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5話




「はぁ〜…やっぱりか〜」


文机に見とけ!!と言わんばかりに置いてある紙には『男と手を繋いではいけない』と達筆な文字で書かれている。約束事がまた増えてしまった。

炭治郎達と町で歩いている時に実弥と出会い、善逸と手を繋いでいる所を見られてから実弥の機嫌はすこぶる悪かった。
口数もより少なくなり、ぶすっとした表情で晩飯を済ませてぶすっとしたまま任務に行かせてしまった。
いつ怒鳴られるかビクビクしていたが、怒鳴られる事はなくただただ不機嫌で、あれなら先に怒られて謝った方が話しかけやすかったのだが…

そして、実弥が担いでいた木材はなんなのか?何をするのか聞きたかったが結局ビクビクしていたせいで聞けずじまい。

でも、取り敢えず約束事にもされてしまったし実弥の嫌がる事を夢もしたくないので、男の人と手を繋ぐのは止めようと思った。


風呂をすませ、一人布団に潜り明日は大人しく屋敷にいて、ご機嫌取りでこし餡とつぶ餡のおはぎ両方を作るとしよう。

なんだか実弥くんに悪い事した気分だなぁ。と思い、せっかく今日は蝶屋敷に行って楽しい1日になはずだったのにこんな浮かない気持ちで終える事になるとは。
二つ並びの布団の空いてる隣を見てまた余計に気分が沈んでしまう。
寝付きが悪く何度も寝返りを打っているといつの間にか夢は眠っていった。




ギィーコー ギィーコー ギィーコー

カランッ

ギィーコー ギィーコー ギィーコー

カランッ


「…え?…なに?」


聞きなれない音に目が覚めた。
庭の方から音がするようで寝起きの目を擦りながら歩く。


やはり音は庭からで実弥がいる。


「…実弥くん?」


「 …ん、おいっ!?お前っ!?」


名前を呼ばれて振り向くと、寝ぼけてよろよろと歩いてきた夢の寝巻きの合わせ目がゆるゆるになっていた。
実弥が凄い顔をして駆け寄り、ほとんど縦になりかけてる合わせ目を引っ張って直す。勢いよく引っ張られたのでよろけてしまう。


「…実弥くん、おかえり」


「ただいま…じゃなくてなァ!?前開きかけてたぞォ!!」


「ふぁ〜、ありがと。実弥くん、顔、こわっ」


「誰のせいだァ!誰のォッ!!」


目、血走ってるよ実弥くん。と言おうとして止めた。昨日の事もあるし、あまり刺激しないでおこうと。それより…


「何してたの?」


「あァ、ちょっと…鳥小屋をなァ」


「鳥小屋?」


実弥の後ろを見ると昨日担いでいた木材と今投げ捨てたノコギリが落ちてある。
切っていたと思われる木が複数。


「…あァ…あれだ…お前動物好きだろ?」


「そうだけど、急にどうしたの?」


「お前が一人で居ても寂しくねェようにだァ」


その言葉を聞いて寝ぼけてた頭はすっかり覚醒し、ジーンと感動して涙目になり、実弥もそんな夢の頭を優しく撫でてやる。


「実弥くん、ありがと…優しい優しいよぉ〜大好きだよぉ〜。これからもちゃんと実弥くんの言うことちゃんと聞くよぉ〜」と言いながら夢は実弥の背中に両腕を回して抱きついた。
実弥も片手は背中に回し、もう片方は頭をしっかりと抱きしめて幸せを感じる。


「ほらァ、そろそろ、飯の準備してくれェ。お前の飯が食いてェ」


「うん、わかった」


実弥の胸から顔をあげるとふにゃふにゃな笑顔を向けてから夢は台所に駆けて行った。


本当の鳥小屋を作る理由は別にあったが、まあ嘘ではないし、とにかく上手くいって良かったと実弥は思った。笑顔も見れたし。

早く完成させたいので続きに取り掛かる。

昨日の任務中は早く、帰って、鳥小屋、つくる。の思いが頭の中でずっと居座り、他の隊士が攻撃をする間もなく実弥が複数の雑魚鬼に対して大技繰りだし一気に片付けてしまい同行した隊士は、え?俺等くる必要あった?こうやって倒すんだぞ?って見本?と困惑した。

割りといつも仏頂面で何を考えているかわからない(本当はだいたい夢の事しか考えてない)、怒ってるように見える、怖いと隊士達に思われてる実弥だが、戦闘の時は頼りになるし後ろから周り込めなど指示をくれるのだが今日は無言で走り出したかと思えば一人でちゃっちゃと片付けてしまったのだ。

隊士達の置いてきぼり感は凄かった。

実弥は急いで帰宅し、寝ている夢の寝顔を静かに眺め心がけ落ち着いた後、風呂を済ませ、朝日が昇って直ぐに騒音を出す訳にもいかないので木材を切る場所に目印を付けて過ごしていた。
朝、皆が活動を始める時間になればもういいだろと思い、木をギコギコ切っていた所に夢が起きてやって来たのだ。



ご飯できたよーと呼ばれて2人で朝食をとった後はまた鳥小屋作りに没頭した。


休んだら?と夢が声を掛けるも実弥は問題ねェと休まずに作り続け、口に釘を咥えながら組み立ていく姿はなかなか様になっていて夢は実弥くんって器用だよなぁと思う。鬼がいなくなった後でも仕事には困らないのではないか。



「やっとできたぜェ…」


額の汗を拭った不死川は空を見上げると日がずいぶん高くなっていた事に気づき、俺はどんだけ熱中してやってたんだと自分に引いた。


「わぁー凄い凄いできてる!」


調度、夢が実弥を休ませようと縁側にお盆にお抹茶とおはぎを持ってやってきたところだった。


「来るかなぁ?鳥さん」


ワクワクしている表情はまだ子供らしさが残っていて微笑ましい。
つられて実弥も優しい表情になる。


「心配はいらねェよ」


「あ、お米置いてみよう食べに来るかも!」


そう、言うやいなや夢は台所に向かい、それを見た実弥は自分の烏を呼び、やって来た烏に言う。


「従順そうな鳥を誘惑してこい」


実弥の烏は一瞬何を言われたか解らなかった。己の主人は何を言っているのか。今まで近くで散々夢への異常な執着ぶりを見てきた烏はついに頭が可笑しくなってしまったのかと思った。


「いいかァ?従順そうな奴だぞォ」


え、これやらなきゃダメなのか?と口には出さないが思わずにはいられない。


「報酬は桃でいいかァ?それともお前もおはぎ食うかァ?」


それを聞いた実弥の烏は飛び立ち「オハギ、イラナイ。桃ヲクレ、実弥」と言い残し飛び去って行った。


よし、これでアイツが鳥を連れて来たら躾よう。優秀な俺の烏はきっと連れて来る。報酬の桃を用意しなくては。



end.



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