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24話





「で、電源を切ってやがるゥ…」


「不死川落ち着け、電源を切っているのなら、今、納品中なのだろう。もう少しで終わる」


そうか、そうだよな。
伊黒の言う通りなんだろうが、自らの妄想により勝手に不安になってしまった不死川。
早く戻って来てほしい、目の届く範囲にいてくれないと落ち着かない。
ため息をついたところでまた電話が掛かってきた。しつけェな、と思いながらもまたシステム担当からの電話に出た。




伊黒の想像通り、煉獄と夢はお届け先の居酒屋に着き、丁度挨拶と謝罪を終えた所で夢の緊張は最高潮に達していた。


「こちらこそ、ご無理を言ってすみませんね。愈史郎がお電話で強く文句を言ってしまったようで…」


そう謝罪してきた女性はこの居酒屋の店長で珠世さんと言う。彼女は店長と言うよりおかみさんと言う方しっくりくる和服が似合う綺麗な女性で、電話で玄弥に今日中に持って来い!と怒っていたのは奥の調理場に見える愈史郎と言う男性らしい。
店内は明日のオープン準備で忙しそうだ。店員さんが接客のシュミレーションをしていたり、備品を片したりしている。


「とんでもございません!こちらの手違いでご迷惑をお掛けしておりますので!ただいま、商品をお持ちいたします」


深々と頭を下げてから煉獄と夢は車に戻り、車に積んで来た沢山の商品の箱を何度か往復して店内に運び込む。


「煉獄さん、あの、設置までしていきませんか?」


「うむ、良い考えだ!店長さんに聞いてみよう!」


夢の提案はオープン準備に追われている居酒屋には喜ばれ、お願いできるのなら是非と言うことで、煉獄と箱を開け、商品一つ一つがビニール袋に包まれているので、そこから取り出して座布団を設置していく。
桜の花が描かれている座布団が和風の居酒屋の雰囲気にとても似合い、華やかになった気がする。


「大変助かりました。却ってこちらがご迷惑をお掛けしました」


座布団を設置して、梱包資材も持ち帰る事にしたので車に詰め込み終えた所で申し訳なさそうに珠世が話しかけてきた。


「少しでもお役に立てて良かった!このような事が無いよう気をつけて参ります。今後ともキメツショップを宜しくお願いいたします!」


「珠世様をもう困らせるなよ!」


「愈史郎くん!おやめなさい!ごめんなさいね、お気になさらないで。失敗は誰にでもあります。良かったら是非お食事しに来て下さい」


「大変、ご、ご迷惑をお掛け致しました。本当に気を付けます。誠に申し訳ございませんでした」


煉獄がそれでは失礼します。と挨拶をして最後に深々とお辞儀をして車に戻る。

会社を出た時は慣れない香りのする車内に緊張したのに、この香りがもう煉獄の車に戻ってきた。終わった。と実感を与える安心するものに変わっている。
シートに座って体重をかけると身体の力が抜けていくのが分かり、今まで自分の身体がかなり緊張で強張っていたのかがわかった。


「よし、戻るか!…おぉ、ははっ、不死川は気が狂っているな」


「不死川さん、怒ってるんですか?」


スマホを見た煉獄が不死川は狂っていると言う。なんと言うメッセージが来たのか、恐ろしく思いながら夢もスマホの電源を入れる。
煉獄が見てみろと言うので煉獄のスマホを覗き込むと…
着信履歴が『不死川 実弥』で埋め尽くされていた。


「わぁ……わっ!私もです!」


夢のスマホも不死川から多数着信があり、手にじわりと汗が浮かぶ。
煉獄が折り返しの電話を発信したようで、直ぐに受話器越しに不死川の『遅ェ!』とお叱りが聞こえてきた。


「商品を設置まで行ってきたのだから致し方あるまい!……あぁ、そうだ。……何を言っている!君の頭は大丈夫かっ!?……俺は不死川の方が心配だ。あぁ、……ちょっと待て」


「夢、不死川が代われと言っている」


えぇ…そんなぁ。不死川に怒られる心の準備はまだできていなかったのに。
しかし、断るわけにもいかず、煉獄からスマホを受け取る。


「お疲れ様です。お、遅くなりまして申し訳ございません」


「大丈夫なのかい」


"大丈夫"とは。
煉獄が電話に出た時のように怒鳴られると思っていた夢は、予想外の言葉に一瞬頭が理解できずに固まってしまった。


「……はい、今、無事に終えたところです」


「何だ今の間はァ。まぁいい、とりあえず早く戻って来い」


心配してくれていたのだろうか。
もう一度謝ってからスマホを煉獄に渡すと、一言二言話すと電話を終えたようだ。
もしかして、今日、ミスをしてから不死川に睨まれていたような視線に、状況確認はずっと心配していてくれてのもの?

