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- ナノ -
感じる──何かを感じる。
ここ数日、何かの気配を感じる。
ある時は斜め後ろから、ある時は上から、ある時は右からと、色んな方向から誰かに見られているような気がしていた。
同期のくノ一に相談しても何も感じないと言うし、どうやら私だけが感じ取れる「何か」らしい。

「もしかしてカナったら、そろそろ夏だしお化けが見えるなんて言わないでしょうね?!」
「そんなわけないでしょ……今までそんなの見たことないし」

薄闇に包まれ始めた夕刻、私は同期の仲良しの女の子とオレンジ色に照らされた帰路をゆっくり歩いていた。
向こうに見える空は、すでに上部が紫色に染まっており、下に向かうに連れて明るいオレンジ色のグラデーションになっている。
同期の言うように、幽霊が出始めそうな時間帯ではあるが、生憎私は二十数年生きてきてそのような気配を感じたことはない。だから、そんな存在は信じていなかった。
忍の私にとっては、幽霊なんかよりも敵国の忍の方が怖いと思うのだった。

「でもさ、お化けとかってある日突然見えるようになるって言うじゃん!」
「そもそもお化けなんていな……」

その瞬間、視界の隅に人の姿がチラッと見えた気がして私は呼吸が止まる。
見えた気がした方を見ると、低木の植え込みと、さらにその後ろには鬱蒼とした森が広がっている。ここの向こうは山だ。
ふと、昔から山には神がいるとか、妖怪が出るだとか聞いたことがあるのを思い出す。先程私が見た姿はもしや……いや、そんなはずはない。

「え?!ちょっとカナどうしたの?!」
「……いやいや、ないない」
「え?!なに?!どうしたのマジで?!怖い怖い怖い!」
「気のせいだった、うん」

パニックになる同期を落ち着かせながら、私はこぼれ落ちそうなほど目をひん剥いて、ギョロギョロと目だけを動かして周囲を見渡す。
人影はない。気配もない。神経を研ぎ澄ませても何も感じられない。これは人間の仕業ではない。
そう悟った時、私は絶望した。まさか、自分が霊感を身につけてしまうなんて。

「嘘だ!なんかおかしいもんカナ!絶対見えたんでしょ?!今幽霊見えたんでしょ?!」
「うるさい!見えてないったら見えてない!しかも見えてるとか言ったら寄ってくるからやめてよ?!」
「ほら!やっぱり見えてたんだ!どうしよう私呪われたくないよ……」

私たちはパニックになりながら、最早幽霊もドン引くレベルの大声で騒ぎ立てる。
そうしながらも、私はこのまま一生幽霊の姿に怯えながら生きていかなければならないのか、それは嫌だ、でもどうしよう、知り合いに除霊師がいただろうかと一瞬の間で頭をフル回転させこれからの人生を憂いた。
すると、ガサガサと木の上が揺れる。
私たちはとっさに悲鳴を上げ、抱き合いながら崩れると、震えながら目をギュッとつむった。
すると──

「いやぁー……なんか驚かしちゃったみたいでごめんね……」
「カカシさん?!」
「昼間に読書したまま寝ちゃったみたいでさ、恥ずかしいから隠れたんだけど……怖がらせちゃったみたいだったから」

薄暗くてあまりよく見えないが、どうも困ったような表情のカカシさんが木の上から顔を覗かせている。
まさかこんな所で読書なんて、正気だろうか。

「え、あんたはたけカカシと知り合いなの?!」
「まぁちょっと色々あって……」

同期と私はまだ抱き合ったまま、彼に聞こえないくらいの小さな声でやりとりをする。

「お友達も、本当ごめんねぇ。気配消してだんだけど、まさかお化けと思われちゃうとは思わなかったよ。腰抜かしちゃったりしてない?動ける?」

優しく声をかけ、私たちの前に彼が降りてきて手を差し伸べようとした。
ここで私は彼に少し怪しさを感じる。
今まで謎の気配は途絶えたことがなかったが、いまこの瞬間、先程までの視線がぷっつりと途絶えたのだ。
先程の茂みに何が潜んでいるかわからなかった時は、今までよりも濃い気配を感じていたのに、だ。
もしや、私がこの数日感じていた気配はカカシさんなのではないだろうかと、変な考えが浮かぶ。
私は彼の手を借りることなく「大丈夫です!ご安心ください!」と言って、スッと同期から離れ、立ち上がる。
同期はカカシさんの手に捕まって立ち上がろうとしたが、私が一人で立ち上がったので手を引っ込め、私を恨めしそうに見てゆっくり立ち上がった。

「なら良かった。もう暗くなるし、二人とも送ろうか?」
「いえいえ!大丈夫ですから!」
「えー?カナ、ここら辺ちょっと気味悪いしお言葉に甘えれば……」
「そうだ!私今日宅急便の荷物の受け取りがあるんだった!急ぐよ!」
「あ、ちょっと?!押さないでよ!」

私は同期の背中をぐいぐい押して歩き始める。
とりあえずはここから離れなくては。同期がいる場でイチャイチャシリーズの話をされては困る。彼女には映画を見に行ったことを秘密にしているからだ。
それに、視線の主がもしカカシさんだったことを想定すると、何が目的なのかわからないままここで接触するのは若干の怖さを感じる。

「カカシさん、お気遣いありがとうございました!」

振り返ってお礼を言うと、彼はニッコリと微笑みを浮かべ、「あぁ、またね」と手を振ってその場から私たちを見送っていた。

夕焼けのせいなのか、少々彼の笑顔が怪しく感じられた。

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