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あの日からしばらく先輩には会っていない。
私がまた国外に数日間赴く任務に二回出て、丁度噛み合わないタイミングで先輩が数日間の任務に出たようだった。
しばらく間が空いてしまうと、次ばったり会ったらどんな顔をしたらいいのかわからない。
気まずいなぁ、今日は会わないといいなぁと本部の廊下を歩きながらなんとなくモヤモヤしていると、「よぉ、カナ」と私を呼ぶ声がした。

「アスマ先輩!お久しぶりです」

アスマさんだった。外でタバコを吸ってきたのか、煙たい匂いがする。

「お前、カカシと何かあったか」
「え」

思わず素っ頓狂な声が出る。
久しぶりに会って第一声目がそれですか、とツッコミを入れたいが、生憎アスマさんにそんな返しができるほど度胸はない。
私は「なんのことでしょう」とすっとぼけた。

「カカシのやつ、最近様子がおかしいんだ」
「気のせいじゃないですか?それか体調悪いとか」
「それが、ガイが勝負を仕掛けてもうんともすんとも言わないらしい」

いつもはじゃんけんくらいは仕方なく応じてるのによ、とアスマさんが肩をすくめる。
この前の件はそんなに様子がおかしくなるほどのことでもないだろうから、何か他に大変な出来事でもあったのだろうか。私は会話を続ける。

「結構やばそうですね……何かあったんですかね」
「なんだ、お前も知らないのか」
「いやいや、カカシ先輩は私にはいつもなにも話してくれませんよ」

謙遜の意もなく、本当に思うままにそう言うが、アスマさんは信じてくれない。
それどころか、ニヤニヤしてからかうように「どう見てもお気に入りだろ」と肘で小突いてくる。

「休みの日にパシリにされたり、話す時に目すら合わせてくれなかったり、すぐ威圧感たっぷりの笑顔で怒ってくるんですよ?気に入られてると思います?」
「そりゃお前、好きの裏返しとか言うだろ」
「……いい大人の男がそんなことあり得ますかね?」
「カカシは子供の頃から素直じゃないとこもあったからな」

懐かしむように言った。
私は子供の頃のカカシ先輩を知らない。
話によれば、今からは考えられない程の冷血漢だったそうだが、どんな経緯であぁなったのかは誰一人として教えてくれない。多分、勝手に人の口からは言えないほど辛いことがあったのだろう。
毎朝英雄たちの石碑やリンさんという方のお墓参りをしているのもその証拠だ。
知りたいけれど、先輩が言いたくないならとそんな噂を知らんぷりしてきた。
私の知らない先輩を知っていて、羨ましいなぁとは思う。

「あんなに私以外の女の子にニコニコ愛想振りまいてる人がですか?」
「妬いてんのか」
「妬いてませんけど」
「そう怒るなって。本当はめんどくさいけど、そうしといた方がしつこくされなくて楽だって言ってたぞアイツ」
「ほー。なかなか性格悪いですね!」
「カカシには本当きついなお前……」

呆気にとられているアスマさんに、私は「それほどでも」と微笑んだ。
すると、彼は意外な言葉を口にする。

「カカシはお前の事、いつも褒めてるんだけどな」

一瞬耳を疑った。
あんなに私に興味のなさそうな先輩が、私の話を他の人にしているなんて。しかも褒めているなんて。あり得ない。

「どんなこと言ってたんですか?!」
「優秀だーとか、なかなかあそこまでのくノ一はいないぞってよく自慢してるぞ」
「それって自分の教え方がすごいって言いたいだけじゃないですかね……」

あまり褒めてくれない先輩がそんな風に言ってくれているなんて。嬉しい反面、素直に喜ぶことが出来ない。
アスマさんは私のやさぐれた反応にゲラゲラ笑うと、どこまで捻くれてんだと呆れたように言い放った。

「ま、聞いたところお前も随分とカカシにフィルターかかってるみたいだし、冷たいなんて勘違いじゃねーの?」
「勘違いだったらいいんですけどね」
「とにかく、ちょっとでいいからカカシの様子見といてくれ。多分今日あたり帰ってくるはずだ。頼んだぞ」

