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21話





毎週、金曜日だけじゃなかったの。
何故、火曜日の今日も夏祭りの準備をするのか。
朝礼で言っていた通り、仕事を早く終わらせて浴衣の試着をする事になった。


「何か問題があれば今日、返品交換して金曜のポスター撮影に間に合うからだ!」


「へ?」


「また、何故と顔に書いてあったのでな!」


「…そんなに私って、分かりやすいですか?」


「分かりやすくて良い!」


不味いのではないか。そんなに分かりやすかったら不死川が気になっている事もバレてしまう…


「夢ちゃん、着替えに行きましょう?」


声を掛けてくれた甘露寺に返事をしながら、気を付けようと思い、夢も更衣室に向かった。


それぞれ選んだ浴衣を簡単に着て、丈の確認などを始める中、いつまでも着れない男が1名。


「こらっ伊之助!大人しくしろ!」


「動きずれぇー!」


「気絶させるか?」


「よもやよもやだ」


炭治郎と善逸が手伝って伊之助に何とか着せようとするが帯を結ぶと、足が広げられないだの、身体が締め付けられて苦しいだの暴れる。ぐずる子供のようだ。

最終的に宇随の手刀によって気絶させられ、その間にサイズ感を炭治郎が確認。暫く目を覚まさなさそうな伊之助を宇随が撮影室に転がしとけと言うので、撮影室にある宇随が持ち込んだ和モダンな木の枠にクッションが嵌め込まれているオシャレなソファーに伊之助を炭治郎と善逸が運んだ。


「あらー!いいじゃない!」


「そ、そうですか?」


皆とても可愛い。自分はやっぱり見劣りする気がする。


コンコンッ


「おい〜女子ども〜この前、ネイルしたヤツ写真撮らせてくれや〜」


宇随だ。そういえば浴衣に合わせてネイルしてもらったが、肝心のネットショップに載せる写真がまだだった。


「はーい、浴衣着たままでしょうか?」


「おう、そうしてくれ。じゃ、撮影室にいるからな」


皆で更衣室を出てネットショップに載せる写真を撮る為に、撮影室に向かう。
男性陣はそのまま事務所で着替えたようで撮影室に向かう途中に見えた。

同系色の浴衣…一瞬だが事務所内で浴衣を着ている不死川の後ろ姿が見えたのだ。周囲にも、赤や、黄色、紫など様々な色の浴衣を皆が着ている中、目を奪われたのは風車模様の深緑の浴衣。
後ろ姿だけでカッコいいと思ってしまった。
自分が手を伸ばしていい男性ではないのに、本気で好きになってしまいそうな自分が嫌になる。
他の事を考えようとあれこれ思考を巡らすも、ネイルの撮影の順番がすぐ回って来てしまい、浴衣を着た膝の上に手を置き写真を撮られていると、どうしても自分の爪に描かれた風車を見つめてしまい不死川が頭に出て来る。


「はっ!?起きたー!?」


突如、ソファーに転がされていた伊之助が目を覚ました。
そして、起きたと同時に鬱陶しそうに浴衣を脱ぎ始め、一瞬でパンツ一丁に。女性陣から悲鳴が上がるが、夢とカナヲは学生時代から伊之助の裸に近い姿はよく見てきたので悲鳴は出ない。
伊之助は浴衣を放置したまま撮影室を出て行ってしまった。

もう、しょうがないなぁ、と夢が伊之助の浴衣を拾い追いかける。


「伊之助!浴衣シワに…きゃあ!?す、すいませんっ!!」


事務所に入った夢の目に入ったのは肌色。
男性陣が浴衣からスーツに着替えようとしている所で、恐らく見たのは一瞬だがハッキリ見てしまった。

パンツも緑だった。
わぁぁあ、ドキッとしてしまい、手に持っていた伊之助の浴衣を胸にぎゅっと抱き寄せる。


「おい」


事務所の入り口の横で固まってた夢へ声をかけられた。
はっとして振り向くとムッとした顔の不死川。スラックスの前は閉じているが、ベルトはまだ止まってなく垂れ下がり、上半身裸。


