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32話



今日は金曜日。
学祭気分になるお祭り準備の日。
実はもう夏祭りまでそんなに日付がない。
そして、皆なんだかんだお祭り準備が楽しくなってしまっている。
皆が予定時刻で仕事を切り上げ、各々が準備に取りかかり始めた。


金魚すくいチーム、飲食チーム、商品販売チーム、各チームに別れての作業。
夢は金魚すくいチームで、少人数の金魚すくいチームは本当は当日まで、金魚の世話以外に大してやることがない予定だったが、今はひたすらに金魚を掬うポイを作っている。
本当は、完成形のポイが来るはずだったが、とても安いポイを見つけた。と言う冨岡に発注を任せたところ、ポイの枠と紙が別になっているものが届いてしまったのだ。周りは話し合ったり、実際のシュミレーションを行ったりしているが、冨岡と夢だけは無言だ。

返品ができないお陰でポイの枠にノリを塗り、紙を貼る地味な作業を冨岡と夢は繰り返す。まるで内職。

発注をミスった冨岡が不死川と伊黒に責められて、責任もってお前が内職しろ!と怒られてしまい、冨岡もちまちまやっているがまだ全て終わらず、1人でやっているのを不憫に思った夢も一緒に手伝いだした。


「すまないな、今日はいつもより良い所に行こう」


「いつものところで大丈夫ですよ」


「寿司か?焼き肉か?」


この後、夏祭り準備が終われば月に一度の棚卸し。必然的に残業になってしまう。そして、棚卸し後は毎月恒例にいつしかなっている、冨岡との外食。内職も棚卸しも手伝ってくれた夢に、いつもより値が張るところに連れて行ってくれると言う。
また奢ってくれるのだろうし、そんなに高いところだと逆にこちらが申し訳なくななってしまいからいいのに。ただ、失礼な事に冨岡がそんな高い所に普段行くの?と疑問に思ってしまった。


「…冨岡さんの行きたい所で」


「いいのか、鮭大根になるぞ」


「好きですね(笑)、いいですよ。あっ、ただ次の日に午前中から予定があるので、早めに帰りたいです」


「…デートか?」


「は、ふぇ?いや、そんなんじゃ」


冨岡から予想外な事を言われて、つい変な言葉を発してしまった。何で分かったんだ。自信もってデートだと言っていいのか正直わからないけど、明日は不死川と2人で出かける日。正直、恋愛とかそういった事にお世辞にも敏感とは冨岡は思えない。もしかして、そんな冨岡にも分かってしまうぐらい自分の好意はバレバレだという事だろうか。

冨岡がジッと表情の読めない顔でこちらを見ていて、焦りからブワッと汗が吹き出たのがわかる。


「ゴラァ!手が止まっているだろうがァ!」


「痛いぞ不死川」


どうしよう、なんて答えようなんて考えていた所、不死川が現れて冨岡の頭を叩いたので視線が不死川へと移った。


「お前がサボっているからだろうがァ」


タイミング良く不死川が現れたおかげで冨岡の視線が夢から外れたが、明日のお出かけを考えるかとドキドキだ。
以前は冨岡を叱るお顔を怖いと思っていたのに、そのお顔さえ整っててかっこよく見えてしまうものだから困る…


ほら、まただ。
冨岡を叱り終わって去り際に目線がかち合う。
それだけで自分を気にかけてくれているような気がする。

勘違いだったら恥ずかしくて死にそうになるけど、もしかして…もしかしたら不死川も自分の事を…


「夢?手が止まっている。夢も不死川に怒られるぞ」


「へ?あ!すいません!」


冨岡に注意され、視線をポイに戻すと不死川は飲食チームに戻って行った。




冨岡と集中してポイを無言で作り、なんとか全部の紙を貼り終えた。職人になった気分だ。
早く終わって、飲食チームのお手伝いをする予定だったが、もう、試作品など作り終えたところでもう見るからに夢が手伝える事は無さそう。それでも、まだできる事があるかもしれない、片付けだけでもと思って皆の所へ駆け寄った。


「すみません!私にも何か、んぅっ!」


出来ることありますか?の言葉は出せず、その代わりに口の中に広がるソースと青海苔の香り。反射的に咀嚼してみるとたこ焼きだ。
夢の右隣には不死川が居て、たこ焼きのパックに爪楊枝片手にこちらを見ている。


「どうだ?」


「…お、美味しいです」


美味しい…昔のお祭りを思い出す味だ。だけれども、そうじゃなくて、し、不死川さんに食べさせてもらった形になった!?


