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番外編A




スパーンッ


冨岡の頭が突然叩かれた。


「何してんだテメェッ!」


「少し痛いぞ、不死川」


冨岡の横に肩を怒らせながらやって来た不死川は、丸めた書類で冨岡をぶっ叩いたのだ。
何故かと言うと数分前の出来事。




「兄貴…なんか、今日のドリンクサーバーの納品がどうとか言う、電話がかかって来てるんだけど…」


「ドリンクサーバー?とりあえず代わるから、電話回してくれ」


何の話か全く分からない。ドリンクサーバー?そんなメーカーと取引があっただろうか。それとも何かの間違いかもしれない。
困惑している玄弥に代わり、不死川が電話に出た。


「お電話変わりました、サブマネージャーの不死川と申します」


「お世話になります、ドリンクサーバークロウの田中と申しますー。この度はご契約頂きまして誠にありがとうございます!本日の午後にドリンクサーバー設置にお伺いさせて頂こうと思いますが、ご都合はいかがでしょうか?」


は?何の話だ?新手の詐欺か?怪しむ不死川の眉間にどんどん皺が寄っていく。
ドリンクサーバーなんてこのオフィスに無いし、設置する予定もない。何勝手に今日の午後に来るとか言いやがって。


「申し訳ございません。何かの間違いではないでしょうか?私どもはドリンクサーバー導入の予定はございません」


「…左様でございますか、大変申し訳ございません。只今、ご契約状況をご確認致します。一旦、保留にさせて下さい」


想像していたより強引な相手ではなさそうだ。詐欺ではないのか?


「大変お待たせ致しました。キメツショップ、通販事業部…"冨岡義勇"様はそちらにはいらっしゃらないでしょうか?」


「…おりますが」


この時、受話器を持つ手に力が入り、不死川はもう嫌な予感しかしなかった。


「え〜、冨岡義勇様のお名前で今回、ご契約を頂いているようなのですが」


「……左様ですか、一旦お電話折り返しさせて下さい」


かしこまりました。と、折り返しの電話番号を聞いて不死川は受話器を置く。

アイツ!ふざけんなァ!と速攻で怒鳴りに行こうかと思ったが待て待て待て。一旦、冷静になれ。普通に考えて…

有り得ねェ。

いくらボケ岡だとしても会社にドリンクサーバーを置く契約を勝手にするか。自分が知らないだけで、きっと悲鳴嶼さんは知っているはず…


「…初耳だ」


やっぱりアイツ!ふざけんなァァァァア!
事情を悲鳴嶼さんに説明している途中から、正直表情で悲鳴嶼さんも把握していないのは分かってはいたが、初耳と効いて確定。
これは冨岡の単独行動のようだ。

自分のデスクに置いてあった、会議用の資料を手に取り、丸めながら伝票チームに行き、後ろから思いっきりぶっ叩いてやった。



「何してんだテメェッ!」


「少し痛いぞ、不死川」


「ドリンクサーバーなんて勝手に契約しやがってェ!」


「納品日決まったのか?」


「んなもンは解約しろ解約ゥ!」


「何故だ。コーヒーがいつでも飲めるぞ。それにお茶も2種類ある」


「悲鳴嶼さんにも相談しねェで、ダメに決まってンだろォ!」


「聞かなくても許可される事は分かっている。本社では部署毎に1台設置されている事を最近知った。不公平だろう」


「本社は本社、ウチはウチだろーが!」


「フッ、そんなお母さんみたいな事を言うな不死川」


スパーンッ


「誰がお母さんだゴラァ!」


再び、不死川のツッコミが炸裂。


「不死川、これからは"SE"、従業員満足度を上げていく事も俺は重要だと思う」


「それを言うなら"SE"じゃなくて"ES"だボケェ!"SE"ならシステムエンジニアだろうが、システムエンジニアだけ満足させてどうする気だコラァ!」


「ふふっ、不死川さん、コントはそれぐらいにしてください」


「コントじゃねェ!」


「話を戻しますが、私も本社には部署毎にドリンクサーバーがあるんでしたら、同じくオフィス仕事の私達の所にあっても可笑しくないと思いますよ?」


胡蝶が冨岡の味方だと…!?

