30話
兄ちゃん、なんか面白くない事あったんだろうな…自分の兄も機嫌が悪いと凄い顔に出て分かりやすいと玄弥は思う。どうせ、夢関連だろうけど。
玄弥の推測通り、不死川にはもう我慢出来ない事があった。
それは、元から好きではない存在、冨岡義勇。
昨日もチャットで夢に何の用があったのかと思えば、棚卸し作業を手伝ってほしいとの事。夢に頼るな!自分でやれェェ!と心の中で激しく叫んだ実弥は夢に、あいつの仕事だし、チームが違うお前が手伝うことないだろう?とできるだけ冷静に伝えたが返って来た言葉が毎月お手伝いしているから大丈夫ですよ。私でも役に立てる事があって嬉しいです!…曇りなき眼で言われてしまい、そうかァ…しか出なかった。
しかし、一旦は引き下がった不死川も、残業して棚卸し作業をするなら帰りが遅くなる。せめて、帰りだけでもと思い、送ってやる。とチャットを送れば、冨岡さんがいつも送ってくれるから大丈夫です!不死川さん、優しいですね、ありがとうございます!…もしかして、避けられてる?マイナスな思考が働き、最初は落ち込んでいたが、だんだんと腹が立ってきた。
なんなんだ、冨岡の存在は。いつも送ってくれるって、なんだよその当たり前みたいな感じは!冨岡が夢を狙っているとは思えないが、それにしても邪魔くさい。
ポスター撮影の時だって、二人での撮影が終わっても、どさくさに紛れて手を握ったままでいたところを冨岡に邪魔をされた。自分も記念に夢と撮りたいと言い出し、夢を連れて行かれてしまったのだ。そしてだ、夢も冨岡を拒む感じがしないのが大大大大問題だと思う。何を考えているか分からない冨岡だって男だ。スンッとした無表情でも、実はムラムラしているかもしれない。うわぁ気持ち悪ィ。自分で妄想して気持ち悪くなってしまった。
「おいおい、そんなにガン飛ばしながら飯食うなよ」
今は、不死川、伊黒、宇随、煉獄のいつもの仲良しカルテットで昼食中。
今日はぼっち飯らしい冨岡を睨め続ける不死川に宇随が突っ込む。
「そんなんじゃ、せっかくの食事も不味くなるぞ!」
全く不味くなんてなる様子もない煉獄が、ラーメンを平らげ、不死川に注意をすると山盛りカレーに手を付け始めた。
「なんだ、冨岡に何か言われたのか?」
「言われたわけじゃねェが…気にくわねェ」
「その気持ちは分かる。分かるが、そんなに睨みつけてたら、いくら鈍い冨岡だって気づくぞ……はぁ…こっちを見ている」
伊黒が注意したその時、不死川の熱視線に冨岡が気づき、荷物を持って立ち上がった。
「こっち来るぞ」
荷物と片手にパンを持った冨岡が4人の元に来て、煉獄の隣で不死川の斜め向かいに座る。
「………」
「………」
不死川は相変わらず冨岡を睨みつけ、冨岡も相変わらずいつもの無表情でパンを食べ始め、耐えられない宇随がいや、何か喋れよ!とまた突っ込む。
「なんでこっち来たァ」
「目をみれば分かる。俺の事を呼んでいただろう」
「呼んでねェ!」
「…そうか」
会話終了。
何故か宇随達まで会話しづらい状況。
おいおい、なんだこの雰囲気。誰かなんとかしろや!そう心の中で嘆いた時、不死川が定食のご飯を平らげ、何かを決心したように冨岡に向き合った。
おぉ!?なんだ何が始まるんだこの雰囲気と周りも注目の中、不死川が口を開く。
「冨岡ァ…夢に残業させてまで棚卸しやらせてんじゃねェよ」
不死川からの先制攻撃!冨岡に20のダメージ。
好奇の目で見ている宇随は、心の中で実況を始めていた。
「残業させてしまっているのはすまないと思っている。だが、その礼はしている」
空かさず冨岡も反撃。そして、礼とはなんだ?これは気になる!冨岡のトラップかぁ?
「礼、だァ?」
不死川も気になる!しかし、素直に聞けない!どうする不死川!?
