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14話




「うっし」


待ちに待ったこの日がついにやってきた。

昨日、洗濯した膝掛けは柔軟剤の香りがしてふわふわに仕上がった。
夢に今から家を出る。とメッセージを送信し、直ぐに既読が付き自分の口もとがつい緩む。
きっと今、あわあわしているのが目に浮かぶ。


不死川の予想通りに夢はテンパっていた。


「あああああ!」


前の日に下準備をしておいた食材を仕上げ、お弁当に詰め込み、可愛らしいピンも刺した。すぐ蓋をしてはいけないと思って食材のあら熱をとり、お弁当の準備は一応できている。
お弁当だけではなく服も着替え、化粧もしたし、髪もセットした。
デートみたいな事なんて久しぶり過ぎて緊張しまくりの夢は今から家を出ると言う不死川からの連絡来て、宜しくお願いします!と返事を返したが、本当にこれから不死川さんが来るんだと実感して余計に心臓が煩くなってしまう。


不死川さんは玄弥のお兄ちゃんだけど上司でもあるんだから粗相のないようにしなきゃ!


簡単にハーフアップでくるりんぱしてバレッタで留めた髪をもう一度チェックし、荷物を持って部屋を出る。
共同玄関で落ち着けー落ち着けーと自分に暗示をかけているとバンッと車のドアが締まる音がして慌てて共同玄関から出ると車から降りた不死川がいた。


「おおおはようございますぅっ!」


「よォ…!?」


夢を目にした不死川は目を見開いて一瞬動きが止まる。
夢が着ていたガウチョパンツは昨日、不死川が夢に着せたい。買おうかどうしようか迷って辞めたものだったため、驚いた。


「えっ!?変ですか!?変ですよね!?すいません急いで着替えて来ます!すいまっ」


「待てっ!違ェ…似合ってるから気にするな。行くぞ」


勘違いした夢は直ぐに踵を返し、家に戻ろうとしたため不死川が手首を掴んで制止する。


「だ、大丈夫ですか?」


「…問題ねェ」


問題ねェどころかサイコー!俺の思いが通じたのかと思った不死川は一気に気持ちは高ぶってしまったがそれはなるべる顔には出さないようにして平静を装って夢を助手席に押し込んだ。
ここで女の扱いに慣れてる宇随なら彼女の不安を上手に解いてやる甘い言葉でもかけてやるのだが不死川にはそんな事はできない。

不死川は最初っからテンションが上がったが対照的に夢は不安が胸に広がる。

やっぱりガウチョパンツは良くなかったのだろうか…
黒っぽいスキニーデニムに片ヒザはダメージ加工がされ、白のVネックのTシャツに深緑色のカラーシャツを羽織った不死川はカッコ良すぎて、とても釣り合わない。ちんちくりんが横に居て申し訳ない気持ちになった。


不安な気持ちの夢を乗せて車は高速の入り口近くまでやって来て、不死川がコンビニに寄ると言う。
一緒にコンビニに入り飲み物を選び、それを不死川が持ち、サンドイッチが陳列されてる所の前で不死川の足が止まった。

もしかしてお腹が空いているのだろうか。


「あの、不死川さん…もし、良かったら少しだけサンドイッチ作って来たので…食べてくれませんか」


不安げに上目遣いで言う夢に不死川は胸いっぱいになり、手に持っているペットボトルを握りつぶしそうになった。


「ありがてェ、是非そうさせてもらう」


車に戻ると少しのキャベツの千切りと照り焼きチキンを食パンで挟んだ割りとボリュームのあるサンドイッチをおずおずと不死川に渡すとワクワクした表情でバクリと豪快に不死川が食べる。


「旨ェ。俺の朝飯まで用意してくれたのか?」


「不死川さんがどれだけ食べるか分からなかったので、足りなかった時ように」


うん、旨ェ。と何度か旨いと言う不死川に夢の緊張も少し和らぎ、喜んでもらえてホッとしたのかやっと笑顔が溢れた。

食べ終わって夢の頭にぽんぽんと手を乗せていつもより優しい顔をした不死川がありがとな。と言うとせっかく緊張が和らいだのにドキドキさせられてしまいまた固まってしまう。
イケメン怖い…

