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16話




車を走らせて数分。
起きてますよ!と元気よく言ったくせに夢は即寝た。
不死川の戦略通りに肌触りのいい毛布が温かく、また不死川と同じ柔軟剤の匂いが心地よくてすぐに寝てしまった。

想像以上に寝るのが早く、面白くて声を出さないように不死川は笑う。

赤信号で止まった時、シフトレバーをパーキングに入れて携帯を取り出す。昨日ダウンロードした無音カメラが役に立つ時がきた。
アプリを起動して見事気づかれずに夢の寝顔を納めることに成功。
テンション上がって玄弥に写真を送ろうとしたが弟と言えども他の男にわざわざ夢の寝顔を見せてやるなんて馬鹿らしい。今日最初に撮った噴水前の写真を玄弥に送信し、スマホ仕舞い運転に戻る。




暖かい。何かが顔に触れているような感覚が…


「夢、着いたぞ」


ハッとして目を覚ました夢の目に映ったのは少し申し訳無さそうに眉を下げた不死川。


「すいません!寝てました!」


「おぅ、気持ち良く寝ていたのにすまねェな。行けるか?」


「勿論です!」


恥ずかしい。起きてますなんて言ったくせにすぐ寝てしまったようだ。でも、慣れつつある不死川の匂いに暖かい膝掛けが暖かくてとても気持ち良く眠ってしまったようだ。イビキかいていたらどうしようと考えながら車を降りる。
どこの駐車場だろうと思っていると、こっちだと不死川に手を引かれて着いていく。
海の匂いがする細い小道を抜けるとやはり目の前には海が広がっていた。


「あ、あそこに鳥居が!?」


「もうちっと日が暮れていたら、もっと絶景だったなァ」


風の無い穏やかな海に所々に広がる岩。その岩の上に鳥居が建っている。
不死川の言う通り、夕日が沈みかける時であれば間違いなくもっと神秘的な風景が広がっていただろう。


「でも、凄いですよ!知らなかったこんな所があるなんて」


わぁ〜!と目の前に広がる景色に感動して喜んでいる夢の顔を見て、連れてきて正解だったと不死川は心の中でガッツポーズした。

写真写真!と夢は何枚か撮ったあと、また自撮り棒を取り出す。また一緒に撮りましょうと楽しそうに言う夢に不死川も自然と優しい顔で微笑み、いいぜと言って夢を引き寄せて鳥居をバックに写真を撮った。

暫く眺めた後、折角だしお参りして行こうと海の上の鳥居から神社の境内に向かう。結構な傾斜と段数の階段があり、夢が息切れするのが想像つく。


「鞄持ってやるから、貸せ」


「あ、いや、大丈……あ、すいません」


申し訳ないと断ろうとする夢の肩のから不死川はショルダーバッグを抜き取り、何食わぬ顔で自分の肩にかけ、行くぞと有無を言わさず夢の手を取りゆっくり登り出した。
暫く登るとやはり夢は大変そうで不死川も、もっとゆっくり登ってやりなんとか境内にたどり着く。
結構な高さから見下ろす神社の階段からの景色も絶景だった。

二人で手を合わせてお参りをし、先に終わった不死川は登って来た階段の前で景色を眺めながら待つ。
夢もお参りが終り振り向くと、階段の前の鳥居の下で不死川の背中が見える。その向こう側には海と傾き始めた太陽。
凄い絵になる風景、純粋に綺麗だと思った。夢は不死川の後ろ姿こっそり写真に収めた。

帰りは登りより下りの方が危ないから手摺りに捕まれと言われて、左手は手摺りに右手は不死川。不死川が過保護に夢の方を見ながら階段を降りるもんだから不死川の方が足を踏み外さないか夢はヒヤヒヤしながら無事に階段を下り、駐車場に向かう。


ショルダーバッグを受け取り車に乗ると、寝てていいからなァと言われてしまい、起きてます!と夢は言うが、運転が始まると直ぐ睡魔に襲われて負けてしまった。
また、直ぐ寝てしまった夢が可笑しくて不死川はやはり声を出さないように笑うのだった。




また、何かが頬を触れている感覚がする。何?と思って目を空けて…硬直する。また自分は寝てしまったのかなんて考える余裕なんてなかった。

近い。目の前に不死川さんの顔があり、片手が頬に添えられている。


「…着いたぞォ」


「はいぃ!すいません!また、寝ちゃいました…」


「いや、沢山歩いたしなァ。明日は仕事だ、今日は早めに休め」


「すいません。今日はありがとうございました。とても楽しかったです」


「あァ、またな」


車を降りてお辞儀をするけど、やはり車は動き出さないのでまた早く家に入れという事なんだろう。もう一度お辞儀をしてアパートに入る。
部屋に入り、窓から外を覗くと不死川の車が走って行った。
その場にそのまましゃがみ、ペタンと床に座る。心音が痛いくらい響く。


