17話
どうしよう、普通にしていられるかな。
今日はまだ不死川の姿を見ていない。
昨日、"次は何処に行くのか決めておけ"って言うメッセージが来て、これは社交辞令なのか…本当に次があるのか。一体、不死川はどういうつもりなんだろう。からかっているのなら止めてほしい、無駄に期待して傷付きたくないのだ。
少し早めに会社に来た夢は何だか落ち着かなくてソワソワしてしまうのでウエットティッシュを手に取り、デスクを拭いて過ごす。
「朝礼を始めます」
悲鳴嶼が前に立ち、先週の売上と今週の売上予算を発表していく。
あれ?不死川さんは?
どうしたんだろう、寝坊は考えにくいので体調を崩したのではと不安が胸に広がる。昨日、無理をさせてしまったのかもしれない。
「以上が今週の目標と予定になる。尚、本日、サブマネージャーの伊黒と不死川は本社で打ち合わせで不在。何かあれは私の所に確認をしにくるように。では、今日も1日宜しくお願いします」
なんだ、本社に行ってるんだ。
とりあえず、体調は悪く無いようで安心した。
ただ…不在ということにガッカリしてしまった自分がいる。
…あんなドキドキさせてくる不死川さんが悪いー!逆にいないのであればドキドキしないで済むではないか、そう前向きに考えるようにしよう。
「夢?聞いているのか?」
「わっごめんなさい」
煉獄の話を聞いてなかった。ダメだダメだ仕事に集中しなくては。
「こっちのキャンセルと配達日変更を頼む」
「か、かしこまりました!」
煉獄から受け取った案件を処理していると、隣の島で村田が大きな声を上げた。電話を切ると煉獄の元へとやって来る。
「煉獄さん大変です!入荷遅れの連絡です!」
「そうか!何件だ!」
「約…150件です!」
煉獄は腕組をしたまま少し目を瞑って考えると村田に対象のリストを共有のフォルダに保存するように伝え、煉獄は席を立ち悲鳴嶼の所へ。少し話すと戻って来て立ったまま皆に告げる。
「大量の入荷遅れにより、急遽オペレーションを変更する!甘露寺の島では通常業務行ってもらう!竈門も甘露寺の方に入ってくれ、俺の方では遅延対応を行う!」
今日の座席は甘露寺の島に玄弥、村田、善逸。煉獄の島は夢と炭治郎の3人になるので、炭治郎がそっちに行くと煉獄と夢だけになってしまう。
え、2人で150件対応するの!?嘘でしょ煉獄さん!?と思い、夢が煉獄の顔を見上げると言いたい事が顔に全て書いてあったので分かりやすくて煉獄はついくすっと笑った。
「夢、宇随を呼んで来てくれないか?」
「 ! …かしこまりました!」
成る程、流石煉獄さん!
普段、お客様対応チームの仕事をしていなくても器用な宇随なら戦力になるだろうと考えたようだ。
夢は直ぐ様、1階の宇随がいる撮影室に向かう。
「胡蝶!状況によっては午後から冨岡も借りるかもしれん!」
「今からどうぞ〜!」
週明けなんだから忙しい。受注には俺が必要だ。とムッとして冨岡は胡蝶に抗議したが完全にスルーされていた。
コンコンッ
「失礼します!宇随さん!大変…な、んです、あ、お疲れ様です」
勢い良く撮影室の扉を開ければ、宇随と伊之助ともう一人。
「お疲れ、どうした?そんなに慌てて」
「錆兎さんこそ!」
鱗滝錆兎が撮影室にいた。
錆兎は法人事業部で本社勤務。ここにはいないはずだ。
「夢どうした?俺に用事なんだろ?」
「あ、そうでした!150件程の入荷遅れがあり、煉獄さんに宇随さんを連れてくるように言われまして!」
少し驚いた表情をした後に宇随はニヤリと笑い、俺様の出番のようだとやる気満々の様子。伊之助に俺が居ないからってサボるなよ!たまに確認しにくるからな!と言いつけると立ち上がり、錆兎も立ち上がる。
目が合うと優しい笑みを向けられた。
「緊急事態なんだろ?」
こくっと頷くと、さぁ行こうと歩くように促される。
手伝ってくれると言うことだろうか、だとしたらとてもありがたい。宇随が来ても3人。3人で150件を捌ききれるか不安だ。
「すまんな宇随。ん?錆兎じゃないか!どうした!」
「用事があって立ち寄ったんだが…俺も手伝うとしよう」
「それはありがたいが錆兎の仕事はいいのか?」
「何かあれば取引先から直接俺の携帯に連絡が来る。本社に戻らなくても今日1日ぐらい問題ない」
「そうか、では是非頼みたい!夢、錆兎にシステムの使い方を教えてくれ」
私が教えるの!?
