7話
「蜜璃さぁ〜ん、お弁当教えてくださ〜い」
「あら夢ちゃんどうしたの?」
「今週末にお弁当作る約束しちゃったんです」
「まぁ!?ついに不死川くんと!?」
「え、なんで不死川さんにお弁当作るって分かったんですか?」
お昼休憩。今日は甘露寺と胡蝶、神崎、夢の4人で昼食をとっていた。
日曜日に不死川にお弁当を作ると約束をしてしまった夢は何時も伊黒にお弁当を作っている甘露寺に泣きついた所、何故か不死川にお弁当を作る事がバレており夢は首を傾げ、他の3人は顔を見合わせた。
甘露寺が声を潜めて聞いてきた。
「不死川くんと付き合ったからお弁当を作る事になったんじゃないの?」
「えっ!違います違います!」
驚きながら夢が否定すると、今度は他の3人が驚いた顔をしている。
3人は同じ事を考えていた。
もしや不死川は夢が好きすぎて告白もしてないのに勝手に自分の女扱いして自分だけ付き合って気になってしまっているのではないか。
正直、あながち間違っていない。
とうの昔から不死川が夢の事が好きなはのは周知の事実で、知らないのはこのキメツネットショップで夢と冨岡、伊之助ぐらいだ。
そして、不死川のたまに独占欲丸出しな行動も見ているので3人は同じ事を思った。
もう早いとこ不死川の気持ちに気づいてやってほしい。
「じゃあ、どうしてお弁当を?」
「…日曜日にキメツ臨海公園に連れてってもらうことになったんです。それで、お弁当を頼まれたんです」
「デートに行くのね!」
「蜜璃さん、しー!デートなんて言ったら不死川さんに失礼ですよ!」
「2人で行くのならデートだわ!ね?」
うん、そうね。と胡蝶も神崎もデートだと言うので夢は恥ずかしくなってしまい顔を赤らめる。
その反応を見るにおや?もしかして両思いなのか?と思った。
違うにしろやっと!やっと不死川が動きだしたのか!という気持ちで3人はいっぱいで、大学時代の不死川の荒れ様を知っている甘露寺と胡蝶はお願いだから早く付き合ってあげて!と切実に願う。
「と、とにかく、どんなお弁当がいいか一緒に考えてほしいです…」
それから、とりあえずハート型になるようにしましょう。と、しのぶさんに言われ、卵焼きは斜めに切って斜めの断面を合わせればハート型になるし、あ、それウインナーでもできるよ。ハンバーグやポテサラ、ニンジンもハート型にできるし、キュウリをハート型に切って竹輪に詰めるのもいいよね!と皆でハート型の料理についてあれこれ話し始めてしまった。
「いやいや、ハート型なんて可笑しいですし、恥ずかしいですー!」
なんで3人とも普通の顔してハート型の料理を推してくるのか。男性にお弁当を作るときはハート型にするのが当たり前なのか?
「不死川さんが可愛いもの好きじゃなくてもハート型にしたらイチコロよ!」
「蜜璃さん、私は不死川さんをイチコロにしたいわけじゃなくてですね普通に喜ばれるお弁当を用意したいんですー!」
「是非ともあーんして食べさせてあげてね」
「しませんー!」
駄目だ。私の意見は聞いちゃくれてない。
たまにこういう所、蜜璃さんは煉獄さんに似ていると夢は思っていた。
はぁ、とため息をつきながら昼休みを終えて事務所に戻る。
結局3人して、初デートは可愛らしい清楚な服を選ぶのよ、ノースリーブニットにカーディガン羽織ってスカートとか。手を繋ぎたいアピールは袖を掴むか、できるなら指先を掴めたらよりいいと思う。など、いや、だからデートじゃないんだって話を聞いて!と夢が言うのも気にせず楽しそうに話を進められていった。
仕事を再開して、女性陣は駄目だったので隣の炭治郎にお弁当に何が入ってたら嬉しいか聞いてみようかと思ったが、なんでも嬉しいぞとか言われそうだし、今は仕事中。また不死川に見つかってまた怒られても嫌なので黙って仕事しよう。
それにしても男性と何処かへ行くのなんてだいっぶ久々だからだろうか頭が今週末の事でいっぱいだ。
集中し直そうと思い目の前のキャンセル処理に取りかかった。
10件程のキャンセル処理を済ませて、キャンセル伝票に役職者のサインを貰おうと煉獄を見ると電話中。お客様に謝っているようで直ぐは終わらなさそう。甘露寺は村田さんに何かを教えてあげていて忙しそうだ。
チラリと腕時計を見るとキャンセル伝票提出時間まであまり時間がない。
仕方がない。行くしかないか…
「不死川さん、あっ…すいません」
不死川の横に来て気づいたが、受話器を左手に持ちその手でボタンを押している所だった。
夢が話かけると、受話器をガチャンと戻した。
「問題ねェ。どうしたァ?」
「キャン伝にサインほしいんです。煉獄さんも蜜璃さんも取り込み中で」
「構わねェ。貸せェ」
10件程のキャンセル伝票を渡すと忙しいはずだが落ち着いた様子で不死川は1件1件チェックしながらサインしていく。
最後の1枚で不死川の手が止まる。
「返品の引き上げ部署間違ってるぞォ」
「え、何処でした?」
不死川に近づき手元にあるキャンセル伝票を覗き込む。
「ここだったら西日本の倉庫戻しだァ」
「お客様宅が愛媛だから、商品の戻し先は東日本の倉庫です、よね?」
返品を承るとお客様宅に商品を回収の手配をして、お客様の住所が東日本か西日本かで商品の戻し先が変わる。
愛媛だったら東日本の倉庫戻しであっているのでは?と夢は首を傾げた。
「…お前、"愛媛"と"愛知"勘違いしてねェか?」
ふっ、と笑って不死川は夢を見る。
「愛媛は四国だろうがァ」
「あっ!…"愛媛"と"愛知"間違えました…直してきます!」
恥ずかしい!キャンセル伝票提出時間も迫ってるし急いで作り直さなくては。
戻し先を西日本の倉庫に設定してキャンセル伝票を出し直すと、調度、不死川が夢のところにやって来た。
座ったままの夢の後ろからキャンセル伝票を覗き込むと、西日本に変更になった事を確認するとそのまま後ろから腕を伸ばしサインをしていく。
距離の近さに夢はギッと体を固まらせた。
「ほらァ、忘れもんだァ」
「…ありがとう、ございます」
サインをして離れていく時に囁かれ、先程のサインしてもらったキャンセル伝票を机の上に置かれ、頭を撫でて不死川は離れて行った。
席に戻る途中に煉獄の「よもやよもや」が聞こえて不死川が「煩ェ」と答えたのが聞こえる。
近いやら耳元で話されたやらで心臓が煩くて仕方がない。
数秒固まり、キャンセル伝票を提出しに行かなくてはと思いだし伝票チームに持って行くと冨岡に時間ギリギリだなと嫌みを言われてしまった。
そうだサインなら冨岡もSVなんだからできるではないかと思ったが冨岡はキャンセル伝票の上げ方もわからないんだった。
甘露寺もちゃんと確認してサインをしてくれるけどちょっとおっちょこちょいな所があるし、煉獄はたまに喋りながらサインをするのでちょっと不安。
そうなるとやっぱり安心してしっかり確認してくれるのは不死川なんだよなぁと夢は思った。
ただ距離が近いのはドキドキするから止めてほしいのだが…
end.
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