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30話





夢に引っ張られている実弥は、どうしよう子供の名前をまだ考えていなかった。
と寝起きの頭で思う。先ずは名前がなくては可哀想だ。女の子なら可愛いらしい名前がやっぱりいいよな、『花』とか名前に入れたら可愛いに決まっている。そんでもってうんと幸せにもなれるよう名前がいい。男だったら強くて優しい男になってほしいな、好きな女や子供を守らなきゃいけねェ。でも、女でも男でも健やかに育ってくれたらそれで満足だな。でもでも、できれば夢に似た女の子がほしい。
と言うか…


「お前ェ!走るなァ!安静にしてろォ!?」


「わぁ!?いきなり何!?」


寝ぼけて子供の名前は何がいいだろうかと、幸せな妄想をしていたが徐々に頭が覚醒し、夢が身重になったと思っている実弥は走る夢の体に腕を回して抱き上げた。


「安静にしてなきゃ駄目だろうが」


「何で?…分かった、分かったから下ろして」


全くもって意味が分からないが下ろしてほしくて、夢は分かった分かったと言う。
それから縁側から庭に出る時も実弥が夢の手を取り、「足元に気をつけろォ」と異常に気を遣い始めたので自分は足元よぼよぼの老人にでも見えたのかと逆に実弥の変貌ぶりが心配になった。


「実弥くん見て?」


「あ?なンだよ」


朝、夢に起こされて連れて来られたのは鳥小屋。見てと言われても、夢の烏が巣に座ってるだけ、実弥の烏は不在で何処かに行っているようだ。
夢が烏の前に果物を置くと、烏は少し体を起こして嘴でつつき始める。


「ほら、下のやつ卵じゃない?」


「はァ!?」


確かに見える。薄緑のような薄い水色のような色をした物体が、烏の足元に。


アイツ何ヤってんだァ!?俺の知らない間に勝手に子作りしやがって!最近、俺を見下すような感じがあったのは、あれは…
童貞の俺を馬鹿にしてやがるゥゥウ!?


衝撃事実に目をかっ開き、固まる実弥の前に烏が丁度戻ってきた。


「実弥、新婚ノ邪魔スルナ」


「お前いつの間に…と言うか、生まれるって」


「生まれるよね、烏の雛!」


やっぱ烏の事かよ!紛らわしいんだよ!そう言いそうになったが、夢には伝わらないだろうし、この時ばかりは自分がまだ童貞の事実に安心した。夢との初めてはしっかり覚えていたいのに、気づかぬ内に終わってしまったのかと、少なからずさっきまでショックを受けていたのだ。


「育児休暇ー、育児休暇クレ、実弥ー!」


「やれるかボケェ」


違う生き物だけど、先を越された感が否めない。畜生、俺だって早く素敵な目眩く夜を過ごす新婚生活がしてェと思ってる。
そう考えると昨夜の出来事を思い出してしまい、また分身が目覚めそうだ。昨日あんだけ、種を撒き散らせておいても、大人しくならないのは精力飯のせいか。


「夢、暫くコイツは巣から離れねェだろうから、お前も家でじっとしてろ」


「えーお出かけしたい」


「…大人しくしてたら、今年は夏祭りに連れてってやる」


「え!?本当!?行きたい!」


年齢とともに夢を屋敷に閉じ込めがちな実弥は、ここ数年、夢を夏祭りに連れて行ってなかった。去年は行きたいとせがまれたが、自分は鬼狩りの任務が当日あって行けなかったので、夢一人を狼(他所の男)がいる所へ行かせるなんて実弥が許す筈がない。だが、今年はお館様もお祭りに行かれると言うので、当日は柱全員で祭りの警護にあたることにした。

このお祭りに、実弥は三つの目論見がある。
一つは、純粋に夢を喜ばせたい。
二つ目は、周りの恋人や家族を見て、いいなと思わせる。
三つ目は、夢は俺の女だと周りに主張するため。

杏寿郎のように、夢に恋心を抱くものが現れるのを防ぎたい。年々大人になっていく夢は可愛さも残しつつ、綺麗になっていく。勝手に夢の事を見ないでほしいし、好きになったり、変な妄想している野郎は許せない。実弥にはすぐ分かるのだ、夢の事を厭らしい目で見ている野郎は。その度に、「犯罪者ァァァァア!失せろォォォォオ!」と睨みを利かせて心の中で叫んでいる。夢を厭らしい目で見る事は実弥的には犯罪なのだ。そう、たまに夢と一緒に街に出掛けると犯罪者がいる。夢は俺のなんだから、本当に見ないでくれ、お前ら犯罪者に見られると俺の夢が汚される気がするんだ。

可愛い可愛い大事な夢を皆に、増しては犯罪者の前に出したくはないが、今後の犯罪者撲滅の為にと、決断したのである。

そんな実弥の思いはつゆ知らず、夢は「ありがとう!実弥くん!楽しみにしてるね」と満面の笑みを見せた。


じぃーと夢を見つめていた実弥に「朝ごはん食べる?」と少し首を傾げてくる夢がめちゃくそに可愛い。本当に持ち歩きたい。何でこんない可愛いのか。隊士達があのこが可愛いだの、胡蝶が美人だ、巨乳がいいだのたまに話しているのが聞こえて、その話題の女を見てみても何も心引かれない。まぁ、不細工ではないが普通の女じゃないかと思う。
実弥にとって女の分類は夢か、それ以外に分類される。

以前、宇随にどんな女が好みなんだと聞かれ、夢。と答えると、そうじゃなくて可愛い系とか綺麗系とかあるだろ?と言われたが夢であればなんでもいい。つったら、つまんねぇ。と言われた事があったな。そんな事をぼんやり思い出しながら、居間に行き、夢が朝食を運んでくれたが…

朝から精力飯かよォォオ!?
旨ェよ、旨ェけど、俺には効きすぎる。コイツ本当に分かってねェな。昨日嫌々言ってけど、この飯が余計に俺が暴走する原因になっている事を…上等じゃねェか、食って今夜も発散してやらァ。


「おかわりィ」


「わっ、もう食べたの?今持ってくるね」


また、茶碗一杯に盛ってもらったカキの炊き込みご飯。それを掻き込み完食。


「ごっそさん」


今日も身体の調子は良い。寧ろ、力が有り余っている。今夜も鬼を瞬殺して、早く帰って夢の身体を解すとするかァ。


身体を鍛えた後、実弥は用事があり屋敷を出る。ついでに天元がいないか探しながら。次、出会ったら御礼と言う名の一撃み決めてやろうと思っている。しかし、残念ながらこの日は天元を見掛けなかった。


実弥が睨みを利かせながら町を歩いている頃、風柱邸に訪れた者が一人。


「不死川はいるか」


「実弥くんは今、出掛けてます」


「…そうか」


「はい…」


誰なんだろうこの人は。そして、実弥くんが居ないと言っても帰る気配がない。
どうしよう、気まずい。



end.


調べたら烏の卵は白じゃないんですね!チョコミントアイスみたいな色合いをしてましたよ!\(^o^)/





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