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26話




また約束事が増えてしまった。


「接近禁止!?それはどれくらい?」


「何だァ?煉獄に会いに行くつもりかァ?」


プンスカ怒りながら居間に戻ろうとした実弥に夢が問う。


「そうじゃないけど、町で出会ったりするかもしれないから」


「不必要に近づくな」


「挨拶ぐらいはするからね?ね?」


ふんっとご機嫌斜めの実弥の後ろを夢が着いて行く。
居間に入ると転んだ時にぶちまけたお茶がそのままになっていて夢が片付けようとするとまだ怒っている実弥に「いいからテメェはもっかい茶ー淹れて来い!」と言われて夢はビビって「はぃぃぃ!」と返事して台所に逃げて行った。


夢が茶を淹れている間に実弥はお茶を拭き取って片付ける。
改めて淹れたお茶をそそそ〜と静に差し出すとふんっと鼻を鳴らし、実弥が湯呑みを掴み、そっぽ向いてお茶を飲み始めた。
やはりまだ、ご機嫌斜めのようだ。自分は実弥の機嫌を損ねるような事を言ったつもりは無かったが…何がいけなかったのだろう。実弥の病を治す前に実弥の機嫌を直さなくてはいけなくなった。
ご機嫌取りにおはぎを出すと一瞬、ウキウキした表情になったので夢も連れて表情が明るくなったが食べ終わるとまたムスッとした、顔に不満です。と書いてあるような表情に戻ったので夢はしょんぼりする。


暫くすると「鍛えて来る」と居なくなってしまった。
残された夢は上手くいかないな〜、実弥の病を治したいし、任務で疲れた実弥を癒したいのに結局、今は不機嫌にさせてまったと自分の無力さにだんだん泣きそうになってきた。

このままだと暗い気持ちになってしまう。いけないいけない。気分を変えよう。そうだ、また刺繍でもしようと夢は裁縫道具を引っ張り出す。
実弥が使う手拭いも何枚か持ってきて、早速下書きを始めた。




一方実弥は実弥で、日課の腕立て伏せをして気分を変えようとしていた。


「私は実弥くんといます。これからもずっと、実弥くんと一緒に生きていきます」と夢が言った言葉。
それを聞いた時の実弥は心臓は激しく音を立てて、期待に胸が膨らんでいた。
やっと!やっと!…長年の実弥の求婚に答えてくれたと思ったのだ。ずっと一緒に生きていくと言う言葉に間違いはないのかもしれないが、夫婦になる。そこまで深く考えて発した言葉ではないようだった。
過去に何度櫛を贈ったことか、その度に満面の笑みで悦んでくれただけで後は何時も通り。きっと夢は櫛を女性に贈る意味を知らないのだ。
皮肉にも自分が屋敷に夢を閉じ込めていたせいで男女の関係についてはまるで知識が無い。最近は少し他人と関わりが出て来たが。でも、それはそれで実弥は焦っている。
ちょっと外に出しただけで、さっきのように煉獄がふざけた事を言いに現れてしまったではないか。

しかも、勃たないだの種無しだと失礼な事を散々言いやがって。勃つし、寧ろ杏寿郎より勃つ自信がある。自分でもすぐ勃ち過ぎて困ってるぐらいで、元通りに戻らないじゃないかと不安になる時があるぐらいだ。


誰が他所にやるもんか。夢と夫婦になって子供に囲まれて幸せな将来を過ごすのは俺だァ。
鬼を殲滅して平和な世で、夢と子供に囲まれて過ごす俺の夢は絶対に諦めねェ。

しかし、このままじゃいつになったら結婚を意識してもらえるのやら…
…やっぱり少し外に出すか…そうだ、蜜璃達ならいいな。前回も女子会とやらはなかなかいい効果があった。後で、蜜璃に手紙を出すと決めた実弥。




その日の晩御飯もやはり精力増強飯を作った夢。本人は病人食だと思って作っているがとんでもない。一般人よりも健康で丈夫な実弥。この精力増強飯の効果をこの後、思い知る。


