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33話




「夢は可愛い妹だと思っている」


その言葉に絶望して暫く固まってしまった。
あぁ、そうだよね、うん、当たり前。だけれどもどこかで期待していた自分がとても落ち込んでいる。あぁ、だからか…
不死川も自分と同じ気持ちを抱いてくれたりしているかもしれない。最近は不死川と目が合ったり、話をしたらただの緊張とは違う舞い上がる気持ちでいた自分が恥ずかしい。
勘違いしてしまった…恥ずかしい…




「夢、聞いているのか?」


「あ、ごめんなさい。もう一度お願いします」


ポスターの前で不死川が自分の事を妹のように可愛がってくれていた事実から、回らない頭でもなんとか今は仕事中だと言い聞かせて、泣きそうになりながら冨岡の仕事を終わらせた。そして、今はお手伝いのお礼に冨岡とご飯を食べに来ていたところだ。目の前には鮭大根がある。


「どうした、今日はやけにボーっとしている」


「すいません、なんでもないです」


「錆兎と飲みに行く話、いつがいい」


「え?あー…ちょっと今はそんな気持ちに、なれなくて」


そう言うと、やれやれといった感じでため息をつかれた。
ついさっき、失恋したばかりなのだから許してほしい。寧ろ今日は真っ直ぐに帰宅して、大人しくしていたかったところだ。というかしくしく泣きたかった。そして、明日の事をまだ不死川に伝えていない。先ほどスマホが震えてポップアップで不死川からメッセージが来たのが見えてそれだけでちょっとうるっと来てしまったので、今連絡をしたら冨岡を目の前にしていきなり泣いてしまいそうだ。


「何があったか分からないが、気分転換にきっとなる」


そうかもです。と言った私の発言を聞いた冨岡は前向きな返事と捉えたようで、日程は任せろと意気込んでいる。


冨岡さんには申し訳ないけど、せっかく連れて来てもらった外食を楽しむ余裕はなかった。
車で送って家まで送ってもらい、最後に話したくないなら、無理には聞かないが相談かあるなら聞く。そう、言って頭を撫でてくれた時は本当に泣きそうになってしまい、ありがとうございますの言葉がちょっと震えてしまったと思う。


自分の家に入り、メイクオフして部屋着に着替えた。
座椅子に座りずっと見ないようにしていたスマホを取り出して、メッセージアプリを開く。


『明日は9時に着くように行くから』

『まだ、飯食ってんのか?あまり遅くなり過ぎんなよ』


不死川からメッセージが来てから2時間ほど経っている。既読なし、返事なしの私を心配してくれているようだ。今までは心おどる気持ちのメッセージだったのに、今は悲しさが胸を支配する。
不死川には申し訳ないが言わなくては。


『お疲れ様です。不死川さん、ごめんなさい。明日行けなくなりました』


送ってしまった。と言う気持ちになった。
妹と思われてた事を知った今、私にはこの気持ちに蓋をする選択肢しかない。今は妹だと思われていてもこれから頑張ればいいなんてポジティブな思考は私にはないし、明日を普通にやり過ごすメンタルもない。

前日の夜に断るなんて非常識かもしれないけど…ごめんなさい。ごめんなさい不死川さん。私行けないです。
勘違いしてごめんなさい。私なんかが好きになってごめんなさい。
明日は無理だけど、月曜からはなるべく普通に過ごすようにするので…

お風呂に入る気分にもならず、電気を消してうつ伏せでベットに入り、枕に顔を埋めた。




返事がない。

いつもの夢なら、割りと早く返事が来る。明日はやっと2回目のデートだ。ムカつく事にムカつく野郎の棚卸し作業を手伝う為に会社に残った夢。先日聞いた話、棚卸しの後は冨岡が夢を晩飯に連れて行く流れになっているらしい。そんなルーチンは夢と付き合ったら即刻止めさせてやる。ンなもんなしだ。今はまだ付き合ってねェから二人で出掛けるんじゃねェとも言えねェ。正直今日、言おうか迷ったが。
8月までに夢をモノにすると決めていたが、宇随に言われたからって訳でもねェが俺がちんたら待ってられなくなってきた。手が届きそうで届かないような、今の関係が焦れってェ。それに早く付き合えば、山形のクラゲ水族館に仙台の七夕祭りに一緒行けるかもしれないんだ。

順調なはずだ。そう思っているが、帰り際に見た夢の目が潤んでいたように見えたのが気になった。

この前の目薬だろう?また、目薬入れすぎただけなんだろ?

きっと俺の考えすぎ、そのうち明日の返事が来る。そう思うのに胸がざわつく。何となく嫌な予感がするんだ。


返事もなし、既読もつかない。
スマホが気になって落ち着かない。
気を紛らわすために、筋トレを始めて数十分。

スマホが鳴った。きっと夢からだ。やっとか、心配掛けやがって。


『お疲れ様です。不死川さん、ごめんなさい。明日行けなくなりました』


受かれて開いたアプリに表示された、文章に絶望した。

何で、どうして。
落ち着け、俺。
何かしたか?いや、体調が悪くなったのかもしれねェ。

まだ、落ち着ききれてない頭で電話をかける。


「もしもし、お疲れ、様です」


「お疲れ。どうしたァ、なんか、あったのかい」


「…不死川さん、ごめんなさい」


「それは分かった。体調、悪かったのか?」


「…はい、ごめんなさい」


「いや、いい…ゆっくり休め。また元気になったら行けばいいだろ」


「ごめんなさい」


『ごめんなさい』ばかり繰り返す夢は、明らかに様子がおかしくて、また今度出掛けようと言う俺の問いかけに、はいとは答えてくれなかった。






「それでは今日も1日宜しくお願いします」


朝礼が終わり、また一週間が始まったのだが…おかしい。何がおかしいって浮かれていると思っていた兄が浮かれている所か暗いのである。週末、また夢と出掛けることになったと教えてくれた時の兄は舞い上がる気持ちを隠したかったのだろうけど、どうしても顔が緩んでしまっていたのでバレバレだった。もう、俺が心配する必要がないくらいに順調なのか、もしかしたら、今度のデートでやっと付き合う事になるのかもしれないな。そんな風に思っていたのに…どうしたんだ。風邪も引かない兄に元気がない。そして夢にも元気がない。


一体どうしたんだよ兄ちゃん。

二人の様子がおかしいのは他の人も気づいているようで午前中のから俺に確認のチャットが送られてきた。


『不死川元気なくね?弟よ、何か聞いてねーの?』


『お疲れ様です。俺も何も聞いてないです』


『不死川にチャット送っても無視されてる』


『すいません、俺も聞いてみようとは思ってます』


『頼んだ!』


最初に来たのは宇随さんで、次いで伊黒さんからもチャット来る。隣に兄ちゃんいるのに。


『不死川の様子が変だ』


伊黒さんに返事しようとしている間にも他の人からも、次々チャットが飛んでくる。
仕事中だし、皆のコメントに合わせて返信している余裕もない。だからこうするしかなかった。


『ご心配とご迷惑をお掛けして申し訳ございません。お問い合わせ頂いた件につきましては、現在確認中でございます。原因がわかり次第、順次対応させていただきます。何卒、ご容赦下さいますようお願い申し上げます。』


システムエラーが起きた時のテンプレートを貼って終わらせる。

テンプレ返しして、思ったけど…所属タレントが問題を起こして謝る事務所の人間みたいだ。


俺は、兄貴のマネージャーか?




end.

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