じゃあな、とアスマさんは背を向けどこかへ消えてしまった。
嫌な頼まれごとをされてしまったなぁ、とため息をつく。
とりあえず今日いきなり会うのは心の準備が出来ていないから、さっさと任務報告書を提出してここから出ようと事務処理室へ向かった。

幸運なことに事務処理室には誰もおらず、私は奥の席に座って、ここに来るまでに頭の中でまとめていた報告内容を記載しはじめる。
いつもよりも集中しているせいか、あっという間に筆が進み、あと三行で完成、と言うところで事務処理室の扉がガラリと音を立てて開いた。
誰だ?!と緊張しながら扉の方へ顔を向ける。
頼むから先輩でない人であってくれ、そう願いながら扉の向こう側へ目を凝らすと、「先輩!お久しぶりです!」と二つほど年下の後輩中忍の男の子が立っていた。
後輩は私を見つけるなり、机のそばに駆け寄ってきて、ペコリとお辞儀をする。
しばらく見ないうちに、随分と男らしくなっていて、前は子犬のようだったのにすっかり精悍な顔つきのイケメンになっていた。
確か里の外へしばらく修行に出ていたと聞いている。
私の背丈なんかすっかり追い越して、見上げるほどだ。

「カナ先輩、しばらく見ない間にすごくお綺麗になられて……!びっくりしちゃいました!」
「え?!ほ、ほんとに?!照れちゃうな!」

後輩とはいえ、こんなイケメンにそんなことを言われては思わず顔が熱くなる。しかも素直でかわいらしい。
昔からよく可愛がっていて良かったと昔の自分をこっそり心の中で褒めてあげた。

「いつ帰ってきてたの?」
「先週です!カナ先輩に会いたくて、帰ってきてからずっと探してたんですけど、任務行ってるって聞いてがっかりしてたんです。今日たまたま会えて良かったです!」

嬉しい言葉の連続パンチに、私は思わず口元が変ににやけそうになる。
この子天然なのかな?と思いながらも、隠しきれない喜びを「ふふふ」と微笑みに変えて応対した。
彼も私の隣の席に座ると、報告書の記載を始めた。
なんとなく距離が近くて緊張する。

「そうだ、もし今週末お時間あったら二人で飯でもいきましょうよー!オレ、ご馳走しますよ!」

報告書を書きながら突然思いついたように彼は言うと、主人の様子を伺う犬のような表情で私を見つめる。
あまりのイケイケドンドンな感じに気圧されつつも、イケメンに誘われちゃあ、ご飯くらい行っちゃおっかな、と言う気持ちになる。
ましてや後輩だ。私のこの下心などバレようもない。

「夕方からは空いてるかな〜?」

午前中はカカシ先輩の買い出しがまたあるだろうから、夕方からなら大丈夫だろうと希望を伝えると、彼は嬉しそうな顔をして待ち合わせ時間などを決めてくれた。
話しながら報告書の残り三行を埋めると、私はずっと横にいるのもなんとなく気恥ずかしくて、「提出したら用事があるから」と席を立ち、事務処理室を出ることとにした。
入口の扉に手をかけ、横に引く。すると──目の前いっぱいにカーキ色のベストが飛び込んできた。
丁度誰か扉の向こうに立っていたようだ。
「すみません!」と謝って後退りをすると、見慣れたマスクが視界の端にチラつく。

「あぁ、すまんすまん」
「カカシ先輩……?!」

最悪だ。こんな所で出会ってしまうなんて。
しかもこの感じ、絶対扉の前で私たちの会話を聞いていたに違いない。
扉に対しての距離感が近すぎる。

「なんでここに先輩が……」
「なに、オレがここに来ちゃいけないわけ?」

先輩は視線を私からジロリと部屋の奥へ移す。後輩くんを見ているのだろう。
何か言われるかと思ったが、先輩は「なるほどね、」とだけ言うと、私をよけるようにして事務処理室の中へ入っていき、扉のすぐ近くの席に座って報告書を書き始めた。
案外あっさりした様子に、脱力してしまう。
やっぱりどことなくおかしいなとは思いつつ、この前の件が頭を過り、私は「おつかれさまです!」とだけ言って扉を閉めてその場を去った。
一度態勢を立て直してから先輩の様子を伺おうと、急ぎ足で自宅へ戻った。


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