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ピアスをプレゼントして以降、カナへの気持ちはどんどん膨らんでいった。

カナはあれから毎日椿のピアスをしている。
ピアスを一つしか持っていないのだから当然の事なのだが、それがまるでカナがオレのものになったような錯覚を起こし、独占欲のようなものを生み出していた。

頭では彼女にアプローチをするべきではないとわかってはいても、つい彼女の気持ちを探るようなことをしてしまう自分がいた。
カナが男前とお世辞を言えばふざけてマジな顔をしてみたり、休みの日に一緒に買い物に行けば積極的に優しさを見せたりするなどして、まるで実験のように彼女の表情を確認し、どう思われているかを推察した。
結果として、まぁまぁ好かれていることは分かったが、それが異性としての好意かまでは読み取れなかった。
自分でもバカなことをしていると思いつつも、それをやめようとしている自分はどこにもいなかった。

その日、任務を終えて帰るとカナは鼻歌を歌って食事の準備をしていた。
何かいいことがあったのか──まさか、向こうに帰る方法が分かったのではないかとヒヤヒヤしてしまう。
気持ちを落ち着かせるため、いつものようにシャワーを浴びてからダイニングに戻ると、顔の周囲に音符でも飛び交っているかのような笑顔のカナが食卓に着いていた。

「なんだ、随分今日は機嫌が良さそうだな」

風呂上りの蒸したマスクの下で平然を装い、彼女に声をかけてオレも食卓の椅子に座る。

「一つ嬉しいことがありまして!」
「あら、どうしたの」
「今週末の金曜に、部署の歳の近い方達で集まって歓迎会を開いていただけることになったんです!」

そう言う彼女は、今度は顔の周りにパッと花でも咲いたようにまた満面の笑みになる。
そんなに職場に馴染める事が嬉しいのかと驚くと共に、元の世界に戻る話でなくて良かったと心の底から安堵する。
「飲み会か、良かったじゃない」と一言返し、二人でいただきますをした。

「そういえばこないだ家では飲まないっていってたけど、お酒飲めるの?」
「はい!付き合い程度ですけど」
「へー、意外」
「皆さんと楽しくワイワイお話しできるのが楽しみです!」

家では飲まない、と言うのは言葉を返すとオレを警戒していると言う事なのだろうか。少し考えて悲しい気持ちになるが、異性の家に居候しているのだから当然のことだと自分に言い聞かせる。

「仕事終わり?」
「はい、アカデミーの敷地から真っ直ぐ大通りに出たところの居酒屋さんです!」
「あぁ、あそこね」

カナの言う居酒屋は、上忍達の歓送迎会や、仲間内での飲み会にもよく使う居酒屋だ。
しかし、帰り道に繁華街を通らないといけないのが引っかかる。
それに、歳の近いヤツだけで集まると言うのも気になる。
公式の飲み会ではなく、有志の飲み会であることは察せられるから、万が一手癖の悪いヤツがいれば──そんなことを考えてしまった。

「帰りは迎えに行こうか?」
「大丈夫です!もうすっかり通勤にも慣れたので一人でも帰って来れます!」
「いや、そういう事じゃなくて……」

──そんなことを話していたのが今週の月曜日だったか。
どうにもこうにも今日の飲み会が気になってしまってこの数日間落ち着いていられなかった。

出がけにもう一度迎えにいかなくていいかを確認したが、やはり一人で帰れるから平気だとやんわり断られ、若干凹みつつも任務へ出た。
実質今は保護者。女の子に暗い夜道を一人で歩かせるのは不安すぎると押し切れば良かったと後悔しながら石碑とリンのところへ参拝し、集合場所へ向かった。



「……珍しく先生が、草むしり」
「珍しいってばよ……」
「お前ら、今日は絶対さっさと任務終わらせるぞ」

今日の任務は、街の外れの広大な畑の草むしりだった。
なんでこんな日に限って時間のかかりそうな任務なんだとイライラしたが、ナルト達に任せてばかりじゃすぐに日が暮れてしまうと珍しくオレも熱心に草をむしった。

「ナルト、これは人海戦術だ!多重影分身を使え!」
「……カカシ、気合い入ってるな」
「先生ってば、なんかカナちゃんとあったのか?」

サスケもナルトもぶつぶつ何か言っていたが、そんなことは全力で聞こえないフリをして、終了予定時刻より1時間巻いて任務を終えた。
ナルト達とはすぐに解散をし、アカデミーに戻るとさっさと報告書を書き上げて帰宅した。
汗をたくさんかいたので、シャワー浴びて変装をし、居酒屋へ向かう。
今日までの数日間でカナの部署のヤツらの情報を探ったところ、歳の近そうな男は五名、女は二名いるらしかった。
おそらく今日の飲み会はカナを含めて八名、ほぼ男に囲まれることになるに違いない。
仮にも職場面子の飲み会であるから、そこまで乱れたことはしないと思うが、情報筋によれば一人、その部署に女に手の早い男がいると言う。

飲み会開始前から店の前付近で張っていると、19時過ぎにカナのいる集団がやってきた。カナは同僚らしき女性二人と横並びで楽しそうに話をしている。
先頭を切って店に入っていった男は若めのイマドキの男で、こいつが幹事なのだろうか。
その横に並んでいた男は、店の入り口で立ち止まると女性陣が来るまで待って、「どうぞ」と言うようなポーズでドアを開けて待っている。しかも、こいつ、顔がそこそこいい。
後ろにも他の男性の同僚がいるにもかかわらず、女性陣が入るとすぐ後をついて店に入っていった。
どうもこいつが噂の男のようだ。
カナ達のグループが店に全員入ったのを確認すると、すぐにオレも入店した。