はい、と返事をしたものの私で大丈夫だろうか…錆兎さんに分かりやすくて伝えられるだろうか不安感だ。
錆兎は炭治郎達と仲がいい先輩で、私はそんなに学生時代は関わった事が無かったが、入社時に本社研修でお世話になった。
緊張してテンパり気味の夢に優しく教えてくれてとても助かったのだ。
「宜しくな」
顔を覗くように優しく微笑まれる。
イケメンにそんな笑顔を向けられるとドキッとしてしまうから止めて頂きたい。
煉獄の隣に宇随、夢の横に錆兎が座った。
煉獄から遅延のリストのExcelを開くよう指示され、早速、煉獄と宇随はリストを見ながら遅延の架電を開始し、夢は錆兎に注文を管理しているシステムの検索方法や見方、入力方法を簡単には説明する。
「ありがとう。だいたい使い方は分かった。俺たちも始めよう」
錆兎が理解力のある人で助かった。
夢の必死の説明が通じたようで、錆兎も架電を開始する。
煉獄は勿論だが、宇随も流石SVだ。何件か繋がり、お客様と会話をしているがとても丁寧にしっかり対応している。
が、平日の日中帯とあってなかなか電話が通じない。だいたい、留守電になってしまうのだ。
「むぅ…これだけの件数だ、繋がるまで何度も掛ける訳にもいかん。繋がらない場合はメールで案内に切り替えよう。夢も午前は架電して、午後からはメール送信を専門でやってくれ」
了解です。と言って夢も次のお客様に架電しようとリストを見る。
「あ…」
「どうかしたか?」
次のお客様名が英語になっている。これは嫌な予感…
注文情報を確認すると住所がローマ字で登録されてる。
夢の声を聞いて錆兎がPCを覗き込んだ。
「日本語は通じないだろうな」
「うっ」
片言の英語しか話せない。どうしようかと思った時、錆兎が夢のPCを見ながら自分のPCに注文番号を打ち込んでいく。そして、そのまま受話器を手に取った。
英語が苦手な夢の代わりに掛けてくれ、しかも見事お客様に繋がりペラペラと英語を話している。
「…凄い」
「錆兎は外国語が得意なんだ。他にも韓国語も話せるし、中国語も勉強中だ」
いつの間にか背後に冨岡がいて、何故か得意気な顔をして錆兎について説明を始めてしまった。
「勿論、他の教科の勉強も出来たし、運動神経もいい、顔もいい、それにしっかりしている」
うちのお父さん凄いんだぞ!と自慢している息子のようで、いきなり冨岡はどうしたんだと疑問か頭に浮かぶ。
「優良物件だと思わないか?」
冨岡が優良物件と言った瞬間に煉獄と宇随が顔を上げじっと見ている。宇随に至ってはお客様とお話しながらだ。
「義勇…いきなり現れたと思えば何を言い出すんだ仕事しろ、仕事」
また来ると言い残して冨岡は伝票チームに戻って行き、顔を見合わせてる宇随と煉獄にも夢は首を傾げた。
それからは黙々と作業をし、夢は遅延のメールテンプレートが完成。煉獄にも確認し、OKが貰えたところでお昼になった。
「夢、錆兎。飯に行くぞ」
今日の冨岡はどうしたんだ。
end.
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