不死川は何時も通りのようだが、夢はあーんしてもらったような状況にまた、徐々に顔に熱が集中。そして、気のせいであってほしいが周りも夢達を見て一瞬固まり、そして見てはいけないものを見たように目を反らされた気がする。


「まだ、いるか?」


爪楊枝にたこ焼きを刺してまたスタンバイしている。
食べさせてもらってドギマギしている夢と違って、恥ずかしそうな素振りは見受けられない。不死川には何てことない動作なのだろうか。
じゃあ、もう一口と可愛くおねだりできたら良かったのかもしれないが、生憎そんな大胆な事は夢には出来なかった。


「だ、大丈夫です!不死川さんが食べて大丈夫です!」


「そうか」


「あ、」


確かに食べてと言ったけど、夢が食べた後の爪楊枝でためらいなくたこ焼きを口に入れた。思わず声が漏れた夢の方をたこ焼きをモグモグしながら、なんだ?と言いたげに見つめてくる。
えっと間接キスとかそんな事を気にするのはお子さますぎるのか、何か言った方がいいのかもしれないけど、いや、えっとどうしよう。
ただ目を合わせたまま夢が数秒困っていると、


「見つめあ〜うと〜すな〜おに〜おしゃ〜べりぃ、できぃ〜なぁああい〜」


後ろで宇随が懐かしい歌を歌い始めた。


「いや、宇随さん!?」


「違ったか?」


ニヤニヤした宇随に茶化してくる。


「夢、棚卸し」


「冨岡さん、今行きます」


呼びに来た冨岡に返事をし、何となく不死川にペコっと頭を下げてから冨岡とオフィスに向かう。後ろから不死川や胡蝶等の数名が宇随を咎める声が聞こえたが大丈夫だろうか。ちらり振り返ると、宇随が不死川に脇腹をどつかれていた。…痛そう。




「夢、この分の棚を」


「かしこまりました」


今は先ほどの、たこ焼きドキドキからもだいぶ落ち着き、毎月恒例の棚卸しを冨岡と始めた。
冨岡が渡して来た商品リストを受け取り、商品コードをシステムに入力していく。その間に冨岡は差異が出ている商品を調べている。
今月はそんなに多く無さそうだ。


暫くして1階の片付けが終わったのか、皆がオフィスに戻って来るようで廊下が賑やかになっていた。だけど、廊下でわーきゃー話声がするがなかなかオフィスに入って来ない。


「賑やかだな」


「私ちょっと見てきます」


冨岡もそう思っていたのか。見てくる事を伝えると冨岡は頷き、またパソコンと睨めっこを再開させた。




「お疲れ様です〜」


廊下の掲示板スペースで皆が集まっていて、皆の視線の先を見ると…


「ど、わっ!えっ!?」



浴衣姿のポスターを宇随が貼り出しているところで、皆がそれを見ている。問題はそのポスターだった。

キメツショップ祭、開催日時など概要が書かれているのは分かる。その概要と一緒に載せられてる写真に驚いたのだ。
女性陣で記念に撮ってもらったと思ってた写真に『私達がお待ちしております。』と書かれている。これでは、夜のお仕事か出会い系の広告のようではないか。絶句しながら更に隣に目を移すと、男性陣が着崩してドヤ感満載で映っている。伊之助と煉獄にいたっては上裸だ。そこに『オレ達に会いに来い』とコメントまで挑発的にかかれていて、これじゃあまるでホストクラブだ。ある意味、集客は出来そうだけれども。


「水商売かよ」


いつの間にか隣に立っていた玄弥が呟く。


「まさに、私も今思ってた」


「お前…あっち見たか?」


「いや、まだ…って、えぇぇぇ!」


宇随が次々にポスターを貼っていて、その中に恥ずかしい恥ずかしくて記憶が正しかったのかと疑いたくなる不死川と夢の写真が集合したポスターがある。
他にも皆の色んな写真がポスターにされているが、伊黒と甘露寺がラブラブポスターはいいと思うけど自分と不死川は付き合ってる訳じゃないからあれは不味いと思う。


「うう宇随さん!あれは何ですか!?」


沢山のポスターを今、貼り終えたらしい宇随に詰め寄る。


「よく撮れているだろ〜?これからどのポスターがいいか投票で決める」


ほら、お前も選べ。投票箱はここな。と言われて投票用紙を持たされた。
投票?呆気にとられているうちに宇随はどんどん投票用紙を皆に配り回りながら、どっかに行ってしまう。


「不死川と仲がいいのだな」


「冨岡さん!」


気付けはすぐ隣に冨岡が宇随から渡されたであろう投票用紙とペンを持ち、夢と不死川のポスターを眺めていた。


「いやぁ、これは、その」


不死川と恋人繋ぎや、たこ焼きをあーんしてもらっている画像に抱きついているようなポーズの寄せ集められたポスターを前に赤面しながら、なんと説明をしたらいいのやら。


「俺も不死川も同じだからな」


「…お、同じですか?」




「夢は可愛い妹だと思っている」



end.

宇随さんが歌ったのはサザンのTSUNAMIです\(^o^)/懐かしい…



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