スカートをぎゅっと握った夢の頭に大きな手が乗る。


「よく頑張った!」


大きな手で優しく頭をポンポン、と小さい子をあやすような煉獄を見ると、眉を下げてとても優しい表情をしており、そんなに優しくされると泣いてしまいそう。


「ありがとうございます。煉獄さん、今、私、優しくされると、泣いちゃい、そうです」


「それは不味いな!泣かしたら狼に何を言われるか分からないからな!」


おおかみ?
パッと手を離した煉獄はエンジンを掛け、会社へと車を走らせた。




会社に戻ると定時から30分程過ぎており、だいたいの人は退社している時間。
煉獄の車から沢山の段ボールとビニール袋を降さなくてはいけない。1階の撮影室横に宇随が、撮影に使う商品を保管する倉庫になっている部屋があるので、そちらに一旦置かせてもらう事にする。
煉獄と前が見にくくなりつつ運んでいると、いきなり手元の段ボールが消えた。


「あ、不死川さん…お疲れ様です」


自分が片付けてくるから、夢に帰る準備をして来いと言い、不死川は煉獄と行ってしまった。言われた通りに自分のデスクの片付けに向かい、少しでも早く帰る準備をして1階に行ったが、丁度梱包資材の片付けも終わってしまったようだ。
煉獄、不死川に宇随も居て何やら話している。


「すみません、もう片付け終わってますね」


「うむ、もう片付いた。上がってくれ」


「今日はすみませんでした。気をつけます」


もう謝らなくてもいい。お疲れ!と疲れを感じさせない煉獄の声と宇随にもお疲れと言われ、夢もお疲れ様です。と挨拶をして顔を上げると何かが飛んできた。


「わっ!」


「俺も直ぐ上がるから、乗ってろ」


そう言うと不死川は煉獄と一緒に2階向かって行く。
慌てて掴んだ物を見ると、夢の手の中にあるのはキーケース。これは…車に乗ってろと言う意味であっているのだろうか。
緊張から解放されたばかりだったのに、こんな事されたらまた緊張してしまう。しかし、夢に断る選択肢はないので、また胸が痛いくらいにドキドキしながら不死川の車に向かい、馴れない手付きで車のロック解除。
一人で不死川の車で待機することがこんなに落ち着かないとは。
嗅ぎなれつつある不死川の匂い。異性として意識し始めてしまったので余計にドキドキしてしまっている。


「待たせたなァ」


不死川は宣言通りにすぐやって来て、キーケースを差し出すとそれを不死川が受け取り、手が触れる。
また自分は顔を赤らめていないだろうか。少しでも赤いかもしれない顔を見られないように夢はうつ向き、不死川は馴れた動作で車を発進。


「まだヘこんでるのかい」


「あ、いえ、もう…大丈夫、です」


自分が下を向いているからまだ落ち込んでいると思わせてしまったようだ。心配ばかりかけて申し訳ない。


「お客様はそんなに怒っていなかったと聞いたが」


「はい、店長さんはとても優しい方で、逆にこちらが迷惑をかけたと謝られました」


「そうか…結構時間かかってたみてェだが…変な事、されなかったかァ?」


「変な事?変な人は居ましたが変な事はされてません」


あ、この方向は夢の家でない。またコーヒーショップに連れていってくれるのか。確かに喉が乾いたし、リラックスしたいと思っていたので嬉しいが、ドキドキする。


「変な人ォ?」


「はい、発送センターに変わった人がいました」


発送センターは変なヤツしかいねェと言った不死川は、やはり前にも帰りに寄ったコーヒーショップのドライブスルーに入っていく。
何も聞かずにコーヒーと抹茶ラテを頼み、夢に渡すと車を停める。
ありがたく抹茶オレを頂き、飲み始めた夢のスマホが鳴った。


「ん、誰だろう?」


ポップアップで表示されたSNSの名前に見覚えは無く、不思議そうにしている夢に不死川も覗き込む。
中を開いてみると、今日伺ったメーカーの方だ。簡単な挨拶に今度食事に行かないかと言う内容。


「オイィ、何だこれェ」


「ひっ、何でしょう、名刺交換しかしていないのですが…」



end.



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