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27話



扉を開けるとそこは…お祭り会場でした。


部屋の中に屋台のセットが2つ組まれ、金魚すくい、ヨーヨー釣り、りんご飴、そして、ホットプレートとたこ焼き器で実際に食べ物を焼いているようで、ソースの匂いがドアを開けた瞬間に飛び込んできたのだ。


「凄い本格的ね!ワクワクするわぁ!」


「このセットを組む音だったのね、カンカンカンカン煩くて、何かと思いました」


無邪気にはしゃぐ甘露寺は早速、たこ焼き作りに向かい、甘露寺の浴衣が汚れてはいけないと伊黒がそっと袖を押さえるサポートを。
笑顔で毒を吐く胡蝶にひぃ、すいません。すいません。と善逸が謝る。今日は宇随のところにパシ…ヘルプに入り、善逸も一瞬に屋台を組んでいたのだ。

やるなら本格的にド派手にやるぞ!と宇随が撮影室の荷物を隣の倉庫部屋に移し、今日1日中かけて伊之助と善逸の3人でセットを組み準備した。


「金魚も本当にいるー!あ、黒出目金可愛い」


「出目金がいいのか」


皆が色んな物を見始める中、夢はしゃがんで金魚を見てみると頭上から話しかけられる。そして、夢の横に並んでしゃがんだ。


「可愛いじゃないですかー?」


夢の問いに微妙。と答えたのは横にしゃがんだ冨岡。
冨岡が何やらじぃっと夢を見つめ、後で…と口を開いた時、宇随が指示を出し始める。


「女子は先に隣の部屋なー。写真撮るから来てくれー」


冨岡が何か言おうとしたのを聞き返そうとした時には、サボってないで手伝えと冨岡は連れていかれてしまい、夢も隣の撮影室に行くように促されたので結局、冨岡が何て言おうとしたのかは聞けず。


倉庫だったはずの隣の部屋の一角が撮影スペースとなり、皆一人ずつ撮ったり、ネットにも商品として浴衣を掲載する為に生地のアップを撮影したりする。
宇随が真剣に写真を撮り、その状況に合わせてライトなどを伊之助が調整したりしているが、正直、伊之助がちゃんと働いている姿を初めて見たと思う。意外にもテキパキとちゃんと動いている。物珍しそうに見てしまった夢は、なんだよ、また噛みつくぞ。と言われてしまった。


「止めとけ、お前が狼に噛みつかれるぞ」


「狼?望むところだぜ!」


「お前の考えてる狼じねぇーよ」


じゃあどんな狼だよ。伊之助の突っ込みに夢も同じ事を思った。




それから女子数名で撮ったり、炭次郎達が焼いてくれた、たこ焼きや、ヨーヨーが小道具も用意されてどんどん写真を撮っていく。
夢も最初はガチガチに緊張していたが、皆でいると徐々にリラックスしてきて、順調に撮影は進む。ちょっと撮りすぎでは?と思ったり、途中に、宇随が怪しげな写真を撮っていたが…まぁ、いい。楽しく撮影出来ていたのだ。ここまでは。


「うっし、まぁこんなもんだろ。戻っていいぞ…夢以外は」


「えっ」


宇随の声により皆が、部屋を出ていく中で夢だけが呆然と立ち尽くす。
どうしたらいいのか分からず、困惑している夢へ、にこにこと胡蝶が。
手で顔を隠してはいけませんよ?折角のお化粧が崩れてしまいますので。そう言い、首筋に練り香水を塗り、まるでこれからの夢のリアクションを分かっているかのようにアドバイス(夢には、私のした化粧を崩すな。と脅しに感じた)を残して部屋を出ていってしまった。


「お前も隣に行って、たこ焼きでも食ってろ」


「えっ」


なんと宇随は伊之助まで隣の部屋に行くよう伝え、勿論、伊之助は喜んで部屋を出て行こうとする。


「あ、ついでに隣の部屋に来いって、不死川に伝えてくれ」


「えっ!?」


任せとけ!と元気よく、伊之助が出て行ってしまい、部屋には夢と宇随だけになった。
顔にヤバい。と書いてある夢に宇随が近づき、ニヤニヤしながら肩に手を置く。


「いよいよだな、心の準備は出来てるか?」


「な、何がですか!?」


「何がって、恋人役だろ〜」


「恋人役って、ただ並んで撮るだけじゃないんですか!?」


「さぁ〜?それは不死川次第だろう。まっ、頑張れよ」


さっきまでのリラックスはまるで無く、ピシャリと硬直する。
と、その時、扉が開く。不死川だ。


不死川の姿を目にするだけて心拍数が上がる自分の身体をどうにかしたい。コントロールでききなくて困る。
それに宇随のせいで余計に心臓の音が煩くなってしまったではないか。


