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前回のいい思いに味をしめた私は、その1週間後のお休みの日、丸一日カカシ先輩に預かってもらおうと画策した。
そばに置いておきたいなんて言うんだから、絶対に作戦は成功するはずである。というかしなければそろそろ私の精神ゲージが、日々のカカシ先輩の冷たい態度によってすり減り、どうにかなりそうである。

作戦の全体像はこうだ。
今日は私はお休みだが、先輩は受け持ちの7班の修行の付き添いがあるはずだ。かと言って先輩のスタイルはみっちり手取り足取り教えるわけではなく、ざっくり説明をして各自取り組んでもらい、コツを掴ませるやり方をとる。
その間、必然的に暇が生まれるので、いつもはイチャイチャパラダイスを読んだり、他の場所へ分身を遣わせて暇つぶしをしたりしている。
狙うのはそこで、その暇な時間にカカシ先輩にかまってもらおうというのだ。

先輩がナルトくん達の所へ向かって街を歩いている時に、分身の私が急用を偽り、カカシ先輩にしか預けられない!と騒ぎ、仔犬の私を押し付けて全力で巻く。
そのあと私は一度分身を解いてチャクラを温存し、再び迎えに行く時に隙を見て分身を送り込む。
仔犬の手では印を組むのが難しいため、家でこの1週間散々練習をした。できるといってもかなり難易度が高く、印を組む際に動きが怪しくなるため、夜に先輩がトイレに行っている時などを見計らって術を発動させるしかなさそうだ。


午前10時すぎ、私はカカシ先輩を待つナルトくん達を発見。だいぶ待ちくたびれているようである。
私の分身は三人にバレないように、キョロキョロと見回して先輩を探す。
5分位すると、通りの向こうに先輩の姿が見えた。
先輩!と声をかけようとして右足を踏み出すと、目の前を急に自転車が横切り、ぶつからなったものの一瞬にして先輩の姿を見失う。
どこに行ってしまったのだろうとあたふたしていると、急に耳元で「お前今日休みだったのか」と低い声がした。

「きゃっ!」

びっくりして振り返ると先輩が眉間にシワを寄せて立っている。

「ちょっと俺に化けてあいつらの修行に付き合ってもらおうかなーと思ってたのにな」

化けて、という言葉にぎくりとする。
もしかしてこの前のはバレていたのか、と心臓の音が大きくなる。

「そんな、私じゃすぐバレちゃいますよ」

先輩はそれもそうだなと鼻で笑うと、私の分身が抱いているわたあめの私に気付いて、スッと両手を伸ばす。

「わたあめ〜おまえ、お散歩に連れてきてもらったのか〜?」

信じられないデレ様である。
そのまま私の腕から仔犬の姿の私を取りあげると、愛しそうに私のつぶらな瞳を見つめて額から首にかけてを撫で下ろした。
丁度いい、と私は用件を切り出した。

「先輩、無理なお願いだとは思うんですが、今日一日その子を預かってもらえませんか?」

申し訳なさそうに分身が言うと、先輩はぽかんとした顔で分身の私を見つめる。

「は?」
「知人が体調不良で倒れてしまいまして……急遽看病に行くことになったんです。夜にはこちらに戻りますが、わたあめを一人にしておけなくて……」
「いやでも、オレ、これから修行だし……」

先輩は困った顔でわたあめの私と分身の私を見比べる。
このまま断られてはまずいと、仔犬の姿の私は、悲しい時に出すキューキューという泣き声で先輩に訴えかける。

「わたあめ、さみしがり屋でペットホテルとか入れると元気なくなっちゃって……不思議とカカシ先輩には懐いてるようだったんでどうしてもお願いしたくて……」

わたあめの私は、甘えた声を出しながら先輩の腕にスリスリと頭を擦り付ける。
良心に訴えかける戦法で、どんどん追い詰めてゆく。
カカシ先輩は、困惑した表情でしばらく固まっていたが、観念したのか「わかったよ」とベストのジッパーを途中まで下げ、仔犬の私をそこへ顔が出るようにしまった。
ちょうどカンガルーの赤ちゃんが顔を出しているような形になる。我ながらめちゃくちゃに可愛い。
分身の私は、ありがとうございます!と深くお辞儀をすると、カカシ先輩は「わたあめのためだからな」と満更でもなさそうに胸元の私を撫で回していた。

「ちなみに、わたあめのご飯やその他気をつけて欲しいことをまとめたメモを持ってきたので参考程度に見ていただけると助かります」
「わかった。ちゃんと引き取りに来るんだぞ」
「はい、ではよろしくお願いします」

