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10話



なんか言われるがままに着いて来てしまったよ。
送ってもらうってまた不死川さんにご迷惑を…



「早く乗れェ」


「あ、はい、すいません」


うん、断れない。と思った夢は不死川の車に乗り込む。

外装も内装も黒の車は迫力があって不死川にピッタリだと思った。
キツすぎない車の香水はホワイトムスクだろうか?それが余計に男性っぽくてドキドキしてしまう。

緊張して姿勢良く座って固まっていると、おい、シートベルトと言われて焦ってシートベルトを引いた。


「ふっ、緊張してんのかァ」


「はいぃ、すいません」


不死川は軽く笑うと車を発進させる。


「送ってもらっちゃってすみません」


「いや、構わねェ。それになァ、困った時は俺を頼れェ」


「ありがとうございます。でも、そうなるとお礼がエンドレスになっちゃいます」


「おぅ、いいじゃねェか」


「いやいや、それだとご迷惑を掛け続けることに…」


「上等だァ」


だんだん不死川の事を分かってきた気がする。きっと、緊張している自分のために話しやすいようにからかわれているんだ。


「不死川さん、からかってますね?」


「さァな」


運転する横顔を見ると笑っている。
やはり仕事中ではないと不死川も表情が柔らかくなるんだなぁと思った。


「もぅ」


また膨れていると赤信号で車が止まり、ホラよと私が好きな抹茶ミルクの飴を渡された。
まるで小さい子を宥めるお兄ちゃんのようだ。


「ありがとうございます。不死川さんみたいなお兄ちゃん私も欲しかったなぁ。玄弥が羨ましい」


「…お前の兄にはならねェよ」


「スミマセン」


なんだろう雰囲気が変わって話しかけずらくなってしまった。先程までは笑顔も少し見えたと思ったんだけどな。
お互いに暫く無言が続いたが、不死川が口を開いた。


「お前、たまに冨岡に送ってもらう事があるのか?」


「遅くなった時に何回か」


ギギッと変な音が…ハンドルを握る音?


「…真っ直ぐ、帰宅、してんのか?」


うぅっ、何だろう答えづらい。
悪い事してないかと親に問い詰められているような気分になってきた。

たまに冨岡を送ってもらう時は帰りにご飯を食べて帰ることもあったが、何故かその事は言わない方がいいような気がしたのだ。


「…はい、帰って、マス」


「テメェ…嘘つくなァ」


「あ、いや、はい…ご飯食べて帰る時も、あり、ました」


あっさりバレてしまった!なんで分かったのだろう!?
でも、こうなれば正直に言った方がいいと思い、たまにご飯食べて帰りますと言うと盛大な舌打ちをもらってしまった。
私、悪い事してないのに…


「何もされてねェだろうなァ」


「何も?何を?」


「…いや、何でもねェ」


んんっ、と咳払いをした不死川さんは運転に集中し始めたようだ。




「ありがとう、ございました」


夢の自宅に着き、ペコリと不死川に頭を下げる。
ガチャとゆっくりドアを開け、車から降りようと片足を出した時、右手首を捕まれた。


「お前ェ…」


「わっ、え、はい!?」


ビックリして手首を掴んできた不死川を見る。

真剣な強い眼差しを向けられていて、自分の目が同様して揺れていると思う。


「簡単に、他の男の車に乗るんじゃねェぞォ」


「は、はいぃ、かしこまりました!」


最近の不死川さんは心臓に悪い。
もう、なんなんだ。ドキドキしてしまったではないか。

赤い顔をいつまでも見られたくないので、帰りますね!と言うと手首を放してくれた。
もう一度お辞儀をしてアパートのオートロックを外して共同玄関を通過する時、ちらりと見るとやはり不死川さんはまだこちらを見ていた。




「くっそ無用心めェ」


夢を送った後の車内で不死川が呟く。

冨岡の"また送る"発言を聞き逃さなかった不死川は確かめずにはいられなかった。

聞くとやはり、たまにアイツの車に乗っていたという。

知らなかった。夢はどんな顔でどんな話を冨岡としているんだろう。俺が知らない表情をアイツには見せたりするのだろうか。

ボケ岡の事は完全にノーマークだったがもしかしたら…

思い返せば何かにつけて冨岡は夢に話しかけていたように思えてきた。
キャン伝に関することのようだったから差程気にしていなかったが、アイツは俺が夢の事を好きなのを知らねェし。
まあ、知っていたとしても宇随や近くにいる煉獄のように油断はならねェ。


「はぁ…早く付き合いてェな」


彼女にしたら少しは安心できるだろう。
先ずは週末。如何に距離を縮められるか頑張らなくではいけない。
もう、ちんたらしている時間も心の余裕もないのだから。




次の日、不死川の機嫌は最悪だった。

朝礼後に宇随と夢の会話を全神経を集中させて盗み聞きしたからだ。
今日は不死川の大嫌いな宇随によるジェルネイルの日らしい。
その会話は近くにいた玄弥にも聞こえていて、うっわと思って兄を見た時にはもう、怒りオーラがビンビンに伝わってきて今日はもう駄目だ。兄には極力話しかけないでそーっとしておこうと玄弥は思ったし、それは玄弥だけではなくジェルネイルの日だと認識した周囲の人間が皆そう思った。

当然、宇随によるジェルネイルの施しをよく思っていない不死川は過去にジェルネイルするのを止めてくれ!せめて夢だけでも止めてくれ!と訴えた事はあるが、それに対して宇随は俺様の芸術の邪魔だけはさせない。と言うので口論になった事があった。

不死川の完璧な私情によるものだったので、宇随もイライラして女を喜ばせる為にやってるんじゃねぇ、あくまでネットショップに載せる写真を撮るためだ!こっちは仕事でやってるんだから止めねぇよっ!と言われ完敗したことがある。


そして、やはり怒られやすい善逸や村田はこういう日に限って不死川に用があり、話しかけるだけでもギッと睨まれてしまい、ひぃっ!と情けない悲鳴を漏らす。
いつもなら「よもやよもや」言う煉獄でさえも余計な事は言わない方がいいと思い黙っている。

そしてそして、今日から毎週金曜は夏祭りの準備を始めるのだ。
予定通りに2時間早く締め作業を行い、昨日、煉獄が言っていた衣装決めを行う。

宇随と伊之助も撮影室から事務所にやってきた。


各チームに衣装となる浴衣の資料が配られ、凄い沢山の種類が載っている。

何処か皆が浮き足立って資料を見ていて、伊黒の説明によると鮮やかにする為と、今回この浴衣を提供してくれたメーカーの宣伝の為にも一人一人が違う浴衣を選んでもらい多くの浴衣を紹介すると言う。
被った場合はジャンケンだそうだ。

ホワイトボードに浴衣の型番が書かれた大きめの紙が貼られてその下に名前の磁石を貼っていくらしい。


結構皆早くに決めたようで、次々に名前の磁石が貼られていく。

夢も2つまで絞っていて、その2つともまだ誰も選らんでいない。
名前の磁石を持ってホワイトボードの前で悩んでいると手に持っていた磁石がスルリと手から抜かれた。


「どれと迷ってんだァ」


「し、不死川さん」


今日1日機嫌が悪かったのは夢も気づいていたので、普通に話しかけられて驚く。


「この薄いピンクか赤にしようかなぁって…あっ!」


「これにしとけェ」


なんと夢の悩んでたピンクか赤ではなく、薄いエメラルドグリーンの生地に白やピンクの花が散りばめられた少し大人っぽい浴衣に名前の磁石が貼られてしまったのだ。



end.






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