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29話




「連絡事項は、新しいツールを本日から導入する。その説明をサブマネージャーの不死川からお願いします」


「おはよございます。本日から、新たに連絡手段、スケジュール管理ができる『スマートワーク』と言うツールを導入します。これはチャット機能、ファイル共有、Web会議、スケジュールの登録が出きるものです。その準備として、システム部が午後よりこちらに来ます。全席にインストールと初期設定を行っていただくため、システムの方が来たら15分前後席を空けて下さい。操作方法など、使い方は伊黒からチーム毎に説明がある。以上」


それでは本日も宜しくお願いします。とマネージャー、悲鳴嶼の一言で朝礼が終わり、今週の仕事が始まった。


どこか誇らしげに堂々と新アプリの説明をした不死川とは対照的に夢は、あまり不死川を直視できず、ちらちら目を向けたり反らしたりしながら朝礼を聞いていた。
それは先週の金曜、胡蝶、甘露寺、神崎と飲みに行って、自分でも認めてなかったというか、認めたくなくて知らんぷりしていた恋心を質問攻めを受けているうちに認めざる得ない…というか、簡潔に言うなら墓穴を掘って不死川の事を好きと認めてしまったから恥ずかしいのだ。

自分でも、不死川が親切にしてくれるから、自分を気にかけてくれるような素振りをするから…気になってしまうだけで、これはまだ好きのうちに入るものでは無いと言い訳をしていたのに。

お酒の力なのか、胡蝶の尋問のせいなのか、徐々に好きと認めてしまった。

もう、一度好きと認めてしまった後は、今後をどう進めて行くか、告白された時の練習などを話し始めてしまい、そんな告白された時の練習なんていります!?と言ったら、あら?じゃあ保留にしないですぐにお返事できますか?と問われて黙ると、面白…折角だからシュミレーションしてみましょう!と甘露寺が言い出し、不死川役を神崎がやったのだが、神崎もお酒が入っていたせいか低い声でモノマネをしながら「夢、好きだァ」なんて言い出したので甘露寺と胡蝶は爆笑。
夢は不死川が自分に告白して来る姿を妄想してしまい、恥ずかしくてまた顔を赤くして手で隠した。黙ってしまった夢に「お前はどうなんだァ」と追い討ちをかけると甘露寺と胡蝶は涙を流しながら笑った。

そして、だいぶ酔いも回り、タクシーで帰宅してすぐ寝てしまった夢は、不死川から連絡が来ている事も気づかずにぐっすり眠り、翌日スマホを見てビックリ。メッセージに着信が数回。
すみません、寝てて気づきませんでした。と返信するとすぐに着信があり、出てみると寝てたって何処でだ。と少し怒っているように聞かれた。何処で?自分の家ですよ?と答える、いつもの不死川に戻ったようで、それからはサボテン公園を来週末に行く約束をした。


そんなこんなで、より不死川を見るのが恥ずかしくてなってしまった夢。


一方、不死川は、顔に似合わずウキウキしていた。
それは、今週末の約束があるからなのは勿論だが、新アプリの導入を待ちに待っていたから。先週、伊黒と本社で打ち合わせして導入日が確定し、やっと本日実装される。
スマートワークがあれば、直接本社に行かなくても画面やファイルを共有しながらWeb会議ができる。伊黒と不死川は前々から、本社に行くのが憂鬱だった。

愛しい人がどうしているのか、気になる。

公私混同は良くないと言われるかもしれないが、それでも嫌なものは嫌なのだ。
本社に行かなくても会議ができる方法を二人が考え出した結果が、スマートワークであり、利便性を満載に盛り込んだプレゼンを繰り返し、勝ち取ったもの。
そして、スマートワークは全社的に導入される事が決まった。まず、本社とこの通販事業部が先に導入される。




週明けは忙しいものの、イレギュラーが無く、割りと順調に進み、午後からの業務を始めると炭治郎を呼ぶ声が響いた。


「無一郎くん!」


マネージャーの悲鳴嶼に挨拶を終えたシステム開発部、サブマネージャーの時透無一郎が炭治郎の元にやってきた。
久しぶりだね、と炭治郎とにこやかに話していたが、その様子を少し離れたところで驚いて見ている部下数人に、さっさと準備しなよ。と今度は冷たく言う。凄い態度の変わりようだ。

時透は夢達と同い年だか、プログラミングの知識に長けており、それでいて判断能力も凄いと評価され、最初はここ、ネットショップ専属のシステム担当だったが今は本社のシステム開発部に移動し、サブマネージャーを勤めている。