もう一度お礼を述べると、分身の私は深くお辞儀をして足早にその場を去って行った。
作戦大成功、このまま7班の修行に潜入である。

「先生遅い!……ってなんですかそれ?!」
「いやぁーすまん!後輩に犬の世話を頼まれてな」
「ワン!」

私はどんな相手にだって愛想を振り撒くのを忘れない。
ベストの中から飛びださんばかりに前足をだし、サクラちゃんたちに興味津々のように見せる。

「ひぇー、ちっこくて可愛いってばよ!」
「なんだこの犬、ポメラニアンか?」

三人ともわたあめに興味深々で、自然と顔が綻ぶ。今日は修行にならないかもな、と先輩はぼやいていた。
私は三人が近づく度に、ワンワン鳴いたりベストの中から出ようとする、やんちゃな懐っこい仔犬を演じた。

カカシ先輩は、わたあめに触りたくて仕方ない三人をうまく宥めつつ、なんとか里の外れの森へ誘導した。

「えー、今日は見ての通り、先生はおまえらと組手の様なことはできない。なので今から説明することを実践し、できたものから今日の修行を合格とする」

先生らしい振る舞いで先輩が三人に指導をする。私に指示する時よりも、当たり前だが優しく、わかりやすく指導をしていて勉強になる。
いいなぁ、私もこんな風に指導されたいなぁと私は説明をする先輩をベストの中から見上げた。

「……説明は以上だ。何か質問はあるか?」
「あのさあのさ!合格できたらその犬っころと遊ばせてくれんのか?!」

ナルトくんが目をキラキラさせながら、私を見つめて言う。先輩はすかさず「犬っころじゃない、わたあめだ!」と怒りの声である。
そこ、怒るまでの必要あるかなぁ……と私はベストの中に潜った。

「なんだその名前」
「サスケ、わたあめの悪口は控えろ。怯えてベストの中に潜っちゃったじゃないか」
「いや、先生それ絶対先生の怒った声に反応しただけですよね……」

優しい声で、「よしよし、怖くないぞ〜」と声かけされると、あやそうとしているのかベストが揺れる。
小さい身体にはこの揺れはきつい。具合が悪くなりそうだったので、わたしはまた子カンガルーのように顔を出した。


それからナルトくん達はそれぞれ一緒懸命修行に打ち込んでいた。その間、先輩といえば地べたにあぐらをかいて座り、私をその間に乗せて独り言を言いながらもふもふしていた。

「お、そろそろサクラがマスターしそうだな。やっぱりアイツは優秀だなー」

私はサクラちゃんの方を見ながらワン!と吠える。
見たところ、サクラちゃんは修行中もサスケくんにお熱なようだ。
恋してるっていいなぁ、と思いながら私は膝の上で撫でられながらボーッと三人を見ていた。

「ま、お前のご主人様の方があの術のマスターは早かったけどな」

一瞬身体がピクッと動きそうになるのを堪えて、私は知らんぷりをする。
すると前足の下にスッと両手を入れられて、万歳の状態で抱っこをされた。先輩と向き合う形になり、じっと瞳を見つめられる。

「わたあめ、カナはな、すごーく優秀な忍者なんだぞ。誇りに思えよ。だが、忍はいつ命を落とすかわからない。さみしいよなぁ。けど、その時はオレが面倒みてあげるからな」

私が優秀な忍者──いつもはそんなこと絶対に言ってくれない。いや、たまーにある機嫌のいい日には褒めてくれるようなことがあったかも知れないが。
とにかく、こんな言われ慣れないことを、目を真っ直ぐに見て言われたものだから、私はなんとリアクションしたら良いのかわからない。試されているのか。
こう言う時はわからないフリに限る、と首を傾げると、先輩は「かわいい……」と口元を緩ませ、お腹とお尻を支えるような抱っこの仕方へ体勢を変えた。

「お、サクラが出来たみたいだな」

サクラちゃんがマスターした術は、確か私がアカデミー時代に、同年代の子よりも遥かに早く身につけたものだった。
先輩とはその頃直接接点は無かったが、噂伝いに聞いていたのだろうか。私の事をそんな前から知っていてくれたなんて、少し嬉しくなる。

「うわーふわふわ、かっわいい!」

サクラちゃんは修行している二人から離れて、私の方へやってきた。
先輩の前にしゃがむと、そっと手を伸ばして私の額を優しく撫でる。
サクラちゃん、かわいいなぁと言う気持ちを込めて私は甘えた声を出した。