「わぁ!?し、不死川さん!?」


不死川はよくワイシャツのボタンを2つぐらい外しているので、その隙間から見える感じで筋肉凄そうと思っていたが、上半身裸で露になった肉体は想像以上で迫力が凄い。

ドキドキし過ぎて直視が難しい夢は浴衣で顔を隠す。
すると、伊之助の浴衣を引っ付かんだ不死川がぐいと引っ張る。


「放せ」


「はいぃ!」


ぱっと浴衣を放した瞬間に手で顔を隠した。


「おい」


「すいません!」


「何で隠す」


「直視できそうにないです」


チッと舌打ちが聞こえた気がする。
そんな見れる筈もない。男性に馴れてもいないし、増してはそんな色気たっぷりな姿を。

事務所の中から、不死川を呼ぶ声がする。


「テメェ、金曜覚悟しとけよォ」


そう言うと伊之助の浴衣を持って不死川は事務所に戻って行った。


金曜覚悟しとけとはどういう事だろうか。自分は何の覚悟をしておけばいいのだろう。どっちにしろ、金曜のポスター撮影は不安でしかない。と言うか、暫く不死川を直視できそうにない。伊之助の裸では何とも思わないのに不死川の裸を見るのは無理そうだ。
割れた腹筋に、胸筋や腕の筋肉が凄かった…




翌日の朝礼時に不死川と目があった夢は下を向いて見事に目を逸らせてしまった。
その瞬間に不死川の声に力がこもったのを感じた玄弥はチラリと横を向くと、夢が下を向いているので何となく察する。


今日の席分けは、甘露寺の島に炭治郎、村田、善逸、煉獄の島は玄弥と夢。
何事もなく1日が終わればいいなと玄弥は思ったが、後で思い返せばこの時にもうフラグが立ってしまっていたと思う。

玄弥が昼過ぎに引いた案件は、『午前中に配達予定の荷物が届かない』。また、宅配業者の遅延か、仕分けミスか、もしくは破損してしまったのか。
とりあえず、担当の配達営業所に状況の確認でまず電話をしてみた。


「いつもお世話になっておりますキメツショップの不死川と申します。配達状況の確認を宜しいでしょうか」


送り状番号を伝えると配達ストップの依頼が来ていると言う。そんな筈は…
顧客の対応履歴には配達日を変更したと夢が残してあった。
配達日時の変更の依頼ではないか、と確認するもやはり配達ストップの指示が入っていると言う。夢の依頼で。


「現在、荷物はどちらにございますか。……そうですか…分かりました。ありがとうございます」


マジか。
元々、昨日配達だった荷物を翌日の今日の午前中配達に変更だった為、今日はもうトラックに荷物を積込し、弊社に返送しようとドライバーが持ち出ししているらしい。
そうなるともう、その荷物を今日届ける事は難しいだろう。
再出荷するにしても数日待ってもらえそうか、商品は何だったのか、数量は。
顧客の注文を再度システムで確認すると、座布団50枚!?何でこんなに大量に…
注文時の備考コメントを見ると飲食店のオープンで使用する為、領収書希望と書かれていた。
領収書の宛名が恐らくオープンする店名だと思い、ネットで検索すると出てきた、配達先住所と一致している。

最悪だ。オープン日は明日だ。
これは再出荷するから数日待ってほしいは通用しない気がする。
いや待てよ…そもそも本当に夢は配達ストップの依頼を宅配業者にしたのか?まずそこから確認をしなくては、もし、こちらに非が無いのであれば宅配業者になんとか返送じゃなくて再配達に行ってもらうべきだ。


「夢、悪ぃけど、この時の宅配業者への依頼書探して来てくれねぇか?」


「うん、分かった。ん、なんか見覚えが…何かあったの?」


「うん、まあ…日時変更のはずだけど、配達ストップ指示が来てるって…」


「!?…嘘、私間違ったのかな…すぐ確認してくる」


不安そうな夢が急いでファイルを取りに行く。その様子をずっと電話をしている兄貴が目で追っている。頼む、合っててくれ!




「玄弥…私、やらかしちゃった…」


ファイル確認した夢が戻ってきて、眉尻を下げて俺に言った。

兄貴ピンチです。




end.




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