「じゃ!カナちゃん一言お願いします!」
「本日は私のためにこのような会を開いてくださり本当にありがとうございます!今日は皆さんと楽しくお話しできたら嬉しいです!」

カナ達のグループのテーブルは、壁側の広めの席だった。予想通り、やはり八名だ。
オレは店員に上手いことを言って、そのテーブルがよく見える斜向かいの席に案内してもらい、騒がしい店内の中、一杯のビールと夕食をとりながら静かに聞き耳をたてていた。

「それじゃ、カンパーイ!」

幹事の男が乾杯の音頭をとると、カナも楽しそうにビールの入ったジョッキを持ち上げ、周りとジョッキをぶつけてカチンと音を鳴らす。
オレから見てカナの左隣には女性が、右隣にはあの怪しい男が座っていた。
歓迎会とあって話題の中心はもちろんカナで、出身地や前職のことなど他愛もない話題が続く。
カナは別の世界から来たということを伏せているのか、うまく嘘をついて誤魔化していた。スラスラと答えていたので、きっと事前に考えてきたのだろう。カナらしい。

「はいはい!オレ聞きたいんだけど、カナちゃん彼氏いるの?」

話題を大きく変えたのは、カナから一番離れたところに座った男だった。先程から状況を見るに、この中ではムードメーカー的存在だろうか。
ふと、オレはカナの隣の男をチラッと見ると、奴の目つきが少し変わった。こいつ、やっぱり怪しいぞ。

「いないんですよー、いい人いないですかねー」
「そうなんだ、どんな人がタイプなの?」

隣の女性がすかさずカナに質問する。これはオレも興味がある質問だと、より会話に集中する。

「うーん、優しくて頼りがいがある人ですかね」
「見た目は?」
「そんなにこだわりは無いんですけど、優しげな人が好きです!」

なんとも無難な答えである。
この答えに男どもは「どんどん頼ってよ〜」なんて調子に乗り出す。
カナは真面目なので「ありがとうございます」なんて笑顔を振りまいており、オレは自分のこめかみに青筋が立つのがわかった。

それからもしばらく苛立ちが募る話題は続き、ムカムカして箸が進まなくなり始めた頃、横の方から聞き慣れた女の声がした。

「あれ?もしかして違う?」
「いや、多分そうだな。変装してる」

低くくぐもったような男の声が、「変装」と言った。まさかオレのことかと声のした方に顔を向けると、紅とアスマが立っていた。目が合うなり、こちらへ近づいてくる。

「こんな所で何してんだカカ……」

アスマがカカシ、と言いかけた所でオレは人差し指を口の前に立て「シーッ」と合図を送る。
やっと察してくれたのか、二人はオレの席までやってきて、オレの正面へ座った。

「任務か?そんな格好して」
「いや違う」
「もしかしてあの中に知り合いでもいるの?」

紅はオレの視線の方向を追って、カナ達のテーブルの方を見て問いかける。オレは何も言わなかった。

「そうね、あの壁側の……話題の中心になってる子かしら」
「……特定して何になる」
「お前、最近しょっちゅう女と街を歩いてるって上忍連中で話題になってるぜ」

アスマの言葉にオレはため息をもらす。
まぁナルト達に一楽で会った位なのだから、誰かしらに目撃されているのは分かっていたが、噂されていると聞くと少なからず嫌な気持ちになるものだ。

「まぁ仕方ないさ。それよりやっぱりこれ、オレってバレバレ?」
「いや、一般人にはバレないだろ。紅が言うまでオレも分からなかったよ」
「女の勘よ」

紅はクスクス笑うと、注文のため店員を呼んだ。
どうやら同じ席に居座るらしい。話に集中したいのに、ともどかしい気持ちになる。

「ところで、あの子とは付き合ってるの?」
「そんなわけないだろ、監視対象だ」
「監視対象にピアスなんてプレゼントするかしら?」
「なんでそれを?!」
「女の子はそう言う話が好きなのよ」

おそらくサクラだろう。全く、どこまで言いふらしているんだか。これにはアスマも苦笑いだ。

「さしずめ心配で見に来ちゃったってところかしら」
「酔って何かあったらオレが三代目に怒られるだろ」
「素直になればいいのに」
「それにしてもあの隣の男、狙ってそうだな」

アスマがタバコに火をつけながら、訝しげに向こうのテーブルを見つめる。

「やたら距離が近いぞ」
「なにちゃんって言うの?」

紅もつられて向こうのテーブルを見たその時、「はいじゃあカナちゃんに質問ある人〜!」とバカでかい声でムードメーカー男が質問を募集し始めた。
八人のテーブルなんだからそんなデカい声を出さなくても聞こえるだろうと、またオレはどうでもいいことで苛立ちを覚える。

「……カナちゃんって言うのね」
「なんか合コンみたいなノリだなぁ」

確かに、あれでは職場の飲み会というより合コンだ。
こんなノリであのカナは平気なんだろうかと心配になるが、当の本人はすっかり酔っているらしく陽気に笑っている。
いつも家で申し訳なさそうにしたり、謙虚にオレにありがとうといつも感謝を示してくれるカナの姿とは全く違って見えた。
知らない彼女の姿を知ってしまい、なんとも言えない悲しみのような息の詰まる感情に呑み込まれそうになる。
今までこの世界では、誰よりもカナのことを知っているつもりでいたが、あんな楽しそうな顔をするなんて──
負の感情に抵抗するかのように、静かにオレはジョッキの中のビールを飲み干した。

目の前の騒がしい宴会は、22時を回る頃まで続いた。


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