15話
不死川に手を引かれたまま歩き、手汗かいて気持ち悪いと言われたらどうしようと夢はいらない心配をしていた。
大きな噴水の横を歩いているとスイセンが沢山見えてきて、夢の口から無意識にわ〜!と歓喜の声が漏れる。
「スイセンの写真撮ってもいいですか?」
そう言われると思った不死川も丁度足を止めて撮りづらいだろうから仕方なく手を放してやった。
花の前でしゃがんで撮っている夢の後ろ姿を不死川もこっそり撮る。
綺麗に撮れたようで夢は満足しているが不死川も満足していた。
すいません待たせて、と言われ、折角来たんだから気が済むまで撮れ。と言われて夢は不死川さんはもっと神経質な人かと思っていたけど気遣いのできる心の広い人なんだなぁ、凄いと感心していたが、違う。夢限定で心が広くなるし、写真を楽しそうに撮ってる夢を撮っているので不死川も退屈はしないのだ。
また当然のように不死川は夢の手を取り歩き出す。もう、手を繋ぐのに躊躇しない。やっと今まで頭で描いていた事が現実となってこんな手を繋ぐぐらいで俺は幸せを感じれる人間だったのかと思う。
あらかじめ、キメツ臨海公園のマップはPDFをダウンロードして夜寝る前に舐めるように見てきた。そのおかげでこの道を進めば次は何がある方向なのか分かっている。
次の所では是非、正面から夢を撮りたい。きっとお姫様のような写真が撮れるはず。いや、何処で撮っても不死川にとってはお姫様なのだが。
「わー!…青い!凄い綺麗。これが見てみたかったんです!不死川さんありがとう!」
ネモフィラのブルーが辺り一面に広がる丘に絵画のような木が一本。
確かに幻想的でとても綺麗な景色。だけど、ネモフィラの青い花に感動して曇りのないキラッキラッの笑顔で感動を伝える夢の顔が不死川にはこの世で一番綺麗に見えて、数秒時が止まったように思えた。
「不死川さん?」
呆然とする不死川に夢は不思議に思って顔を覗き込む。
「…あぁ、すげェな。お前…ちょっとそこ立ってみろ」
丘に続く道に立たされ、どうやら写真を撮ってくれるようだ。記念に撮りたいと思っていたので大人しく従い、ピースする夢。
納得のいく写真が撮れた不死川は後で写真を送ると伝えてまた手をとって歩きだそうとするが夢は立ち止まって自撮り棒を取り出した。
何だよ、さっきあんなに真っ赤な顔して撮ったからもう嫌がられると思ったが嫌じゃねぇなら遠慮はしねェ。
自撮り棒にスマホをセットし、構えるとまた夢の腰に腕を回し引き寄せる。大人しくされるがままの夢が可愛い。ちらっと見下ろしてみると夢も恥ずかしそうに不死川を見上げていて目が合い、何だよって言えば何故かありがとうございます!と言われて笑ってしまった。
それからは当然のように手を繋ぎネモフィラが広がる丘の道を登って行く。
歩幅が違う夢が急がなくていいようにゆっくり歩き、景色を楽しんだ。
丘の頂上につくと結構遠くまでの景色が見え、夢は楽しそうに写真を撮り、その楽しそうな顔を不死川も穏やかな表情で見つめる。
一通り眺めたら丘を下って行き、古民家が見えたので立ち寄ってみると物珍しそうに眺める夢がいとをかしですね!いとをかし!なんて言ってテンションが上がっているのが伺える。
「そろそろ飯にしようぜ」
「あ、はいぃ」
調度木陰になっているテーブルとベンチを見つけた。
お弁当が入ってるバッグから大きめの2個のタッパとおしぼり、割り箸が取り出される。
「開けていいか」
「はい…頑張って作りましたけど期待しないでくださいね」
ついにこの時が来てしまった。夢にとっては緊張の一瞬。
「…旨そうじゃねぇか。…ハート型」
「深い意味は無いですよ!?み、蜜璃さん達に相談したら男性にお弁当を作るんだったらハート型にした方が喜ばれるって」
お弁当を開けた不死川の目に飛び込んで来たのはハート型に切り揃えられてる卵焼きに、数個がハート型になってる人参のグラッセにお弁当サイズのハンバーグ、定番のアスパラベーコン巻き、タコさんウインナー、ポテトサラダ、ブロッコリーにプチトマト。別のタッパにはおにぎりが入っている。
深い意味は無いと言われたが、まさかハート型になっているとは。期待に胸が膨らんでしまう。
パシャリと夢が初めて作ってくれたお弁当を写真に納めた不死川はいただきますと手を合わせてハート型の卵焼きから手をつけた。
「…どうですか?」
「旨ェ。旨ぇよ」
「良かった…私も頂きます」
夢も少しホッとしてお弁当に手をつけた。味見はしたからそんな可笑しな味にはなってないはずだけど、自分の味覚と不死川の味覚がだいぶ違ったらどうしようかと思っていたが、ちょっとワクワクした感じで頬を膨らませて食べる不死川に安心する。
「ごちそうさん。ありがとなァ」
「私もお弁当作るの楽しかったです」
恥ずかしそうにへへっと笑う夢がくっそ可愛くて力一杯に抱き締めたい衝動を机の下で見えないが拳を握って不死川は耐えていた。
「次は何処に?」
「あっちだァ、大草原がある」
「不死川さん詳しいですね?来た事あるんですか?」
「いや、ねェよ」
入り口にあったマップを見ただけでわかったのか〜やっぱり頭の出来が違うんだ。と夢は思った。まさか不死川が自分とのデートを想像してPDFでマップを見ていたなんて当然思わない。
暫く歩くと不死川の言ったとおりに大草原が見え、普段見ることのない広さに解放感が凄い!癒される!そんな事を言いながらニコニコしている夢に不死川も癒される。
大草原をショートカットしてさらに進むと砂漠が見えてきた。ここでも砂漠は生まれて初めて見ました!と夢は興奮気味。
いつか日本一の砂丘も見てみてみたいな〜なんて呟きは不死川の頭にしっかりとインプットされ、砂丘行って出雲とか行くのも悪くねぇ。数日後、不死川は島根、鳥取の旅行雑誌を買いに行く。
沢山歩き、砂漠エリアを抜けるとファミリー向けのエリアが広がり、小さい子がきゃっきゃして楽しそう。その先には薔薇、チューリップが綺麗に咲いている場所があり、また写真を撮っていた。
名残惜しがこれで一周してきたようだ。最初の入り口が見えている。車に戻るまでは手を繋いだままだった。
「凄い広かったですねー、連れてきてくれてありがとうございます」
「あァ、リフレッシュできた。帰りにもう一ヶ所寄っていいか?」
「いいですよ。何処に行くんですか?」
「折角来たからな、近くにもう一ヶ所行ってみてェ所がある。30分ちょっとかかるから歩き疲れただろうし、お前は寝てていいぞ」
今は15時ちょっと過ぎ、道の駅かな?
不死川は後部座席に置いていた昨日買ったばかりの毛布を後ろを向いて取ると夢にかけてやる。
「ふわふわー、ありがとうございます。でも、ちゃんと起きてますよ!」
「そうかァ。じゃあ行くぞ」
ふっと笑って不死川はエンジンをかけた。
end.
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