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「#エロ」のBL小説を読む
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映画のような恋がしたいなぁ、なんてたまに思う。
やっと上忍にまでなれたけれど、気を張る毎日の連続。もう20も半ばなのに恋なんて到底できそうにない。
こういう時、普通の女の子だったらなぁと思う。

そんな風に思い始めてから、私は映画にのめり込むようになった。
特に、任務終わりのレイトショーは私の心のオアシスだった。
見る時は決まって売店で軽食とビールを購入して、空腹を満たしながら最高の世界に浸る。何にも勝るストレス発散法だ。

その日、私はいつものように任務終わりにレイトショーを観に映画館へ向かった。
今日の上映はイチャイチャバイオレンスだ。しかも公開初日である。
原作は官能的だと評されていたため手にしたことはなかったが、私の大好きなミュージシャン且つ俳優の源作(ゲンサク)が主演のため、もう1ヶ月以上も前からこの日を楽しみにしていた。
その上、試写会で女性からの評価がものすごく高かったという前評判を聞いていたため、今日は任務に全く集中出来なかったくらいだ。
普段は知的でクールな源作だが、妖艶で荒々しいレアな彼を見られると思うと気持ちが昂る。

映画館へ入って、チケットを購入し、お手洗いへ行って売店の列に並びながら何を買おうか悩んでいると、ふと同じ上忍のユニフォームを着ている人物が視界に入った。
その人物は、物販の方の売店でグッズを選んでいるようで、胸の前で腕を組んで真剣そうに売り場を見ていた。
身長は高く、すらっとしていて銀髪──天才コピー忍者の通り名で有名なはたけカカシだろうか。
あんな有名人も、こんな時間に映画館にくるのだなとぼんやり思っていると、レジのおばさんに「次の方ー」と呼ばれたので、すぐに彼のことは頭の中から消えていった。

私はいつも通り、ホットドッグとビールを頼んでチケットに記された自分の席へ向かう。
今日は座席指定ができるほど空いていたので、劇場内のほぼど真ん中のあたりの席を選んだ。いつも空いていれば、臨場感がありつつ映画に集中できる真ん中を選ぶことにしている。
本当は私の三席隣がど真ん中だったのだが、先客がおり今日は少し右にずれる形となった。
ちなみに、私が座る列に、先客以外はいないようだった。

何はともあれ、セクシーな源作が見られればいいやとウキウキしながら席につく。
暗くなってから食べると周りの迷惑になりかねないので、まだ明るいうちにホットドッグで腹ごなしをしていると、私とは反対側──つまり左側の通路から、先客らしき人物がやってきた。
この映画でど真ん中を選ぶなんてどんな人だろうとチラッと顔を向けると、私と同じ服装をした男が立っている。
──はたけカカシだった。

思わず「あ」と声が漏れそうになるが、すぐに私はホットドッグにかぶりついて蓋をする。
はたけカカシは、右手にポップコーンと飲み物を乗せたトレイ、左手に先程購入したと思われる物販店の大きな袋を下げていた。
確実に目が合ってから、5秒ほど彼は私のことをじっと見つめると、何事も無かったかのように荷物を下ろし、座席についた。
レイトショーは他にミステリーものと大人気のSF映画が同じ時間にプログラムされていたから、てっきりそちら目当てだと思っていたが、まさかこんな……(失礼だが)ピンク映画もどきを見にくるなんて。
それに、こんな映画を見に来ているところを職場の人に見られるのは知り合いでなくても恥ずかしい。

まだ開演まで少し時間があるが、近くに人がいると食べるのも恥ずかしいのでさっさと口の中へホットドッグを詰め込んだ。
隣のはたけカカシもチラチラこちらを気にしながらポップコーンをボリボリと食べていた。

なんだか気まずいなぁ、そう思った時「あの、」と彼が話しかけてきた。
ハッと彼へ顔を向けると、パンフレットを持って、源作を指差していた。

「もしかして、お好きなんですか?」

小声で彼はそう尋ねると、ニッコリ微笑む。
突然のことで頭が真っ白になるが、もしかしてこの人はミュージシャンの源作ファンなのか。確かに源作と髪型もどことなく似ているような。
つまり、はたけカカシは私の同士ということなのだろうか。
私は動揺しつつも「えぇ……そうなんです、」と返事をすると彼はものすごく嬉しそうな表情で「いいですよね!」とパンフレットを握る手に力を込めていた。その様子を見て、よくいる男性ミュージシャンの猛烈なファンの類いなのだなと納得した。

「そのユニフォーム、木ノ葉の忍ですよね?任務ではお会いしたことありませんがもしかして上忍ですか?」
「はい、つい最近上忍になったばかりでして……」
「そうですか、昇進おめでとうございます!それと、失礼ですがお名前は?」
「しののめカナです」
「オレははたけカカシって言います。いやぁ、木ノ葉のくノ一に同志がいるなんて思いませんでしたよ!」

彼はパンフレットをしまうと、小さくガッツポーズをする。
テンションの上がり様に若干困惑しつつ、物凄い方と顔見知りになれたことに少し嬉しく思う。彼は上忍の中でも、今の私では全く手の届かない雲の上の存在だ。
しかも、普段は気怠そうにしているイメージだったからよくわからなかったが、こうやって生き生きとしている姿を見るとなかなかの色男だ。
趣味が同じで、とか、好きなアーティストが一緒で、だとかで心の距離が縮まり、恋に落ちる男女は多い。
これはもしや、映画の様な運命の恋なんじゃ──私はほんのり淡い期待をしつつ、彼に笑顔を返した。

「任務で日中は来れなかったのですが、やっぱりどうしても公開初日に見たくてきちゃいました」
「ですよねー、わかります。オレも今日は正直任務でヘトヘトだったんですけど、やっぱり見たくて」
「お互い大ファンですね!」
「ええ!もう18くらいのころからゲンサクの大ファンで!」

この人がいくつか知らないが20代後半であるのは確かだろう。しかし、そんな前から源作って活動していたっけ?──そんな疑問が頭をよぎるが、丁度上映開始のブザーが鳴り、場内が暗転したためどうでも良くなる。
私たちはすぐに口を閉ざし、映画へ集中する態勢を整えたのだった。



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