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【ご注意ください】
※この回には、モブキャラとして職場の女性が登場しますが、「カカシの話されたくない過去をペラペラと勝手に話す」という噂好き・おしゃべり好きなキャラクターです。(名前変換設定追加してます)
読んでいて気分を害される可能性がございますので、十分にご注意ください。



「本日よりこちらでお世話になりますしののめカナと申します。一日でも早くお力になれますよう、頑張って参ります。どうぞよろしくお願いいたします!」

待ちに待った出勤初日。
カカシさんに火影様の所へ送ってもらい、直々に私の担当する業務を再度軽く説明してもらうと、建物内の事務室へ連れて行かれた。
配属先は計15名。男性が9名女性6名と男性の方が多い。同じくらいの歳の男性もちらほら見えた。女性は私よりも少し上か、年配の方が多いそうだ。
思わぬ転職だったが、向こうに帰れるまでは上手く馴染んで仕事ができると良いなと思った。
部署内でも様々な業務があるらしいが、私が配属される受付部門の業務についているのは責任者クラスの男性1名、私含め女性4名だそうだ。
ちなみに私はパート扱いだが、みんな優しい方ばかりなのか随分歓迎的なムードで、社員登用された人ばりの温度感だ。
縁故採用のようなものだから、少しだけ申し訳ない気持ちになる。

初日の挨拶が終わると、同じ部門の男性の方が実際仕事をする本部の入り口付近にある10坪ほどの小さな平屋へ案内してくれた。
依頼者が通る道に面した大きめの窓が二つあり、そのすぐ外には筆記用具の入ったペン立てやバインダーに挟まれた白紙の入館記録書が用意されたカウンターが備え付けられている。
一般依頼者などはここで入館の受付をして、火影様やその他の忍びが待つ依頼受付へ向かうらしい。
私は入館記録書の記載のお願いをしたり、入館証の管理をまずはすることとなった。
他にも館内の整備や備品管理などいろいろ業務はあるそうだが、しばらくはこの業務をお願いしますとのことだった。
同じポジションには、母親くらいの年齢の女性のヤマタさんという方がおり、二つの窓口にそれぞれ並んで対応するらしい。
チャキチャキとした、親しみやすそうな方で少し安心した。


実際に業務についてみるとこれがなかなか面白い。
頻繁に依頼に来ている方からすると珍しいのか、新入りの見たことのない若い女性というだけで、親しげに声をかけてもらえる。
特に前の世界でいう、部長課長あたりの年齢の男性は私を見るなり、「あれ?!知らない子がいる」から始まって、「看板娘が二人になったね」なんてヤマタさんも巻き込んで楽しく世間話に花を咲かせた。
世間話なんてカカシさん以外の人としばらくしていなかったため、なんだか前の世界でよくダジャレを言っていた上司が懐かしく思えた。

「ほら、あんまりしつこいとおじさん達嫌がられるよ!」
「はいはい、じゃあまたね、カナちゃん」

ヤマタさんは見た目通りのチャキチャキとしたおばちゃんだった。
娘さんが同い年らしく、どうやら親近感をいだいてくれているようだった。

「本当、受け答えもしっかりしてて、おじさん達のあしらい方も上手いし……うちの娘ももう少ししっかりしてたらよかったんだけど、」
「いえいえ、そんな、」
「今一人暮らししてるの?」
「いえ、知り合いの方の家に居候させてもらってまして」
「あら、そうなの。ご実家は遠いの?」
「はい、かなり遠方です……」

彼女はおしゃべり好きなのか、人が来ない時間はあまりすることがないのでひたすら話しかけてくれる。
かなり踏み込んだことまで聞かれるので、少々答えづらいこともあるが、なんとなく誤魔化してやり過ごした。

