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13話





「どうしたの?…ふぁ…実弥くん、お帰り…」


名前を呼びながら寝室に入ってきた実弥に多少驚きながら目を覚ました夢。
今日は実弥が帰宅する前にキリのいいところで御守り作りを止めて先に寝ていた。
そこに血相を変えてやってきた実弥に起こされてしまった。


「寝ていた所、すまねぇが…確認してェ事がある」


「な、に?」


夢は自分を真上からしゃがんで見下ろす実弥を気にせず目を瞑りながら答える。眠いのだ。
そして、今は目を開けない方がいいと思うんだ。だって、絶対おっかない顔をしていると思うから見ない方がいいと思う。


「…お前、朝起きた時に…股に違和感あった事ねェか?」


…股?違和感?何の話?
意味がわからな過ぎてそのまま黙って寝たふりをして黙る。


「…夢っ!!」


至近距離から、況しては自分の顔の真上から叫ばれ、顔の横にボフッと両手をついてきた実弥。
反射的にビクッとして目を開いてしまった。
しかも、顔に唾かかったよ実弥くん…


「どうしたの?お風呂入ってきたら?」


「今はそれどころじゃねェんだァ、どうなんだあるのかァ?」


「…何が?…わっ」


眠い目を両手で擦っている夢を実弥は布団を避けて抱き上げた。
眠くて愚図っている子供が親に抱っこされてるみたいだ。


「だからァ…朝にっ!股が濡れていた事!ねェかってェ!」


やっぱりおっかない顔をしていた実弥くんは意味の分からない事を言ってくる。
股が濡れてるって…


「私、おねしょなんかしないよ…」


「違ェ…そうじゃねェ!…白く…ヌルヌルしてたりした事ねェかってェ!」


「白?…赤じゃなくて…?」


「赤じゃねェ!白だ白ォ!」


「実弥くん…月のものは赤だよ?白なんてないよ!」


「それぐらい知ってらァ。とにかく!白くなってた事はねェんだなァ!」


全くもって意味が分からない。
白とはなんだ。股を汚す"白"なんて全く検討もつかない、なぞなぞなのか?今のこの眠い状況でなぞなぞなんて出されても。
だんだんと夢は苛々してきた。


「無いよ!そんな事!白って何さ!卵でも産んだと思ったの!?」


"卵"と"産んだ"と言う言葉に思わず硬直する実弥。


その反応に、え?本当に私が卵産んだとでも思ったの?と怪訝そうな表情の夢は実弥の腕から抜け出した。


「烏じゃないんだから卵産まないよっ!」と言ってムスッとして背を向けて布団に潜った。


「…ねェなら、いいんだァ…すまなかったなァ」
実弥はそう言うとふらふらと立ち上がって風呂に向かった。




風呂の中でも実弥はずっと妊娠の可能性がないのかあれこれ考え、全く性への知識がない夢は気づいてない、分かってないだけじゃないんだろうかと悩んだ。
厭らしい話の類いから遠ざけ過ぎたのも問題だったのかと最近少し思う。

布団に入り夢の背中を見つめていると抱き締めたい衝動に駆られるが我慢だ我慢。
万が一の事故に備えて褌はきつめに縛り、知らないうちに己の分身が飛び出ないようにはしたが何せ分身が信じられない。
自分の意思とは別に動く、そう正に別の生き物。

いつかはそりゃあ子供は仕込むつもりでいるが、しっかり段階を踏んで、どろどろに愛して俺たちの愛の結晶をつくる予定だ。
だから、こんな無意識に孕ませちゃったなんて起きたら実弥の長年の我慢と夢が水の泡になってしまう。




次の日の朝起きても様子の可笑しい実弥くんは、朝から「オイ、最後に月のもんが来たのはいつだァ」なんて聞かれた。


「実弥くん、女の子にその質問は良くないと思う」と私が言えば、「…いいから教えろォ」と言うので頭にきた。


「昨日からなんなの?」


「俺はお前の身体が心配なだけだァ」


「大丈夫です!元気ですのでお構い無くっ!」


思わず言いそうになった。
私は実弥くんの頭が心配です。と。

屋敷の中を掃除や洗濯していても感じる熱視線。いつものチラ見とは違う、ずっと見張られている感じ。

ちょーっと苛々するから実弥くんが厠に行ってる隙に裁縫道具を持って『ちょっと出掛けて来ます』と書き置きを残して屋敷を飛び出した。


やっぱり外に出ると気持ちいい。気分転換になる。
木陰で裁縫道具を広げて、実弥の刀の鍔の柄をチクチク縫っていく。
夜にやるより断然いいから明日も是非、外でやりたいが明日は外に出してくれないんだろうなー。今日だって書き置きを残して来たけど、実弥にとっては勝手に出て行ったと同然だろうから、どうせ家に帰ったら怒られるのは分かっているし、怒られるは覚悟で出てきたのだ。


「あ、夢ちゃん!」


「善逸!久しぶり!」


刺繍をしていると名前を呼ばれて顔を上げると仲良し3人組ではなくて疲れた顔をした善逸がいた。


「今日は一人なんだね、なんか…大丈夫?」


「聞いてくれよ〜」と善逸が夢の横に崩れるように座り込んだ。
どうやら、鍛練してたら伊之助に勝負だ勝負と騒ぎだして追いかけ回されてしまい、やっと振り切って逃げてきたところらしい。


「あの猪め、本当やだ。夢ちゃんは何縫ってるの?」


「んとね、実弥くんのお守り!もうね、今のがボロボロなの!」と笑えば善逸が「いいな〜俺も女の子に作ってもらいたいなー」と言う。


「好きなコ出来たらお願いしてみたら?」と言ってみると善逸が下を向いてもじもじし始めた。


「夢ちゃん…もし、良かったら…」そこまで言って善逸がばっと顔を上げた。どうしたのだろう。


「来る……ああああ、ヤバイ!凄い音がする!夢ちゃん待たね!」そう言って善逸は突然走り去って行ってしまった。

凄い音とはなんだろうか。夢には特に聞こえない。
また、刺繍を再開してチクチクと縫っていると自分に影が差した。


「ん?」


顔を上げて硬直した。

目の前には額に汗を滲ませ、恐ろしい顔の実弥がいる。
身体が金縛りにあったように硬直してしまったが、はっとして手に持っていた御守りを後ろ隠す。


「テメェ…約束事破ってんじゃねェ」


「うぅ、さ、実弥様、お許しを…」


久々に見た…かもしれない般若顔の実弥を。


「後ろに隠したもんを出せェ」


「…そ、それは…痛っ」


後ろに隠した手に針が刺さり、反射的に持っていた御守りや裁縫道具を落とした。


「あ"ァ?」


夢が自分の手を見るとぷくっと血が出ている。
実弥は無言で手首を掴み自分の方に向けた。


「あっ、実弥くん、やめ、て」


夢の人差し指は実弥の口に咥えられ、血の出ていた辺りを舌で舐められてしまった。


「消毒だァ」





般若ではなくなったけど実弥くんの目がまたあの時の獲物を狙うような強い目をしながら指を舐めていて手が震える。




end.




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