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18話




夢を見送った実弥は走った。走れ実弥!

鳥小屋にやって来た実弥はまた烏に夢の後を追うように指示を出す。


二羽の烏はまたかと思いながらも、まぁいいや一緒にお出かけだと思ってまた大人しく夢の後を追った。


烏を送り出した実弥は一人寂しく、休憩のおはぎとお茶を用意する。勿論、夢の手作り。


しのぶと蜜璃が一緒なので危険な目には合わないだろうが、余計な事を吹き込んだりはしないだろうか。
まあ、 もし変なことを言われたとしたら帰って来た時の夢の反応でわかるから問いただしてやろう。


あ、帰って来た時と言えば、出掛けるときに口づけすると言うことは帰って来た時もすればいいじゃないか。


夢の知らない所でまた約束事が増やされたのである。


良いこと思い付いた。と実弥は一人でおはぎを食べながら茶を啜った。
少し寂しさも紛れた気がする。だけど…


「早く帰って来ねェかなァ」


なんせ近くに夢が居ないと落ち着かない。
出来ることなら夢が伸縮自在に小さくなったり大きくなったりが可能になって、小さくして出かける時はいつも持ち運びたい。




一方で夢は、甘味処に着いていた。


「蜜璃さん、しのぶさんお待たせしました!」


「夢ちゃん!私たちもついさっき来た所よ、気にしないで!」


「さぁ、中に入りましょう」としのぶの声で3人は甘味処に入っていく。


しのぶは落ち着きがあるが、蜜璃と夢はわくわくしていて落ち着きがない。


「夢さん、元気そうで良かったです」


「うん、不死川さんからお手紙が返って来たときはビックリしちゃったよ。夢ちゃんが少し休んでいるから代筆したって書いてあったけどもう何ともないの?」


「うっ、は、はい、大丈夫です」


「貧血とか?」


「え〜っと、ちょっと動けなくなったので…そんな感じです」


言えない。実弥くんのあの厭らしい口づけ攻撃に参って腰が立たなくなったなんて…恥ずかしくて言えない。


体調の事を聞かれるまでは元気いっぱいの様子だったのに質問された途端に言いづらそうにしている夢に実弥にまた何かされたんだろうとしのぶは何となく察した。


「無理しちゃダメよ?」


「だ、大丈夫です!それより今日は誘っていただいてありがとうございます!とても嬉しいです」


「ふふ。さぁ、何か頂きましょう」


蜜璃は沢山の桜餅を頼み、しのぶと夢は八つ橋を頼んだ。


「八つ橋美味しい!いつも実弥くんとおはぎばっかりだけどあんこもあるし今度は八ツ橋作ってみようかな」


実弥があんこ食べ過ぎだと思うだとか、喜んでくれるかなぁとあれこれ考えてる様子に蜜璃としのぶが顔を合わせてクスクス笑いだした。
その事に暫くすると夢が気づき不思議そうな表情をしている。


「夢ちゃんも、不死川さんの事が大好きなのね!」


「だ、大好きと言うか実弥くんは家族みたいなもので」


大好きと言われると何となく恥ずかしくて顔を赤らめる。
大好きな事は間違いではないけど私はそんなに実弥くんが大好きなのが周りからしたら丸出しなのかと思う。


「じゃあ奥さんかしら?」と言うしのぶは恥ずかしがる夢の反応を楽しんでいる。


「えっ!いやいや!どちらかと言うと兄妹?」


「そうなの?私はてっきり恋仲なんだと思ってたわ!」


「恋仲…どうしたら恋仲になるもんなんですか?」


そうか、夢は実弥により屋敷に閉じ込められてきたから世間一般の知識が著しく欠けているのだった。


「お互いの事を好いていたら恋仲でいいんじゃないかしら?」


蜜璃の話からいくと自分と実弥は恋仲になる。
つい先日、互いに好きだと言うことは確認したばかりだ。


「そう、なると…恋仲かもしれない、です」


「まぁ!キュンキュンするわ、素敵!」と蜜璃は楽しそうに言うが、しのぶは顔には出さないけど少し呆れている。

あーんなに夢に異常な執着を見せておきながらちゃんと自分の気持ちを伝えていないのだろう。それでなければ、恋仲なのかそうでないのかも分からない状態にはならないだろう。


「羨ましいなー、私も恋人がほしい!夢ちゃんは不死川さんのどんなところにキュンキュンするの?」


キュンキュンする?

それから夢は恋について3人で話をし、いろいろと世間一般の女の子の感覚を知り衝撃を受けたり自分と実弥について考える。


女の子が話し出すとあっという間に時間は過ぎてしまい、夕方になってきたので解散した。


帰り道、夢は気づいていないが二羽の烏に見守られながら先ほどの会話を思い出す。

実弥の事は勿論好きだけれども、蜜璃の話だと恋をするとドキドキするのだそうだ。

男らしい身体や声、顔、いろんな所にドキドキポイントがあると言っていた。

口づけの話は2人には恥ずかしくてしなかったが、あの口づけは実弥以外とできる気はしない。
だけど、蜜璃が言う恋心が夢にはいまいち分からなかった。


実弥くんにドキドキか…


世間一般の女の子は好きな人に触れられるとドキドキすると言っていたが、自分は触れられるどころか一緒に寝て抱き締められたりしているけれど、ドキドキより実弥に対しては安心感の方がしっくりくる。

抱き締められていると暖かい体温と実弥の匂いが夢を安心させてくれるのだ。



「ただいまー」


夢が玄関の中に入ると実弥が待ち構えており少し驚く。


「おかえり」


じぃっと夢を見つめており、何だろと思う。
履き物を脱ぐと腕を優しく捕まれて引き寄せられ、実弥の顔が近づいて来たので、あぁまた口づけされちゃうと思いながらも夢は目を瞑る。

優しく唇を押し付けられて少し唇に吸い付かれると離れていき、何時ものと比べると物足りなく思う。


「帰って来てもするからなァ」


「わかった」


今度は夢の方がじぃっと実弥を見つめている。


「なんだァ?」


「ちょっと…ぎゅっとしてもらっていい?」と見上げながら遠慮気味に両手を広げて実弥に近付いてきた。


そんな事は普段、要求されて来なかった実弥は一瞬目を見開いて固まったが直ぐにガバッと抱きつき、そうすると夢も腕を実弥の背中に回す。


なんでそんな事を言ってきたのか分からないがクソクソ可愛いー!可愛すぎて悶えたくなるのを実弥は抱き締めて耐える。

実弥の首に顔を埋めてすぅっと実弥の匂いを確めている夢に心拍数は上がり、いつも匂いを嗅いでいるとちょっと嫌がられるけど夢が嗅いでいるんだから俺もいいよな!?嗅ぐからな!と自問自答して夢の匂いをおもいっきり嗅ぐ。


心が安らぐ。

そのままスンスン嗅いでいると安らぎがムラムラに変化して、もう一人の実弥が勃ち上がろうとしている。
無意識に右手が背中から腰に下がり、そして尻をするっと撫でると夢がビクッとして顔を上げた。


「夕御飯!夕御飯の支度するね!」


「…おォ」


焦ったような顔をして夢は実弥の元から走っていなくなってしまい、どうしようもなくドキドキムラムラさせられてしまった実弥がぽつんと残された。


end.




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