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11話



「私が着たらただの地味になる、ような…」


勝手に浴衣を選んだ不死川に勇気を出して少し反論をしてみた。
2つで迷っていたが、本当はピンクにほぼ決めていたので全然違う物に決められて不満なのだ。


「似合うから、安心しろォ」


「いや、あの…」


しれっと似合うと言われてしまって困った夢が言葉に詰まると不死川の眉間にシワが寄り、無言だが確実に文句あンのか?あァ?と今にも言いそうな顔になって来たので、ありがとうございます。と言ってみると満足したようで、去っていく。


そう言う不死川はどんな浴衣を選んだのか。
ホワイトボードで不死川の名前を探すと…あったあった。
その型番を資料で探すと濃い深緑の生地に薄い緑で風車の模様が描かれている。

へぇ〜不死川さんも緑系か、緑好きなのかなぁなんて思いながら資料をぺらぺら軽く見ながら捲っていると後ろのページがモデルさん達の写真集みたいになっていて、あるページで目が留まった。


『カップルで同系色はいかが?』


そんなキャッチフレーズが書かれたページに男女が同系色の浴衣を着ている写真が数枚あり、緑系が正に私と不死川さんの浴衣。


えっ、ちょっとこれ!不死川さん絶対後ろのページまで見てないよ!

資料から顔を上げ、不死川に写真の事を教えなきゃと思った時に伊黒が以上で決まりだ。と言って浴衣選びが終わってしまった。


くいっくいっと玄弥のワイシャツの袖を引っ張る。
振り返った玄弥に夢は小さな声で話す。


「玄弥、不味いよ。私の浴衣、不死川さん選んでくれたんだけど、これ見て」


不死川が選んだ物と自分の浴衣がカップルでオススメの浴衣だと言うことを資料を開いて見せる。


「…大丈夫じゃないか?」


「不死川さんきっと知らないんだよ、このページの事」


教えて来る。と夢が向かおうとしたところを玄弥は慌てて引き留めた。

いや、夢が鈍いのは知ってるけど…兄も大変だなと思う。
自分の兄は絶対、狙ってこの浴衣を選んでいる。意識してくれーと思っているに違いないのに夢ときたら兄がカップルにオススメの浴衣だって知らないと思い込んでる。

寧ろ、兄貴が夢の磁石を貼った時点で見ていた人は、あ、また不死川の病気が始まったと思ったに違いない。わかるよ、俺もたまに兄ちゃんいい加減にしてくれって言う時があるからな。


「夢大丈夫だから、他の事決めようぜ?」


それにな、夢は気づいてないかもしれないがもうさっきから兄貴が睨んでるンだよ。これは後で何を話してたんだと詰められるだろう。

ちょっと口を尖らせて、え〜とでも言いそうな顔は不満があるんだろうがとりあえず言いに行くのを諦めたようだ。


その後は小物も発注し、全て来週中には届くそうで、来週は宣伝用のポスター撮影が待っている。

屋台の品目も決まっていて、ヨーヨー釣り、金魚すくい、射的、まとめて飲食コーナーとキメツショップの商品の販売。
祭り当日は本社からもヘルプが入るらしい。

夢は本社の人で一人苦手な人がいるのでその人だけは来ないように願った。




「夢、撮影室にいるから来いよ」


「あ、はい。机の上片付けたら向かいます」


おう、と返事をした宇随はおっそろしい声で不死川に呼び止めれている。

不死川の元へ行った宇随は何やら怖い声でガミガミ言われているみたいだが本人は全く気にしていないどころか、お前すっげーなっ!と笑い飛ばすような声が聞こえた。

帰る準備をして撮影室に向かうとまだ不死川と話をしていた為、宇随は不在だったがもう一人の美術担当の伊之助がいた。

撮影室は結構広く、奥には撮影機材が置いてありプチスタジオのようになっている。撮影に使う商品や小物が沢山置かれて賑やかで、入り口側には数台のパソコンとプリンター、ちょっとした作業机が置いてあり夢達のいる事務所とか雰囲気が違う。


「伊之助。お疲れ」


「おう、お前なんか用か?」


伊之助はもう退社するところの様。


「今日はジェルネイルの日なの」


「あー爪ギラギラにするヤツな」


「うっ…ギラギラにされないようにお願いする」


おまかせにしたら派手好きな宇随にミラーネイルをされて鏡のようにギラッギラッにされてしまった事があり、あの時の1ヶ月は自分に似合わなさすぎて恥ずかしい思いをしたもんだ。
それからはお任せにはしないで大人しめのデザインをお願いするようにしている。


帰ると思った伊之助が近づいて来た。なんだろう?


「なぁ、噛っていいか?」


「ん、何を?」


「お前」


へ?と間抜けな声が出てしまった。
意味が分からなくて固まっていると伊之助がどんどん迫ってきて、え?え?どういう事?と思っているうちに壁に背中が着いてしまった。


「ちょ、伊之助?どういうっ痛っ!痛っ!あっ!」


首筋をガブリと本当に噛られてしまった!痛いし、そして舐めないで!



「おいおい、まさかお前らデキてたのか〜」


「宇随さん!た、た、助けて、下さいっ!」


撮影室に来た宇随に助けの手を伸ばすと夢の腕を引っ張りながら伊之助をぐいっと剥がして離す。
その勢いのまま夢は宇随の胸にもたれると宇随は反射的に自分の腕に閉じ込めた。


「何だ合意の上じゃないのかよ」


「あ?噛りたいから噛っただけだ」


「あ〜はいはい、分かったからもう帰れ」


「おう、じゃあな」


先ほどの獣のような雰囲気は何処へやら。
伊之助はケロッとして帰って行った。


「おい、お前大丈夫か?」


宇随がゆっくり腕を放すとスッと離れて夢は大丈夫です!大丈夫です!ありがとうございます!と早口で喋るが宇随の目が見れない。

噛まれた首を見せて見ろと宇随が手を伸ばすも大丈夫です!大丈夫です!しか言わない。


「照れなくていいから見せて見ろ」


離れた夢の腕をまた引っ張り引き寄せると髪の毛を避けて首筋を露にする。


「派手に歯型ついちまってるぜ」


歯型の痕を指でなぞると夢はピクリと肩を震わせた。


「ふはっ!お前、小動物みたいで可愛いやつだな。あ〜なんだ…伊之助が噛りたくなる気持ちが分かる気ーするわ」


さっ、やろうぜと作業机の前に座った宇随。
夢は顔を赤くしながら宇随の向かいに座るが、伊之助には突然首を噛まれ、宇随に片腕で抱き締められて心臓が煩いままだ。
仕舞いには、手出せよ。と言われて指先を触られるだけでまたビクッとしてしまう。

加えて、この作業机は長さはあるけど奥行きがあまりないので巨体の宇随が机に近づいて座ると長い足とぶつかってしまうので宇随が足を開いてその間に夢の足が収まるような状態になるのでいつも距離が近くてただでさえ緊張してしまうのだ。


宇随はいつも通り馴れた手付きでジェルをオフをしていく。


夢はさっき片腕で抱き締められた時の力強い腕と筋肉質な胸板、フワッと香った香水に凄く男を感じでしまって余計に宇随の顔を見れそうにない。


「随分初な反応するんだな」


ジェルを落としながら言われ、反射的に顔を上げると目が合ってしまった。


「大丈夫だ、何もしねぇから安心しろ。…多分」


「た、多分って何ですか多分って!」


「俺も噛み付きたくなっちゃうかも」


なんてな。と言う声が最後まで夢の耳に届いているかは不明だか夢が固まった。



end.





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