1週間程を予定していた任務を超高速で終わらせて帰って来た為、隊士達には突然の連休が発生したがそれは実弥も同じだった。
今日は鬼狩りに行かないので夢と一緒に床に着ける。そう思うだけで、起き上がり、抑えが効かない分身に困りながらも少しでも大人しくしてもらうように寝る前に何発か予め抜いてから布団に向かった。


寝室に行くと布団が一組。そこに夢が入っている。
襖を開けて飛び込んできた光景にドキリとし、もう一度厠に行こうかと思った。
もちろん一緒に寝る予定だったが夢が布団を一組で待っているのは予想外。近づくとじぃーと様子をを伺うような表情でこちらを見ている。
すっと布団に入って、抱き枕にすると夢が口を開いた。


「怒ってない?」


それでじぃーと見ていやがったのか、コイツも結構俺のこと好きじゃねェか。

ぎゅうっと強く腕と足で抱き締めてやる。


「痛い、いっ…ん、…ぷはぁ、死ぬ!」


顔を俺の胸に押し付けてやると、夢の可愛い口と鼻が塞がって息ができなくて焦っている。少し腕の力を緩めてやると顔を上に向けて避難の目を向けながら息を吸う。
少し悪戯してやりたくなって、また頭押して胸に押し付けてやると息ができなくてもがく。


「苦しいよ!」


「ふっ、お前の必死な姿が面白くてなァ」


「もぅ」と膨れた夢は実弥の胸に額を付けて下を向き実弥の名前を呼ぶ。


「なんだァ」


「…私に内緒にしてる事ない?」


はて?夢に内緒にしてる事?
こっそり風呂を覗いた事だろうか、でも、あれはバレていない自信があるし、それとも任務に行く時にたまに寂しくて夢の私物を懐に入れていた事だろうか。
暫く考えた後に実弥は「特にねェ」と答えると夢がまたじぃーと見つめて「嘘だぁ」と弱々しく言う。


「どうしたァ?」


「…煉獄さんも宇随さんも実弥くんは病気してるって」


「ハァ!?病気なんかなってねェ!と言うかテメェいつの間に野郎共に会ったんだァ」


自分を病気と言うのにも驚いたが夢が知らない間に他所の男に会っていた事実に一気に心臓を掴まれたように痛む。


「煉獄さんは蝶屋敷に行った時に会って…宇随さんは会ってないよ、手紙だけ」


「いつの話だァ、煉獄なんかに気にいられやがって、そして宇随と文通してやがったのかァ!?



「顔、怖っ…実弥くんがこの前、長期任務に行ったのに癖でおはぎ作っちゃったから蝶屋敷に持ってってたの。そしたら、煉獄さんに会って…」


「それで煉獄に気に入られて帰ってきたってぇのかい」


面白くない、面白くない、やっぱりいつ何処で何が起きるか分からない。目が届かないとなるとすぐこれだ。


「よく、分からなかったけど、煉獄さんは実弥くんが何処か身体が悪いって言うから、宇随さんに手紙書いてどうしたらいいか聞いてみただけ」


徐々に分かってきた。杏寿郎といつ間に知り合ったのか、俺が烏を飛ばした時に夢の烏が何故いなかったのか。


「でェ、俺はなんて病気だってェ?」


「病名は教えてくれなかったけど、このままじゃ子供が生まれないって…でも、私が頑張ったら実弥くんは元気になるって宇随さんが教えてくれたの」


実弥の顔がどんどん恐ろしくなる。


「その手紙は、今何処にある」


「えっと、棚に仕舞ってる、けど」


さっきまでのほわほわして夢に悪戯して楽しんでいた人間とは思えない程に怒っているのが分かる。
あとちょっと突っついたら破裂してしまう風船のように実弥の怒りが限界まで膨れ上がっているようだ。

天元からの手紙を確認するべく、実弥は起き上がり手紙を出せと夢に言う。
見せていいものなのか分からないが言われるがままに夢も起きて、居間にある棚から手紙を渡すと直ぐ様実弥は読み始める。
無言が怖い。


「さ、実弥くん」


「……けんな」


「え?なに?」


「…ざけんなァァア!!」


「わぁあ!?」


叫ぶと同時に手紙を破り捨てた実弥。



end.



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