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23話





「名刺は持ったな?」


「はい」


今、夢は初めての煉獄の車に乗り、シートベルトを絞める。車の芳香剤が優しく香り、普段嗅ぎなれていない匂いに緊張が増す。

錆兎のおかげでメーカーから商品を出して貰えるようになったのでメーカーで20個、自社の発送センターで30個を回収し、そのままお客様へ直接お届けに行くことにした。宅配業者からの商品回収は諦めたのだ。
お客様にも今日の夕方までに商品を直接お届けに行く事で了承して頂いた。


よし!と緊張もせずいつもと変わらない煉獄が頼もしい。
エンジンをかけて車が動き始める。


夢は初めての煉獄の車にも、これからメーカーと発送センターに行くのも、それからお客様にお詫びして商品を渡すという特別外出ミッションにドキドキしっぱなしで生きた心地がしない。絶対に今日は帰宅したら疲れて即寝てしまうだろう。即寝る自信がある。

しっかりしなくては。極度の緊張で声や足が震えてしまわないか不安だけど自分が行くと言ったんだ。頑張らなくちゃ。


錆兎からの連絡を受けた夢は、煉獄に報告すると煉獄は不死川をちらり見る。
またシステムの人と電話をしているのを確認すると、マネージャーの悲鳴嶼に状況を説明と外出の許可をもらい、戻ってくると煉獄はワークチェアに掛けていたジャケットを羽織った。
その時夢は、自分から一緒に連れていってほしいと進言したのだ。

自分がミスをしてしまいこのような結果になった。煉獄にだけ謝らせに行くのではなく、自分もお客様に謝りたい。

自分も一緒に行くと言った時、回りは驚いていたし、不死川には睨まれていた気がするが。何故、お前が行く。行っても邪魔になるだけだと言いたかったのだろうか。

煉獄が運転する車の窓ガラスに写った自分の顔はとても情けない表情をしていた。




「着いたぞ、行こう!」


「はい!」


まず錆兎が交渉してくれたメーカーにやってきた。
煉獄は難なく挨拶と名刺交換をし、名刺交換なんて片手で数える程しかした事がない夢は不慣れ感が満載で、なんとか煉獄のマネをして終えたが、手汗で頂いた名刺が少し歪んでしまう。
流石、キメツショップに来る前に営業マンをしていた煉獄は軽快に話を進め、商品を20個頂き車に積み込む。メーカーの方はとても親切で夢の箱を持つのを手伝ってくれた。


「次は我が社の発送センターに行く。夢は発送センターに行った事があるか?」


「ないです」


「…そうか、ならば車で待機しているといい!」


何故?折角の機会だし、発送センターがどんな感じなのかも見てみたい。それに次は30個分だ。商品が軽くて、そんなに大きな箱ではなくても数が多いので自分も手伝った方がいいと思う。


数十分車を走らせて発送センターに着いた。
初めて見る発送センター。駐車スペースが広く、今も何台かトラックが止まっており、荷物を積込作業をしているようだ。皆、あちこちに物を運んでいて忙しそう。
伊之助はこちらの力仕事の方が向いてそうだし、混ざっても違和感がないなぁと夢は思った。




「その女はなんだ、杏寿郎」


「えっと、同じ職場で…」


「お前に聞いてない。俺は杏寿郎に聞いているんだ」


「同じ職場の仲間だ!猗窩座!早速だが急いでいるので商品を受け取りたい!」


なんなんだこの人は…ホモなんだろうか。
ちらりとゴミを見るような目で夢を見た後、お前は話に入ってくるなと言う感じで夢中で煉獄に話している。目を輝かせて。
どこか煉獄はそっけなくて、猗窩座が飼い主に尻尾を振る犬に夢は見えた。


…煉獄が車に待機してなさいと言った意味が分かった気がする。


それから猗窩座も一緒に商品を車で運んでくれたが、必死に煉獄に話を掛けていて、いつなら飲みに行けるんだ、一緒に語り合おう、最近は鍛えているのかなど沢山話掛けている。
夢が商品の箱を落としそうにした時に煉獄が心配してくれたが、猗窩座はまたどんくさいヤツめ、と吐き捨ててまたゴミを見るような目で見られた。

