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12話




宇随が大丈夫か?と夢の顔を覗き込むように近づくと身体を引いて大丈夫です!と赤い顔して言った。


「今回は浴衣に合わせてネイルしてやるから」


うっ、浴衣に合わせて…
夢がどの浴衣を選んだのか宇随は知っているのだろうか。


「不死川とペアのやつな」


「た、たた、たまたまですよ!」


エメラルドグリーンとシルバーをベースにしよっかな。と楽しそうな宇随。


「風車と花柄どっちがいい?」


「花柄で!」


風車柄なんてとんでもない!それこそ不死川の浴衣と合わせたネイルになってしまう。

それから宇随は真剣なモードに入り、無言で暫く作業をしていく。
薬指だけはシルバーを塗り、その他は浴衣と同じ緑を塗ってその上に小さいドライフラワーの白とピンクを乗せ少しラメを散らしてジェルを硬化させていく。


毎度思うが凄く器用だ。
この大きな手がこんな繊細なものをよくつくれるなぁと思うし、やはりセンスも手際もいい。


夢もネイルに魅入っているうちにいつの間にか緊張から解放されていた。


宇随が浴衣の資料のじーっと見つめてから薬指を掴んだ。


「え?宇随さん、何を書いてます?」


「ん?風車。動くなお前!」


ニヤッと笑いながら宇随はシルバーのベースの上にエメラルドグリーンで不死川の浴衣の風車を描いている。


「ちょっとー!お花って言ったじゃないですかー!?これなら本当にペアみたいで恥ずかしいですよ!」


「言っとくが撮影用にネイルしてんだからな?不死川とポスター撮影するんだから合わせた方がいいだろ」


それに花は沢山乗せたからいいだろうとまた風車描きを再開させた。




え?不死川さんとポスター撮影?
じゃあ、あの時言ってた、

"俺と一緒に撮るから覚悟しとけェ"

は本当に2人で撮るって意味だったの!?


「私、不死川さんと2人で撮るんですか!?」


「何だお前知らねーの?」


「知らなかったです…」


どうしよう…だいたい何故、私と不死川さんは2人で撮るのだろうか。

そもそも皆が、誰かと2人で撮影する事になっているのかもしれない。

そうだ!ふ、2人で撮るからといって別にカップルを演じろと言われてる訳じゃないんだし、ただ並んで撮るだけかも。


「お前、そんなに男慣れしてない感じで大丈夫かよ。恋人演じれるのか?」


宇随の声がエコーが掛かったように夢の頭に響いた。


恋人?


数秒考えて固まっている夢の顔がまた徐々に赤くなっていく。


「ハハッ!面白ぇ!お前見てると飽きないわ」


ほら、出来たぞ。ネット用の写真は今度な。と言われても夢は少し放心状態だったが、目の前でおーい!と手を振られて我に返った。


「あ、ありがとうございました!」


勢いよく立ち上がってお辞儀をし、撮影室を出ようとしたところを宇随が夢の肩を掴んで引き留める。

顔だけ振り向くと後ろから夢の肩を抱き、宇随の整った顔が夢の顔に迫った。


近すぎて息ができない。


息を止めて硬直した夢に宇随はニヤリと笑い、俺が恋人役になってやろうか?と言い放つ。

夢は顔だけじゃなく首も耳まで赤くして口をパクパクさせる。



バンッ



「宇随ィ!テメェ!」


いきなり撮影室の扉が開いたと思えば不死川が現れた。
真っ赤になってる夢に、肩を抱いてる宇随の姿に一気に不死川が青筋が浮かび怒り顔になる。


「お迎えが来たぜ」


相変わらず不謹慎にニヤついた宇随はちょっと強めに夢の身体を前に押してやった。


「うっ」


夢は押されて正面にいた不死川の胸に飛び込んだ拍子に顔をぶつけてしまう。
やばっと思って見上げると不死川は宇随を睨み付けていてぶつかった自分は睨まれていなくて少しほっとし、離れようとしたら、なんと今度は不死川に腰を抱かれてしまった。