炭治郎の席のインストール作業は時透が設定し、親切に使い方までにこやかに説明。

それ以外の島は部下が設定し、夢の席にもスマートワークがインストールされた。
設定されてる間は、数人で伊黒から使用方法の説明を受けたのだが、分からない事があれば不死川に聞くといい。俺と不死川は理解している。と言われたが、不死川に聞くといいと言った時に伊黒が夢の方を見ていたのが気になる。勘違いかもしれないが、不死川に聞けと言われたように気がしたのだ。

席に戻って、早速、開いてみると1件、チャットが飛んで来ている。


『使い方、分かったか?』


不死川からだ。名前を見ただけど心臓がドクンと跳ね、反射的に不死川の方を見てしまうと目が合い、ニヤリと笑われた。

ドキドキしながら初めてのチャットを入力していく。


多分、分かりました!そう、返信すると夢のコメントの端に目のようなマークが付いた。これは普段使っているメッセージアプリと似ている。既読、相手が確認したと言う事だろう。何種類かの絵文字もあるようだ。そして、夢の返信に親指を立てたマークも付いた。カーソルをもっていくと「いいね」と書いてあり、他にも「ステキ」のハートマーク、「笑」の笑った顔、「怒」怒った顔、「哀」泣いた顔のマークがあり、いろんなリアクションが出来るようだ。

これはいろんな事に利用出来そうだし、これは不死川と伊黒が導入を考えたと言っていた。やはり、サブマネージャーともなるとこういった事にも目を向けていかなくてはいけないのか。自分も少しでもこの会社に貢献できるように頑張らなくては。

素直な夢はサブマネージャーの2人に尊敬の念を抱いたが、実際は好きな人から離れたくないという邪念から来たものなので、あまり褒められたものではない。
勿論、ネットショップの大多数の者は気づいている。




夢からチャットが来ていないかスマートワークをちらちら確認しながら仕事をしているが、寂しい事にチャットは飛んで来ない。
仕事中なんだが何処か寂しく思った不死川は、使い方を聞いて来ないなら、こっちから教えてやろうと、新しい機能のスケジュール登録をし、メンバーに夢を追加してみる。こうする事で、夢にもスケジュールの通知が行き、参加、不参加を選べるようになり、その結果が不死川に通知されるはず。

反応を楽しみにしていた不死川だが、不死川が送ったスケジュールに参加も不参加の返信も来なければ、予想していた反応もない。てっきり、顔を赤くして可愛い顔をこちらに向けてくれるのではないかと期待していたのに。
それにしても、忙しなくパソコンに少し文字を打っては、紙に何かを書き込み、また、パソコンに少し文字を打ってはまた違う物に目を向けたりを繰り返している。
小動物みたいで可愛らしいが、いつもより忙しい。顔を少し赤くして、焦って文字を打ち込んでいるようにも見える…何をしているんだ?
ここで、不死川の夢センサーが良くないものを感じ取った。

静かに近付き、夢の後ろからパソコンを覗き込む。すると…
チャット欄に見える男の名前。上から「宇随」「冨岡」「伊之助」そして、今まさに宇随とのチャット欄を開いて夢が返事を書き込んでいる。


俺よりやり取りしてるじゃねぇーーかァっ!!


「ひゃっ!?し、不死川さん!?」


後ろから覆うような体勢で手を伸ばし、マウスを奪い取った不死川がスクロールをしてやり取りを見ていくと…


よく分からないゆるキャラみたいなやつが投げキッスしているスタンプから始まり、先週撮った写真をポンポン乗せているが、その画像が不死川の血管を切れそうな程に浮き上がらせた。


何故そんな写真を撮ったのか不明だった、浴衣を肌蹴けさせた写真だ。懐手のポーズで前が開き、胸筋、腹筋が晒されてる宇随の写真から始まり、これはどうだあれはどうだとポンポンと男たちの筋肉自慢(?)写真を送り付け、お前はどれが好み?なんて聞いてやがる。


「セクハラだろーがァ!」


今、その体勢を取ってるお前が言うかーそれ。と周りはツッコミたくなったが知らんぷり、今の不死川に話しかけない方が安全だ。
血管が浮かんだ手で宇随に返信し、スケジュール送ったから見とけェ!とプンスカ怒りながら自席に戻る不死川。


うわードッキドキした〜と心臓バクバクだった夢は言われた通りにスケジュールを開くと、今週末の土曜日9時にサボテン公園とスマートワークのカレンダーに表示され、参加・不参加がボタンで押せるようになっている。
私的なスケジュールを入れるものではなく、通常は会議や、提出期限を登録するものだが、夢は送られて来たスケジュールの参加ボタンをまたドキドキしながら押した。




そして、もう1人ドキドキしている者がいた。


「これ…ガチィ?」


夢からのチャットの返信を見て固まっている宇随。


『セクハラで訴えます』




end.


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