無意識に胸の前で手をぎゅっと握っていた夢の肩から、宇随の手が退かされた。


「宇随…離れろやァ」


「へいへい。じゃあ、不死川も来たし、撮るか」


宇随が離れて、むすっと顔の不死川が自分を見つめている。
ずっと見つめられるのに耐えられず、顔を手で覆ったが、胡蝶の言葉が頭に浮かぶ。


"手で顔を隠してはいけませんよ?"


ハッとして直ぐに手を避けた。


「ハッ、何だよ。その、いないないばーは」


突然のいないないばーに、むすっと顔の不死川の顔が一瞬で破顔して笑い顔に変わった。
あまり笑顔の印象がない不死川のくしゃっとした笑顔は心臓に悪すぎる。

笑顔が素敵過ぎてフリーズした夢に、不死川が気まずそうに呟く。


「おい…なんか言えよ」


「かっ、かっこいい!です…」


「お…お前もスゲェ、似合ってるぜェ」


「あり、ありがとうございます」


「あの〜お二人さん?始めるぜ?」


二人して照れてしまっている甘酸っぱい空間に耐えきれず、宇随が声をかけた。
夢の顔が赤いのは勿論だが、不死川まで少し赤くなっていて、宇随は可笑しくて爆笑したいのを抑えるので必死。


恋人らしく゛絡んでくれ゛と言う宇随の指示で、夢の緊張のボルテージが最高潮に達してしまう。身体を固くして、ギギギッと音がしそうな動きで隣の不死川を見るとゴホンと咳払いをして、ニヤリと怪しげに笑った。

んっ、と言いながら不死川に手を差し出され、戸惑いながら手を繋ぐと…恋人繋ぎ。はぁ…緊張する、手汗どうしようと思っている夢はこれからどんどん追い詰められていく。


「はいー次は寄りかかってみてー」


「寄りかかっ!?…えっ」


今度は、寄りかかってみろと言われ、どのようにすれば…
早くしろと言われているような視線を感じ、ドキドキしながらそっと不死川の胸元に手を当てて頭を寄せてみた。

…これ、不死川さんの心音聞いてる人みたいに見えていないだろうか。
ぎこちない感満載でどうしようと夢が思っていると腰に腕が回され、見上げると目が合う。


「で、何処行くか決めたかァ」


「えっと、えっと、」


「決めてねェなら山形にしちまうぞ」


「わっ、わわ!えっと、行きたかった動物園もちょっと遠いんです」


宇随のカメラのフラッシュがたかれていく中で、話ながらポーズを変えていく不死川。
次は、夢の両腕を掴んで自分の首に回させ、不死川も両腕を夢の腰と背に回し、身体をぎゅっと抱きしめるもんだから、身体は勿論密着し、顔までくっついてしまいそうな距離にされてしまった。

…息が出来ない!今、息をしたら確実に不死川にかかってしまう。


「何処だ、言ってみろ」


やはり近すぎて不死川の息を感じる。とてもじゃないが、真正面を見て話せそうになく、少し斜め下を向いて呟いた。


「伊豆の…サボテン動物公園です」


「日帰りで行けねェ距離じゃねぇな」


不死川が耳に口を寄せて話す。

はっ、はっ、近いぃ〜と茹でダコのように赤くなった夢。
俺は泊まりでもいいんだかな。と言われても、またからかってますね!?なんて答える余裕なんて全くない。

漸く、身体から手が放されたと思い、夢も首に回していた手を下ろすと、今度は後ろから不死川に抱きしめられた。
それを茶化すように宇随がヒュ〜と口笛を鳴らす。




「お疲れー。もういいだろ」


後ろから抱きしめられたその後も、胡蝶が持ってきた、たこ焼きをあーんして食べさせたり、どんどん大胆な行動をとる不死川に前髪を避けられたと思えばデコチューをされ、最後はナチュラルに正面から抱きしめられて、スンスンと首筋の匂いを嗅がれ…

「いい匂いすんななァ、食っちまいてェ」と耳元で囁かれて耳から痺れるような感覚が広がり、宇随の撮影終了の声がとても遠くから聞こえてきたような気がするが、放心状態の夢は暫く動けなくなった。




end.



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