「そうだ、礼だ」
やはり教えてくれない!教えてくれないと言うか、冨岡は恐らくトラップを仕掛けたつもりもなにも、特に何も考えてない。
「か、帰りが遅くなるだろうがァ」
母ちゃんかっ!苦し紛れに出た不死川必死の攻撃も、冨岡には効いていなさそうだ。
「フッ、心配はいらない。飯を食ったら家まで送っている」
おっとー!一緒に飯まで行ってるぜ攻撃!これは冨岡の無意識の改心の一撃!不死川のヒットポイント大幅に削られた。どうする不死川!?
「なん、だとォ」
これは効いている!かなり効いている!まだ戦えるか!?立ち上がれるか不死川ー!?
「毎月のルーチンだ」
決まったー!トドメの一撃!冨岡の勝利!不死川のヒットポイントがゼロだー!
「………」
宇随の心の中の実況が終わった所で、自分より絆を深めている事実にもう、何も言い返せなくなった不死川。
不死川がショックの中、また冨岡が口を開く。
「夢は妹みたいな者だからな、飯も奢る」
「妹ォ…?」
まさかの妹宣言に一気に息を吹き返す。焦りと苛立ちが見えていた顔から、鳩が豆鉄砲食らったような顔に変わっている。
「?…不死川もそう思っているんじゃないのか?よく夢を気にかけているだろう」
冨岡は最初から不死川の敵ではなかったようだ。
不死川や宇随達がもしかして、冨岡も夢を狙っているんじゃないか説が消え、そう思った瞬間、身体から力が抜けた。
「違うのか?」
「あ?あァ…そんな感じだ」
「ムフフ…夢は放っておけない」
「それは俺も分かるな!つい大丈夫か声を掛けてしまう!」
「分かるわ〜」
先ほどまでのピりついた空気感は終息。
不死川にとってとても気がかりだった、冨岡が夢を好きなんでは無いか疑惑が思いがけない形で分かり、心が軽くなった。こうなればもう、身近に自分の妨害になるものはないはず。あとは、自分の頑張り次第だろう。
誰が見ても分かるぐらい不死川の機嫌が良くなっている。
「夢にはしっかりした者が側にいた方がいいと思う。だから、錆兎を薦めようと思うんだ」
「テメェ!余計な事すんじゃねェ!」
「はぁ〜あ、やっぱ冨岡は冨岡だな」
「全くだ」
「ハッハッハッハッ」
「どういう事だ」
なんだ敵ではないのかと思った矢先にこれだ。不死川の中で冨岡は敵認定に戻る。
しっかりと俺が側にいるから、テメェは余計な事をするな。と言ってやればいいのに。
周りは聞いていて思うが、やはり不死川的には夢に恋心を抱いている事を冨岡に知られたくないから言わないんだろなぁと悟る。
「まっ、錆兎は薦めなくても夢は大丈夫かもしれないぜ?」
あと少しで拗らせまくった不死川の恋が叶いそうなので、もう、いい加減上手くいってほしくて、宇随も冨岡が余計な事をしないように口を出す。
「?……なにっ!?もう変な虫が着いていると言う事か!?俺は聞いていない!」
言うが早いか、冨岡は立ち上がり、胡蝶達とご飯を食べている夢の元に行ってしまった。
「とりあえずは変な虫さん、良かったな」
「オイ、やめろォ」
「まぁ、冨岡はそんな事だろうと思っていた」
「良かったな、しなっ、変な虫!」
「煉獄まで悪ノリするなァ!」
不死川をおちょくっている間、夢を問い質しに行った冨岡がストレートに恋人が出来たのか!?と問い、戸惑いながら、い、いないですよ!と答えたのに、本当か!としつこい冨岡に甘露寺がつい「まだ、いないわ!」と言ってしまったため、「まだとはどういう事だ」と面倒な展開になってしまったが、最終的には胡蝶が話をずらし、口論になり、午後の伝票チームに不穏な気配が流れたが…よく考えたらいつもこんな感じだったと神崎は思った。
「あ、俺いいこと思い付いた」
「絶対いいことじゃねェ」
正解。不死川の言う通りいい事ではなかった。
暫くして気づいたが『送り狼』グループトークが『変な虫』グループトークに変わっていて、アイコンは宇随が手で書いたと思われる蜂の体に不死川の顔が合成されている写真になっている。また、周りにはハートが描かれ…蜂の針の角度が上向きに曲がっている下ネタみたいなアイコンに変更されていた。
end.
不死川さぁぁぁあん\(^o^)/お誕生日おめでとうぉぉぉお\(^o^)/
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