そうやって順調に業務につき始めて1時間くらい経つと、ヤマタさんがお手洗いへ席を外した。
すると、見覚えのある顔がカウンターの陰からひょっこりのぞく。

「ナルトくん!」

ナルトくんだった。どこからここを見つけたのか、まだ位置関係を把握できていない私にはわからなかったが、入館者が来る方とは反対の方から来たようだ。

「へへへ、本当に働いてるか見にきちった!」

無邪気に笑う姿がとっても可愛らしいな、とつい頬が緩む。
人懐っこい子なのだろうか。カカシさんにもすごく懐いているようだったし、私も仲良くなれたらいいなとは思っていたから、見に来てくれたことが嬉しかった。
私は奥で働いている職員にバレないよう、小声で彼に話しかける。

「見に来てくれてありがとう。今日は任務はどうしたの?」
「まだ集合時間までちょっと時間あるから、大丈夫だってばよ!それにカカシ先生ってば、まだ来てねーし」
「そっか、」

カカシさんは任務があるからと言って私と一緒に来たはずだが、どこかへ寄っているのだろうか。
そういえば、朝早くどこかへ出て行くのを見たことがある。しかもかなり頻繁にだ。
一度聞いたらお墓参りと言っていたが、もしかして今日も行っているのかもしれない。ご両親のお墓だろうか。

「そうだ、会いにきてくれたお礼に。はい!」

私は足元のカバンに忍ばせていたお菓子を取り出して彼に手渡す。
すると、ナルトくんの目はキラキラと輝いて、嬉しそうに受け取ってくれた。

「ラッキー!カナちゃんサンキュ!」
「どういたしまして」

彼はいそいそとお菓子をポケットにしまう。
それから、突然何故だかじっと私の顔の辺りを見つめだした。
不思議に思って、「どうしたの?」と尋ねると、彼はニッと笑って「今日も先生から貰ったピアスつけてるなーと思ってさ!」と頭の後ろで腕組みをした。

「え?!」

彼は私の反応を見て悪戯っぽく笑うと、「カナちゃんに似合ってるし、カカシ先生にしてはセンスいいよなー」と冷やかすように口笛を吹いた。

「やっぱさ、女の人ってアクセサリーとか男から貰うのって嬉しいのかな?」

いきなりの質問に、私は一瞬どきっとする。
ナルトくんはラーメン屋でサクラちゃんの事を好きなような事を言っていたから、おそらくサクラちゃんの気を引きたくて、プレゼントをしたいと思ったのだろう。
さて、このかわいらしい質問に何と答えたらいいか。

「そうだなぁー……特別な人とか、お世話になってる人から貰ったら嬉しいかもね。あとは好きな人とか」

最初に好きな人と言ってしまうとカカシさんへの気持ちを勘ぐられてしまいそうだったので、出来るだけぼかすような言い回しで返す。
ナルトくんは、聞くなり少し俯くと「そっか……そうだよな」と何か考えている様子だった。
しばらくしてまた顔を上げて笑顔を見せると、「オレ、プレゼントとかあげたい子がいたんだけどさ、もうちょっと仲を深められてからにしてみる!」と気合の入った表情でそう宣言した。

「応援してるよ!うまく行くといいね」
「ありがとだってばよ!」

ニシシ、と笑うや否や、ナルトくんは私の後ろを見て急にハッとした顔をする。
何事かとチラッと私も振り返ると、事務所に入ってきたヤマタさんの姿が見えた。

「やべ、おばちゃん戻ってきた!カナちゃん、またね!」
「任務頑張ってね」

ナルトくんは瞬時にカウンターの陰に隠れると、元来た方へ駆け足で戻っていった。

私はヤマタさんにナルトくんが来ていた事を悟られないよう、ボーッと窓の外を眺めているふりをする。
しかし、去り際に彼のオレンジのつなぎが見えていたらしく、席に戻るなり「あの子と知り合いなの?」と話しかけられてしまった。

「……業務中にすみません。あの子の上司のカカシさんと知り合いでして」
「いいのよ別に。それより、カカシさんってあのはたけさんちの子よね?」
「そうですが……ご存知なんですか?」
「とっても有名人よ。あなた知り合いなのに知らないの?」
「すみません、あまり個人的なことは何も知らなくて……」

