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20話





「どうなった」


「え、何がですか?」


翌朝、出勤して早々に冨岡に捕まり、どうなったのか聞かれ何の事か分からず聞き返せば不満そうな呆れた顔をされた。


「デートの約束はしたのかと聞いている」


「デ、デート!?いや、誰と誰が!?」


訳が分からない。更に聞き返せば冨岡の顔が呆れた顔から少しムッとした表情に変わる。


「夢と錆兎に決まっているだろう」


「いや、何で!しないよ!」


昨日からなんなんだ。夢もムッとしてしまったのでついタメ口になってしまい、あ、ヤバと思っているとまた冨岡が口を開く。


「そんなんだから恋人が出来ないんだ」


心にぐさっと来たのと同時にイラっともして、黙り込んだ。今、口を開いたら暴言を吐いて泣いてしまいそうになる。
私だって恋愛経験が全然無い事、モテない事を気にしているのに…朝からなんで冨岡にそんな事を言われないといけないのか。

下を向いて黙り込んでいると頭に重さを感じて顔を上げる。


「夢は…可愛い」


「…えっ」


ビックリして顔を上げると冨岡にぎこちなく頭を撫でられ、いつもの無表情より少し優しい顔をしている気がする。それより今、


「か、可愛い?」


「あぁ、可愛いと思っ…なんだ不死川」


「触んな、死ね、消えろ、これから朝礼だァ」


可愛いと言われた!?あまりに言われなれていない褒め言葉に顔が赤くなっている所、不死川が現れ、冨岡の腕を掴んで夢から離した。

朝からぶちギレモードのようでとても恐ろしい。


「お前も席に戻れェ!」


「はぃぃぃっ!すみませんっ!」


冨岡とは強制解散させられ、今日の朝礼当番の不死川が朝礼を始めたが声が怖い。まだ不機嫌継続中のようだ。

それにしてもさっき…可愛いって言われた。異性にお世辞だとしても可愛いと言われるのは照れる。
きっと冨岡は自分の事を好きとかそーゆーのではない事はわかる。昔からちょくちょく声を掛けてくれたりするので分かりにくいが、実は面倒見のいい人なんじゃないかなぁと思う。
さっき一瞬、もう嫌いって思ったけど、これからはもう少し冨岡に優しくしようと夢は思った。そして、自分は単純な人間だとも思った。


バンッ


「ひぃっ」


「お前ェ…俺の話聞いてたかァ?」


ヤバい。
可愛いと言われただけで浮かれて不死川の朝礼を全然聞いていなかった。

いつの間にか朝礼が終わっていたようで気づけば不死川が目の前に居て机を叩かれ、顔を見ると青筋が浮かんでいる。
怖い。一昨日の優しい不死川は偽者か夢だったのではないだろうか。それとも一昨日はいつもの不死川を保てないほど楽しくて、行きたかった公園だったという事なのか。


「…すいません…痛っいたた!」


「祭り用の浴衣が届いたから今日ォ!試着するからなァ!」


届くの早くない?と思ったけど、そんな事考えてる余裕はすぐ無くなった。
頬を引っ張られ、顔を近づけられて言われる。
迫力が凄くて思わず目を瞑ってしまう。


「…ッ、クソが」


摘ままれた頬から手が離れたと思えば、摘まんでいた箇所をサラリと指の背で撫でられた。
ハッとして目を開いた時には手は離れて不死川が夢に背を向けて自席に戻って行く所だった。


もう、朝から頭が追い付いていかない。
また顔が熱くなっているから赤い顔をしていると思う。怖い顔と声で怒られたっていうのにそんな事より不死川に頬を撫でられたインパクトの方が勝る。
少しでも皆に赤い顔を見られまいと俯いてデスクに座った。