車にも普段あまり乗らない夢は不死川の慣れた運転に大人の男性だぁとそわそわする。
でも、思いの外スピードも出しすぎず安全運転なのは助かった。

キメツ臨海公園までの道中、機嫌の良い不死川と仕事以外の話をし、ドキドキしつつも会話は弾み新しい不死川を知れたような気がする。
たまに運転中にペットボトルを手探りするので、危ないと思った夢がペットボトルのキャップを取り、不死川に手渡しする事が何回かあり、当然の如く夢は彼女みたいな事して恥ずかしいと照れていたが、照れていたのは実は不死川もだった事は気づいていない。




「わぁー!不死川さん、駐車場が信じられないくらい広いですよ!」


「確かに…広いけど、お前。クッ、駐車場で喜ぶなよ」


車を降りた瞬間に見渡す限りの永遠に広がるように思える駐車場だけで夢のテンションは一気に上がってしまった。
無邪気にはしゃぐ子供のようで不死川の顔も緩む。


「おら、荷物貸せェ」


「あ、すいません」


不死川がリクエストしたお弁当が入っていると思われるバックを夢の手から奪うとそのまま手を繋いでやろうとしたのだがいきなり繋いでいいもんかと一瞬躊躇うとタイミングを逃して繋ぎにくくなってしまい、心の中で舌打ちした。

そんな事には気づかない夢は戻って来た時に場所わかりますか?広すぎて私は覚えられる自信ないので宜しくお願いしますね!と能天気。


公園の入り口に行くと夢が駆け出し、大人2枚の入場券を買ってしまい、不死川に睨まれるがお礼ですからお気になさらずに!とニンマリ顔で言う。
早速入場すると、目の前には開けた空間に大きな噴水があり、このキメツ臨海公園はいくつかのエリアに別れているが入り口からでは他のエリアが全く見えずどこまで広がっているのか分からない。


「あ、不死川さん。ちょっとそこに立ってもらえますか?」


「あ?」


「写真です写真!玄弥が写真取って来てほしいって」


スマホを構えて楽しそうにしている夢に、だったらテメェも来い。と夢の手首を掴んで引っ張る。


「わっわっ不死川さん!?」


噴水を背に立つと、どうせ離れるつもりだろう夢の腰に手を回し、そうはさせねェと引き寄せて自分のスマホを出すとほら、撮るぞ。と言うと2、3枚パシャリと連続で撮ってしまった。
夢よりも腕の長い不死川が撮ってもやはり近いため、ほとんど2人の顔が大きく写っていて噴水は見えない。


「お前、自撮り棒とか持ってきてねェのか?」


「一応…持って、マス」


貸せ。と言われて素直に差し出されると簡単にセットされ、また腰を抱かれて近すぎて不死川の匂いを感じた夢はとてもピースなんて出来ず、赤い顔の写真を撮られてしまった。


「フッ…顔あっか」


「だ、だだって不死川さんがぁ!」


「俺が何だよ」


「近すぎて!私、こーゆーの慣れてないんですから!」


「言っただろうが、"俺に慣れろ"って」


ほら、行くぞォ。と今度は簡単に夢の手を取り握ると歩き出してしまう。


ヤバイ。
今日ずっとこんな感じなんだろうか。だとしたら夢はずっと赤面状態で過ごす事になってしまう。
普段の仕事中はいつも眉間にシワを寄せておっかない雰囲気を放ち、真面目な不死川だけど普段はこんな感じなんだろうか。
こんな風に普段から女性に触れたり、ドキドキさせるような事を言うんだろうか。
そう考えると恥ずかしさと混乱する中で少し胸がチクりと痛んだ気がした。




end.




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