「気をつけて帰れよー」


不死川の怒り顔をなんとも思っていないのか、宇随はひらひらと手を振っていて、チッと盛大な舌打ちをした不死川は夢の腰を抱いたまま踵を返してずんずん歩き始めた。




いろんな事が起きて混乱している夢はされるがままに腰を抱かれたまま歩き、駐車場?と疑問を持った次の瞬間には不死川の車に押し込められてる。


バンッと強めにドアが締められ不死川を見ると睨まれており、反射的にすいません。と謝ってしまった。


無言で車を発進し、また送ってくれるのだと思うけどなんでだろうと思うも、あれ?道違うよね?どういう事なのか…話しかける勇気はないので引き続き黙っておく。




「何頼むか決めとけェ」


はい。と答えてちょっと不死川の方に寄るが正直あまり目が良くないのでメニュー表が見えない。
車は有名コーヒーショップのドライブスルーに入ったのだ。


少し待った後、車が進み不死川がコーヒーを頼むと夢もじゃあ私も同じのでと伝えるが不死川は振り向くことも確認することもなく抹茶オレを一つ。と店員に伝えた。
正直、あまりコーヒーは飲まないので抹茶オレを頼んでくれたのは有難い。私がたまに抹茶オレを飲んでいた見られていたのかな?と思う。


不死川は店員から抹茶オレを受け取るとホラよと夢に渡す。お礼を言い、お金…と呟くとまた無視されてしまい、車はコーヒーショップの駐車場に停められる。

少し飲み始めると不死川が口を開く。


「お前ェ、さっき口説かれてただろォ」


「いやいや!からかわれたんです」


「…宇随は何て言ってた」


「えーと、最後の所だけを言うと勘違いされるので…話すと長くなります」
だから止めておきます。と目で訴えてみるも、話せと言われてしまった。


「最初から?」


「最初からだァ」


うぅっ…なんか言いづらいし、最近の不死川さんは変だ。これでは浮気を疑われてる彼女みたい。なんでこんなことになっているのか分からないけど、私が不死川さんに逆らえるはずもないので素直に説明しよう。出きるだけ手短に。


「えーと、伊之助に噛まれまして、それで宇随さんが」


「は?待て、今何て言った?」


「え?伊之助に噛まれまして、それで」


「噛まれたってどういうことだァ」


夢が話すのを遮り不死川が喋る。


怒ってるよね不死川さん?いや、私悪くないのに!伊之助がいきなり噛みついて来て私、被害者!


「分からないです…いきなりガブッと噛みつかれて」


不死川が手に持っていたコーヒーを乱暴に置くと夢に身体を向けて何処だと聞く。
ここですと夢が恐る恐る髪を避けて首を見せた。


「お前ェ…他の男に痕付けられてるンじゃねェっ!」


「はいぃ!すいませんっ!?」


少し強めに不死川に怒られ、夢はとりあえず勢い良く謝る。
正直、何故怒られているのか何に対する謝罪なのかもわからないが謝らなくてはとそう思ったのだ。


「ったく…それで!?」


「えっと、宇随さんが助けてくれたんですけど、私の男慣れしていない反応にそんなんで大丈夫かって…不死川さんと、こ、恋人っぽくポスター撮影できるか心配されました」


「それだけかァ…?」


絶対それだけじゃないだろ知ってんだぞ!と目が訴えてきているように思える。
と言うかもしかして聞こえてた!?


「いや、あの…その…ポスター撮影の…恋人役を宇随さんがやろうか、と…」


下を向いてもごもご話していた夢が言い終わるとチラリと不死川を見て後悔した。
完全にブチ切れた顔をしている。
人間の顔はこんなにわかりやすい程に青筋が浮かぶものだったか。そして、特に目が恐いのだ。見開き血走っている。


「それでェ?お前は何て答えたんだァ?」


「不死川さんがそこでドアを開けたので…何も言ってません」


はぁぁぁと大きめのため息を吐かれてしまったがブチ切れモードから呆れモードに変わったようなので私も少しホッとする。
あんな地を這うような声は出さないでほしい。ちびってしまいそうだ。


宇随さんに恋人役の話をされたら断るように念押しされて、ちょっと首が痛くなるぐらい頷いておく。

それで許してもらえたのか、エンジンをかけて不死川はコーヒーを飲みながら片手運転で夢を家まで送った。


シートベルトを外してお礼を言った夢の二の腕を掴み、不死川が顔を近付ける。


「いいかァ、男慣れなんてしなくていい。俺に慣れろ。分かったなァ」


「が、頑張りますっ!」


ビックリして少し身体を引いている夢は本日もう何回目かわからない赤面をしながら言った。



end.




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