「夢、顔が赤いぞ!」


「煉獄さん!言わないで!」


「ハッハッハッハッ」


煉獄が笑えば遠くから睨みをきかせた不死川にうるっせェぞォ!とまたお叱りの言葉を投げられてしまった。

集中集中!集中しなきゃと思い気持ちを切り換えて仕事に励んだ。




「夢ちゃん捕まえた!」


さて、お昼ご飯を食べに行こうと立ち上がった時に腕を組まれて可愛らしい、それでいて楽しそうな声をかけられた。甘露寺だ。


「さぁ、行きましょう」


何やらニコニコしている胡蝶にもにも声を掛けられて一緒に食堂に向かう。


今日はどこのグループに混ざってご飯を食べようかなぁと思っていたが声をかけてくれて助かった。




「で、どうだったのこの前のデート」


興奮気味の甘露寺にご飯を食べ始めてすぐ言われた言葉に喉を詰まらせてしまい、夢は慌ててお茶で流し込む。


「どうって…楽しかったですよ?」


「まだお付き合いは始まってないのかしら?」


「し、しのぶさん!?付き合ってないですよ、ただ、お互いに行きたかった所が一致したから出掛けただけですし…」


「もう、夢ちゃんったらまだそんな事言うのね」


皆、私に注目しているようで困った。何故、そんなに注目してるの?芽生え始めてしまった不死川への好意が早速皆にバレるのではないかとヒヤヒヤする。
話をそらそうとするも全然そらせてくれないし、ドギマギして食も進まない。
不死川はどんなんだったのか、とか、何か言われなかったのかとか次々質問が飛んでくる。


「夢ちゃん、写真ないの?」


ある。
あるけど、あの写真を見せたら勘違いされないだろうか。

無言の夢を見て、甘露寺、胡蝶、神崎は写真絶対あるなと思う。


「さぁ、見せて下さい」


胡蝶の圧力を感じる笑顔に逆らえず、夢はスマホを差し出した。




「近いんだとよ」


「あァ?何の話だよ」


「うまい!」


一方、こちらでは宇随、不死川、煉獄、伊黒の4人で昼食を取っていた。


「今、お前らのデート写真を見てるみてぇだぜ。お前と夢の距離が近ぇって騒いでるぜ」


人並み外れた聴力を持つ宇随には離れたところでご飯を食べている夢達の会話が所々だが聞こえるようだ。


「それで甘露寺が煩ェのか」


「蜜璃にケチをつけるな。騒がれるような写真を撮る不死川が悪い」


甘露寺が作った可愛らしいお弁当を食べながら、伊黒が反論する。
山盛りカレーライスをうまい!うまい!と食べていた煉獄が口を開く。


「不死川、冨岡にも話しておいた方がいいと思う」


「何を」


「不死川が夢を好きな事だ!」


「馬鹿野郎!声がデケェんだよォオッ!」


「ブハハハハハ」


煉獄のハキハキとした声が夢まで聞こえているのではないかと夢の方を見るが、聞こえてはいないようだ。相変わらず盛り上がっていている女子の声に掻き消されたようで一安心。

ちなみに、夢達よりは不死川達に近い所で竈門達とご飯を食べていた玄弥には煉獄の声は届いていて、玄弥も夢に聞こえたのではないかと思って兄と同じく夢の様子を確認していた。


「とんでもねェな、テメェは」


「すまない!しかし、聞こえたらそれはそれで良いと思うぞ」


「良くねェ、全然良くねェ!」


とんでもねェ事を言いやがる。折角、徐々に距離を詰めている所に自分の思いがバレて失敗したらどうしてくれるのか。


「あーおもろ。話を戻すが俺も冨岡に言っといた方がいいと思うぜ」


「…言いたくねェ」


「まぁ、お前は言いたくねぇだろうが、知らないと余計な事するかもしれねぇぜ?錆兎の件もあるしな」


確かに、煉獄と宇随の言う通りかもしれない。
だが、冨岡に伝えるとそのまま夢に伝わりそうだ。自分の気持ちは自分で伝えたい。もう少し距離を詰めて、夢の反応を見てから伝えたい。


「冨岡が夢の事を好きって線も全く無くはねぇしよ」


「そうだな、朝なんて夢に可愛いって言ってたぞ!」


確かにそれは俺も聞こえた。冨岡も夢を好きなのか?ぜってェ譲らねぇが、そうだとしたら厄介だ。

だが、冨岡は自分とは何か違う気がする。




end.




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