不死川だけではなく周囲にいた者が驚く。
皆の手が止まってしまう程の衝撃。
いつも空気のように扱っている冨岡の肩を持つとは。


「と、兎に角なァ、悲鳴嶼さんの許可無く契約して言い訳ねーだろォ!」




それから冨岡は何時も通り涼しい顔して、分かった。もう契約したんだからこれからの事を考えよう。と珍しく管理者っぽい事を言い、結局は悲鳴嶼が本社に報告し、了承を得ることが出来た。




「お世話になりますードリンクサーバーのクロウです。設置しに参りましたー」


そして、早速ニコニコした業者がドリンクサーバーを設置しに訪れる。

あれ、こんなところに空間なんてあっただろうか。でも、元々ここに何があったのか聞かれても思い出せない。丁度、ドリンクサーバーと備品を収納できる棚、兼作業台が納まるスペースがあり、そこにぴったりと設置できた。
業者から、使い方やクリーニング方法、備品についてをSV数人で話を聞き、説明を終えると最後までニコニコの業者は、パンフレットなども置いて帰って行く。




ドリンクサーバーの設置は皆に喜ばれ、特に女性陣から冨岡さんありがとう!の御礼の言葉を掛けられて、冨岡も満足気な表情をしている。

夢もドリンクサーバーを気に入り、毎日使用。いつもアイスコーヒーにミルクを入れて飲むのがお気に入り。




「あれ、不死川はホットのブラックじゃねーの?」


1階にはドリンクサーバーは設置されないので、宇随と伊之助も2階へ飲み物を取り来ており、目敏い宇随は気になった。


「…たまには違う飲み方もする」


「ふぅ〜ん…あぁ、そういえばアイツもアイスコーヒーにミルクだったよなぁ」


「他にもいンだろ。夢だけじゃねェ」


「俺は夢なんて言ってねぇけどな」


「宇随ィィ」


「痛ェって、肩パンすんな。悪かったって」


おちょくられた不死川は、宇随の肩を殴って牽制する。
大して痛く無いように見える宇随は、カップに蓋をし、「あ、そうそう。ポレンディの抹茶オレのやつ、夢専用って書いとけ。冨岡も飲んでるぞ」とボソリと言い残して、また肩パンを食らわないように、ホットコーヒーを持っているとは思えない速度で言い逃げをした。


な、な、何でバレてんだァ!?
その場で立ち尽くし、赤面する不死川。
誰にも気づかれていないと思っていたのだ。

ドリンクサーバーはお湯も出るので、ティーパックがあれば、紅茶も飲めるね!と誰かが言い出したのを切っ掛けに、棚にジャスミン茶や紅茶数種類、ココア、ゆず茶などを棚に置き始め、ドリンクバー状態になっている。
そこに不死川はこっそりと、夢が好きな抹茶オレの粉を置き、夢が喜んでくれるかなぁと、密かに無くなっては買い足し、無くなっては買い足しを繰り返していたのだが、誰にも気づかれていないと思っていた。
しかも、なんで1階の宇随が知っているんだ。宇随が知っているなら、他の奴にもバレているのではないかと、不死川は恥ずかしさから変な汗いた。

が、正直とっくに周りは気づいている。
気づいていないのは夢と冨岡のみ。


夢が、これ飲んでもいいのかなー?止めた方がいいのー?と玄弥に聞いた事があり、玄弥も飲んでいいと思うぞ。しか言わなかったのだが、心の中ではお前用だから、是非、美味しい美味しいと喜んで飲んでやってくれと思っていた。そしたら兄ちゃん喜ぶから。
そして、周りもそう思っているので不死川の愛が籠った抹茶オレには、基本誰も手をつけない。…冨岡以外は。


不死川の長〜い長〜い片思いは、いつ実るのか。
ネットショップで働いている皆が思う。頼むから、不死川の思いに早く気づいてやってくれ。あんなワイルドな見た目をして、地味な努力をするのがいじらしい。
もう、お節介をしたくなるのを皆がぐっと堪えている。




「抹茶オレに冨岡禁止と貼った奴は誰だっ!?」


「冨岡さ〜ん?いい加減空気読んでください」



end.


ちなみにドリンクサーバーの業者を手配し、冨岡に契約するように仕向けたのも、善逸に頼んでドリンクサーバーと棚を設置するスペースを空けるように準備したのは胡蝶様でした。



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