃねーの?」


「………」


この後、どうしても素直に謝れない実弥はちらちら夢を見るが錆兎先生に抱っこされたまま離れず顔が見えなかった。

途中、我慢できず夢を放せと言ってポカポカ錆兎先生の足を叩くが「ごめんなさいできないやつに夢は渡せないな」と言って夢は降ろしてもらえず、涙を堪えてしょんぼりしたまますぐに帰宅時間になったので幼稚園バスに乗り込んだ。


散々泣きまくった夢は泣き疲れて錆兎先生の腕の中でぐっすり。
バスを迎えに来たお母さんにそのまま渡され、一緒に待っていた実弥のお母さんは我が子の様子がおかしい事を察し、夢のお母さんにうちの子何かしたかもしれない、ごめんなさいね。と、謝っておいた。


お母さんと手を繋いで帰っている途中に「どうしたの?」と聞かれれば我慢していた涙がぽろぽろ溢れてきて実弥もついに泣いてしまう。
お腹にもうすぐ生まれてくる実弥の弟となる赤ちゃんがいるお母さんを気づかっていつもは抱っこはしてもらわないようにしていた実弥も今日ばかりは大人しく母に抱き上げられた。


家に着くと、小さな幼稚園バッグから萎びたお花を取り出し、お母さんにぐすぐす泣きながら夢の炭治郎からもらったお花を隠した事、夢に大嫌いと言われた事、ごめんなさいと言えなかった事を伝えた。

母は実弥が夢を大大大好きな事はもちろん知っているし、寧ろ好きすぎてうちの子大丈夫かしら?と心配になるくらい。
実弥が悪いとはいえ、その夢に大嫌いと言われ心の傷は深いと思う。


「じゃあ、夢ちゃんにごめんねしたいね」


泣いて赤くなった目を擦りながらコクりと頷く。


「お母さん、お花、戻して」


実弥は萎びてすっかり下を向いてしまったお花を差し出す。


「う〜ん…そうだっ!」


母はにっこり笑い実弥にこのお花を栞にしようと提案する。
スマホで押し花の栞を見せてあげると興味深々に覗き込み、どうやるのかと聞かれ、お花や葉っぱを挟んで作るのよ。と伝えるとヤル気満々になったようだ。


「お花一つじゃ寂しいから、何か摘みに行きましょう」


元気よく「うん!」と返事が返ってきたので母と実弥は近所の土手に出掛けた。

実弥は四つ葉のクローバーを真剣に探して4つ見つける事ができ、土手に生えているお花も摘んだ。


「たくさん摘んだね」と言えば「夢とお母さんとお父さんと玄弥のぶん!」だと言う。
自分たちにも作ってくれるのか、そして、これから生まれてくる弟の分も作るという優しい我が子に心が温かくなり、どうかお願いだから夢ちゃん。実弥のことを嫌いにならないであげてほしいと母は切実に思う。


お母さんに切って貰った画用紙に『夢 ごめんね』とクレヨンで書き、反対側にはお花とクローバーをお母さんにアイロンで押し花にしてもらいラミネートし、穴を開けてピンクの紐を通して完成。




翌朝、実弥と母はいつもよりちょっぴり早くバス停に来ていた。

少しすると夢がやってきてお母さん同士はいつも通りに「おはようございまーす」と挨拶するが、実弥はじぃっと夢を凝視していて、そんな実弥に目を合わせないようにお母さんの後ろに夢は隠れてしまっている。


「ほぉら、実弥」と母に促されて近づくと手に持っていた栞を差し出す。
ちらりと実弥を見た夢は栞を受けとると母と一緒に見る。

すると怖がっていた夢の表情がぱぁっと明るくなり「お花!凄い!四つ葉のクローバーもある!くれるの?」と少し興奮気味に実弥に問いかけ「うん!」と答えると笑顔で「ありがとう!」と言われ、実弥の顔もぱぁっと明るくなった。

栞の反対側を見ると『夢 ごめんね』と書かれてあり夢は昨日、実弥に大嫌いと言ってしまったことを思い出した。


「実弥くん! 大好きっ!」と夢は実弥のほっぺに口をくっ付けると実弥の顔はリンゴのようになり、お母さん同士はあらあら!とクスクス笑っている。


そうこうしている間に幼稚園バスが到着し、ドアが開くと夢が放心した実弥の手を引いてお母さん達に「行ってきまーす!」と元気よく挨拶して乗り込んで行く。

仲直りした様子に錆兎先生も母親同士も安心し、バスは個性豊かな園児がいるキメツ幼稚園へと向かって行った。



end.



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