「あー!サクラちゃんずりィってばよ!オレも早くわたあめ触りてー!」

悔しそうなナルトくんの声が聞こえると、サクラちゃんはクスクス笑っていた。
先輩はサクラちゃんと遊べるように、一度私を腕から地面へ下ろす。

「優しく触ってやれよ?仔犬なんだから」
「わ、わかってますよ!」

サクラちゃんは、ピンク色の髪の毛が綺麗で、色白でキュートで頑張り屋さんで、私は大好きだ。
先輩から話を聞く限り、すごく頭も良さそうだし、いつか私の後輩とかになってくれたらいいなぁ、なんて思う。
……まぁそんなこと、先輩が許さないだろうけど。
私はサクラちゃんの足元にしっぽを振りながら行くと、そのままくるくる回りを回ってから前足を彼女の膝の辺りにかけて、かまってアピールをして見せた。
彼女は、なんてかわいいの?!と私を抱き上げてからゆっくり立ち上がると、顔の周りに花を咲かせながら顎の下あたりを撫でてくれた。

それから程なくして、サスケくんもナルトくんも術を体得したようで、こちらへ駆け足でやってきた。
しばらくどちらが先に触るか揉めていたが、「オレは別に犬なんかに興味はない」とかカッコつけて、ナルトくんがムッとしながらも先に触れる事に喜んで、サクラちゃんの腕の中の私に手を伸ばした。

「うわぁ〜!ふわふわだってばよ……!」

ナルトくんも、子どもらしくてかわいいなぁと思う。私はサクラちゃんの腕の中で足を動かし、ナルトくんの方へ行きたいアピールをした。

「お?!お?!わたあめ、オレに抱っこされてーのか?!」
「あ、ちょっとわたあめ!わかったから」

ぴょん、とサクラちゃんの腕からジャンプすると、私はナルトくんの腕の中に飛び込んだ。
ナルトくんは満点の笑みで「ひぇー、ちっこい!ふわふわ!」と最早片言で私の毛並みを堪能していた。
チラッとサスケくんを見ると、やっぱり子供。気になるのか、腕組みをしてすかしているが、チラチラこちらを見ている。
私はサスケくんを見つめると、ワン!と吠えて、首を傾げてしっぽを振った。

「なっ……!」
「サスケ、触りたいんじゃねーの?」

ナルトくんはニヤニヤしながら意地悪を言う。

「んなわけねーだろ!」
「サスケ、素直になれ。こいつは間違いなくかわいいぞ。天使だ天使。触らないと後悔するぞ」

ナルトくんの後方から、先輩まで加勢し始める。
しばらく抵抗していたが、サスケくんは観念したのか、言いにくそうに「ナルト、わたあめオレにも触らせてくれ」と私に近づいてきた。
私はまた、ナルトくんの時と同じように、サスケくんの胸に飛び込み、すっぽり腕の中におさまった。
彼は私をそっと撫でると、頬を赤らめさせ、「わぁ……かわいい」とこぼしていた。

「わたあめってば、人懐っこいな。幸せそうな顔してるってばよ!」
「本当ね、ふふ」

サスケくんの表情は柔らかい。普段はつんけんしているけど、根はいい子なんだろうなぁと感じた。


それから私は四人に遊んでもらい、それはそれは楽しい時間を過ごした。
こんな小さい身体だと体力があまりないため、せいぜい1時間くらいだったか。
ちょっとバテてきたので、地面にゴロンとすると、先輩が見かねて「今日は解散」と切り上げて私をまたベストの中にしまった。

「あーあー、こんな泥んこになって」
「カナさん怒るんじゃないですか?」
「こんなんじゃあいつは怒らないよ、それにこのまま家の中にあげるわけにもいかないから風呂に入れるよ」

先輩は、「なー」と私に話しかける。
やっぱりバレていそうな気もするが、はっきりと言われているわけでもないのでお決まりの知らんぷりをした。

「それにしても、カナちゃん、先生にわたあめ預けてどこ行ったんだってばよ。こんなにかわいいのに」
「知人の看病とかいってたぞ。夜遅くまでかかるからって預けにきたんだ」
「えー、それって看病とか言ってデートだったりして!」

楽しそうにサクラちゃんがいうと、急にカカシ先輩を取り巻く空気がズンと重たくなる気がした。

「そりゃねーよ。あいつ休みの日もオレの手伝いとかさせてるし、男なんてできっこないさ」
「パシられるから嘘をついてデートに行った、って可能性もあるな」

すかさずサスケくんがぶっこむ。
サクラちゃんは、たしかに平日休みの時とかも会えるしね、とサスケくんに加勢する。
焦って先輩を見上げると、あの私に怒る前の怖い顔をしていた。
まずい──私は空気を変えようとワン!と可愛く鳴いた。
すると生徒3人はすっかり人間の私の話題を忘れて、またわたあめの話題に夢中になった。
しばらくすると、先輩の周りの嫌な空気も消え去っていた。

さて、帰ったら洗われるのか──
カカシ先輩の裸とか、あれとか見ちゃったらどうしよう。でもちょっと見たいかも知れないな、なんて赤面必至の変な妄想をしつつ、わたしは好きな人のベストの中で、四人と一匹の時間を楽しんだ。

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