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19話




折角、錆兎の存在を不死川に知らせないと頑張っていた数名の努力が、夢がデスクの上に出しっぱなしにしていた名刺のせいで水の泡になった。

錆兎の名刺の裏面までしっかり不死川は見て、顔に青筋を浮かべる。


「あの、たまたま錆兎さんが来ていて、遅延対応を一緒に手伝ってくれたんです」


「…この裏面は何だァ」


「…何かあったら力になるよって、置いてかれました。すいません」


「……連絡すんなよ」


複数人がいろんな疑問を持った。

夢は錆兎の名刺を見た不死川が何故そんなに機嫌が悪くなったのか分からない。錆兎と仲が悪いのか。なんとなく責められてる気持ちになり謝ってしまったし、謝った夢に、いかにも自分が彼氏であるかのように錆兎に連絡するなよと言う不死川。

何故謝る、そして、彼氏でもないのに他の男と連絡取るなとかよく堂々と言えるな!
自分達が知らないだけで実はこの2人もう付き合ってるのか?でなければ今の彼氏彼女のような会話はおかしいと思う。

実際はここ数週間で不死川からの躾により自然に身に付いた夢の反応によるものだが、周りからすれば、え?付き合ってんの?って聞きたくなるような状況だ。

宇随は不死川が錆兎の名刺を見つけてしまった事にマジかよと思い手で顔を覆っていたが、連絡するな。と言う堂々とした束縛発言がおかしくて今は突っ伏して笑いを堪えている。
もう、堂々としていて面白い。数週間前にウジウジしてやっとこさ酒の力を借りてまだ未練タラタラな事を認め、俺たちに励まされて夢にアタックする決意をした男とは思えない。


不死川達、サブマネージャー2人が帰ってからは残りの遅延対応を追い込みで片付けた。勿論、不死川は夢の横で。




『あのよ、確認なんだけどよ、もう付き合ってんの?』


『俺も気になっていた』


今日は朝から本社に会議で夢を見れる時間が減って苛つき、それは伊黒も同じようだったが、以前から導入を提案していたシステムの案件が通り、満足のいく会議だった。
昨日の今日で夢がどういう反応を俺にするのか気になるし、顔が見たくて事務所に戻れば、夢の横の席が空いている。迷うことなく横に座ると夢の机の上に錆兎の名刺。は?なんでアイツの名刺なんかあるんだよと思って錆兎の名刺を手に取り、なんとなくヒラリと裏面をひっくり返してみるとSNSのIDらしきものが書かれていた。
ふざけんじゃねェ、本っ当に油断も隙もあったもんじゃねェ。俺の目に届かないところで何が起きるか、やはり気が気じゃない。
早くあのシステムを入れてもらおう。そうすれば本社に行く機会が減って、夢の近くにいれる。
錆兎は嫌いじゃねェ、仕事も出きるしなかなかの男前だ。だからこそ、惚れられたりしたらとんでもねェ。

帰宅して簡単に夕食を済ませ、風呂から上がったところ今日を思い返し、絶対に錆兎とは接触させてたまるかと決意しながらハイボール作り、ソファーに座れば送り狼グループでメッセージが来ている。


付き合っているのか?とは俺と夢の事か。


『残念ながらまだだ』


『そうだよな、付き合ってたら展開が早すぎだもんな』


『だとしたら、あの発言は凄いな!』


『何のことだ』


『無自覚かよwww』


『今の不死川は勝手に彼氏面だが、近いうちに本当に彼氏になれるかもしれないな!』


『まーなー自称彼氏じゃなくなるかもなーいい感じに夢も意識してるっぽいしな。いいなーデカパイ彼女ー』


『それやめろ宇随』


『付き合えたら祝賀会だな』


周りから見てもいい感じに見えるらしい事にテンションが上がらずにはいられない。コイツらに構ってる時間は惜しいが今まで何だかんだ応援してくれていたから祝賀会と言う名の飲み会には参加しよう。
早く進展させたい。夢に触れたい。
ハイボールをグッと飲み干しても高鳴る気持ちは治まらず、不死川はもう一杯作りにキッチンに戻る。