終始、お前が邪魔くさいんだよオーラを出されて夢は萎縮し、さっさと商品を積込んで車に乗り込む。
煉獄も猗窩座を振り切り、運転席に乗り込むと窓を開け感謝を伝えると車のエンジンを掛けた。


「素晴らしい提案をしよう。お前も発送センターに来ないか?」


「行かん!俺は発送センターで働かない!」


納得のいかない表情の猗窩座を置いて車は発送センターを出る。

何やら自分の知らない世界を少しだけ覗いた気がする。確実に女の夢に嫌悪感を向けていて、男の煉獄に夢中だった猗窩座。あれは同性愛、ホモというやつか…
煉獄は、長らく恋人はいないと聞いている。煉獄がモテないことはないだろうから、不思議に思っていたがもしかして…と思い運転している横顔をチラ見した。


「なんだ!」


「いえ、なんでもないです!」


「…言っとくが、俺は女性が好きだ!」


「いや、私は何も言ってないですし、何も見てませんので…」


何故分かったのか、よく煉獄には考えている事が顔に書いてあると言われてきたけれど今は運転中。煉獄は前を向いて夢の顔は見ていないはず。
不思議に思っていると煉獄が口を開く。


「顔を見なくとも雰囲気で分かる!誤解されては堪らんから言っとくが、猗窩座は既婚者だ!」


「えっ!?何で!?えっ!?ホモじゃなかったんですね!?」


夢がビックリして本音を漏らすと、調度信号が赤になり、ブレーキをゆっくり踏んだ煉獄が振り向いた。


「やはり、有り得ない勘違いをしていたようだな!」


「わっ…すいません」


ホモ疑惑は心外だったようで煉獄から圧をかけられるように言われて、思わず体を引く。


「分かってくれたなら良い!もうすぐで着くから気を引き締めろ!」


「はい!」




一方その頃。


とんとんとんとん…


「遅ェな」


「はぁ…不死川、気が散り過ぎだ。まだ1時間半程しか経っていないのだから、当たり前だろう。場合によっては直帰するかもしれない」


不死川の隣にいた伊黒はため息をつく。
夢が煉獄と外出した事により、落ち着かなくなっている不死川に憐れな視線を投げた。


「いや、それはねェ。夢の私物が残ってるからゼッテェー戻ってくる」


「目敏いな」


「なんか文句あんのかァ」


机を指でとんとんと叩き、ニコチン切れでイライラするオッサンのようだと伊黒は口にしそうになったが、今の不死川には関わると面倒臭いことになりそうなので止めた。


今日は月曜日に会議で決まったシステムの最終確認で不死川に何度も電話がかかってきて、夢の様子が気になりまくりで、どうなっているか聞きたいのに邪魔ばかり入っていつもよりイライラしている。
更に、煉獄と2人で外出してしまった。不死川もお客様対応の責任者なので自分が代わりに夢と外出したかった。公私混同は良くないかもしれないが、そんな事は最近の不死川は気にしなくなっている。
そんな余裕は無いんだ。今を逃したら…
この距離を縮めている今を逃したくない。
卑怯かもしれないが、落ち込んでいる夢は自分が慰めたい。俺がいるから、何も心配しなくてもいい。夢にとって安心させられる存在になりたいし、守りたい。

それに今回の夢のミスをカバーした事により煉獄に惚れられたら悔やみきれない。煉獄だって巨乳好きだから夢を好きになる可能性がある。
頭で2人の事を考えるとどんどん良くない妄想が広がり、より落ち着かなくなってしまった。

今はどこにいるのか、どんな状況なのか。
状況確認ぐらいしてもいいだろうと不死川はスマホを取り出して、電話帳から夢の番号を押す。




「現在、電波の届かない所にいるか、電源が入っていないため、お繋ぎできません」



end.



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