「キス…されるかと、思った」


また恥ずかしさが襲って両手で顔を覆う。
ただでさえ、今日1日は不死川が近くにいて、手を握られ、沢山話をして、優しくて紳士的で…不死川でいっぱいなのだ。ずっとドキドキしている。
先ほどのは何?頬に添えられている手。あのまま夢が目覚めなかったらどうなっていたのか。


「うぅ〜」


明日から普通に接する事が出きるのだろうか。そして、明日からは不死川もいつも通りに戻るのだろうか。




夢を送り、帰宅した不死川はスマホを開くとSNSを見た。

玄弥からは楽しそうで良かったよ。とメッセージが来ていて、楽しめた。ありがとな。と送っておく。
玄弥が写真を撮って来てくれ。と言ってくれたおかげでそれを口実に写真か撮れたし、近づけた。

不謹慎な奴等がメッセージを送って来ている事は知っていたが折角の夢とのデート中なので無視していた。
内容はやはり、俺達のデートについてのようでどうなんだと聞かれている。
この時間まで返事をしていなかったので、宇随は俺が家に夢を連れ込んだのか!?お楽しみ中か!?と要らん妄想をしているが伊黒はそんな筈はないと断言。

断言されるとそれはそれで腹が立つ。
ンだよ、わかんねェだろ。今日1日中、いい感じに意識してもらえたんじゃねェかと思うし、拒否された感じはない。
最後に寝ている夢の顔を見ていると、もう、今日はお別れかと思うと帰したくなくて、顔に掛かる髪を避けて柔らかな頬に触れたらもっと触れたくキスしそうになっちまった。がっついちゃいけねェと思っても近くにいるとつい…手を伸ばしたくなる。
もし、俺があのままキスしてたら夢はどうしたのか。アイツは言わねェと思うが「帰りたくない」なんて言ってくれりゃあ、速攻で連れ帰ったのに。
やっぱり不死川が3%ぐらい期待していた万が一は起きなかったのだ。

この不愉快な野郎共に好き勝手言わせとくのも腹が立つので、今日のデートが上手くいった事だけは伝えたいと思って1枚夢と撮った写真を載せる。


『おお!いいおっぱいだ!』


『だな!ショルダーの紐が食い込んでてgood!』


煉獄と宇随のメッセージが来て速攻で画像を削除した。


「あァ!?」


消した筈の画像が宇随によりまたアップされたのだ。


『俺様は優秀だからな、煉獄が呟いたのを見た瞬間に不死川が写真を消すと思って写真を保存してました\(^o^)/』


『うむ、俺も今保存したぞ』


『消せェェェ!!そして、死ねェェェ!!』


『馬鹿が…不死川が悪い。浮かれて写真なんて載せるからだ。だから俺は蜜璃の写真は載せない』


ぐっ、言い返せねェ。伊黒の言う通りだ。
そして無視していると『他にいい(・)(・)写真ないの?』と言ってきたので『明日殺す』と返した。


『おい、不死川。明日俺達は朝本社に行く事を忘れていないだろうな?』


『…帰りか、明後日殺す。夢に話かけるなよ』


『それは無理な話だ。明日は確か、俺の隣の席は夢だ』


『玄弥に変えろ』


『変えんっ!俺が面倒をみてやろう!安心しろ!』


『お前が一番安心できねェんだよ!手出すなよ!』


『はいー出たー彼氏面〜』


腹立つ。いいだろ、近々そうする予定なんだから。
クソ共は放っておいて、夢に写真を送ってやらなければ。
二人で写ってる写真にスイセンを撮ってる#name1を後ろから撮った写真も送ってみる。
すぐ既読が付いて嬉しい。


『ありがとうございます。今日は本当に楽しかったです!私撮られてたんですね!?撮られたの全然気づかなかった…私が撮った写真も見て下さい!』


夢がアングルを考えながら頑張って撮っていた写真が数枚送られてきた。


「ん?」


最後に送られて来た写真が神社で海を眺めてる後ろ姿の俺が写っている。
これは…脈ありだと期待してしまう。


『お前も俺を撮ってんじゃねぇか。次は何処に行くのか決めておけ』



end.



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