不死川が浮かれている頃、夢はお風呂に入っていた。


「はぁ〜」


湯船に浸かり身体の疲れが和らぐ。
今日は急な入荷遅れでとても慌ただしかった。だけど達成感があり、いい1日だだったと思う。

臨機応変にオペレーション変更して遅延対応を完了させた煉獄の判断は凄かったし、何でもできちゃう宇随は流石。突然のヘルプもこなせちゃう錆兎も凄いし、社内電話を取りながらも合間を見つけてはメールを送る玄弥も頼もしかった。
私も皆に劣らないように頑張らなければ。

錆兎が帰り、入れ代わるように不死川が事務所に入って来た時、ばっちり目が合った。
その瞬間に、胸が痛いぐらいにドクンと反応してしまい身体が熱く、多分…顔を赤くしてたと思う。
不死川は何時も通りに見えたが、自分は昨日の現実離れしたような時間の記憶が呼び起こされ、昨日のような距離感でいていいものかどう接したらいいのか困惑した。
不死川が来る前までは錆兎が横に居て、それはそれで緊張したがそれとは違う。胸がざわついて仕方ない。


「どうしよう」


好き…なのかな。

ここ最近、不死川に大して自分が抱いているかもしれない感情と頭で思っては、いや、イケメンだからドキドキするだけだと言い聞かせてきたのだが、誤魔化せなくなってきている。

だとしたら、どうしよう、どうしたらいいのだろう。好きだと自分で認めた所で自分はどうしたらいい。
不死川は玄弥の兄で上司。ルックスも良くて頭も切れ、運動もできるみたいだし、女性にもモテる。大学では一時期とっかえひっかえだった時があったらしいし…
不死川という人間を頭の中で思い浮かべるととんでもない。とても自分が手を伸ばしていい人物ではない。

はぁ〜とまた、ため息を吐いて風呂から上がる。考え事をしていたせいで少し長く入り過ぎてしまった。逆上せたのかくらくらする。




「冨岡さんだ」


お風呂から上がって水分を補給しながらスマホを見ると冨岡からメッセージが来ていた。冨岡はたまによく分からない唐突な文を送ってくるので驚きはしない。
だけど、今日の文は夢を困らせる文章だった。


『錆兎に連絡したか?』


『いえ、まだしてないです』


『早くしろ』


「早くしろと言われても…どうしよう」


不死川には゛連絡するな゛と言われたのだ。何故かはわからないが…どうしようと迷っていると次のメッセージが送られて来る。


『連絡は早いほうがいい』


お礼の連絡をしろって?そんなに冨岡は礼儀に煩い人間だったかなと思う。
連絡するなと言われ、一方では早く連絡しろ。どちらも上司だ。しかし、確かに今日は錆兎に助けてもらって、連絡先も残してくれた。確かに何も連絡しないのは次に会った時に気まずいし、無礼かもしれない。


『分かりましたよ!』


ちょっと自棄糞になって冨岡に返事をしてから、早速、錆兎のIDを登録して、少しドキドキしながら文章を入力。


『お疲れ様です。今日は大変助かりました。錆兎さんが助けてくれなかったら確実に残業でした。また、ご迷惑をお掛けする事もあると思いますがその時はよろしくお願いします』


うん、これでいいだろう。錆兎に連絡すると言ったら満足したのか冨岡からは返事は来なくなった。
失礼の無いように錆兎にメッセージを送るとそんなに時間を開けずに返信が来る。


「なになに…そんなに堅苦しくしなくていい。大したことはしてない。久々にお前達な元気そうな顔が見れたし、楽しかった。機会があれば今度飲みにでも行こう…社交辞令よね?」


『ありがとうございます!はい、機会があれば…是非っと』


返事を送ると今度は兎さんがビールを飲んでるスタンプが送られて来た。可愛い。
夢も可愛らしいスタンプを送信して連絡は終わった。




end.



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