どうやら、ヤマタさんのお子さん達世代の忍を目指す人達にとって、カカシさんは有名人らしかった。なんでも、カカシさんのお父さんやカカシさんの師匠がもの凄い強い忍者だったらしく、弟子のカカシさんも子供の頃から天才と称されていたそうな。どうりで火影様からの信頼が厚いわけだ。

「ここだけの話なんだけどね、私の友達の息子さんが忍者をやっていてね。友達から色々息子世代の忍の話を聞いたんだけど、カカシさんは両親を子供の頃に亡くされた上に、一緒に組んでいた女の子と男の子も戦争で亡くしちゃったらしくてね」
「そうなんですか……」

そんな事を聞いてしまってよかったのかと、罪悪感に苛まれながらも、カカシさんはやはり苦労の人だったのかと切なくなる。両親も失い、友も失い、きっと想像を絶するほどの深い悲しみだっただろう。
他人の口からこんな話をしてしまっていいのだろうかと疑問に思い、私は押し黙ってそれ以上は話を広げることはしなかった。


それからは淡々と受付業務をこなすと、12時から昼休憩を貰った。
時間はきっちり1時間で、天気もいいので外の木蔭になっているベンチで持ってきたお弁当を食べることにした。お弁当といっても、おにぎりと昨日の夜の残り物だが。
昨日はたまたま早く帰ってきたカカシさんが、鶏肉のソテーとほうれん草とキノコのバター醤油炒めを作ってくれていたのでそれを持ってきた。
やっぱりカカシさんの味付けは何を食べても美味しいなぁと、キラキラと揺れる木漏れ日の中でしみじみと味わう。

私は、やっぱりカカシさんの事を好きになってしまっているようだった。
「いるようだ」と言うのは、そうであって欲しくなかった想いを込めてのことだ。
相変わらず厚意を好意と捉えないようには自制していたが、こんな女心をくすぐるプレゼントを渡されてはハートを射抜かれないわけがない。
先日もついついはしゃぎ過ぎてしまって、その後にもの凄い自己嫌悪に襲われてしまった。

カカシさんとの出会いがこの世界での出会いでなければ私にもチャンスがあったんじゃないかなぁと、ぼんやり遠くを見つめる。
まぁ現実問題、あんな素敵な人に出会うことなんてのもかなり確率的には低いが。
とりあえず私は、好きになってしまったのは仕方がないと受け止めて、自分で自分を諦めさせることを目標にしようと思った。
何せ私は元の世界へ帰る身。それに私が勝手に彼に片想いを初めてしまっただけで、きっとカカシさんは私のことなんてかわいそうな女の子くらいにしか思っていないだろう。彼の人柄が優しいからつい勘違いしてしまいそうになるが、カカシさんは私に恋愛感情などいだくはずがない。
思わせぶりな男、と言うと悪口のようになってしまうが、多分彼は変な意図もなく気のあるように他人に勘違いさせてしまったり、惚れさせてしまう人なのだろうと自分で自分を押さえ込んだ。
最初から報われないと分かっている恋をするなんて不毛だ。
それならば、最初からなんとしてでも諦める方が波風立たず、怪我もせず、うまく収まるのだ。


そんなとりとめもない考え事をしながら食事をしていると、びゅうといきなり強い風が吹いた。座っている隣に置いておいたお弁当の包みがひらりと舞い上がって、右斜めへ飛んでいく。
もう、最悪だ!と食べていたおにぎりを全部口の中に詰め込んで、包みを拾いにいくと、どこからか派手な格好の人がやってきて、私の包みを拾ってくれていた。
この派手な格好は忘れもしないあの人だ──私にはすぐにその人物が誰なのか分かった。

「自来也さん!」
「ん?嬢ちゃんどこかで会った顔じゃのォ?」

口の中のおにぎりがまだ少し残っていたため、ゴクリと飲み込み、手で口元を隠しながら声をあげた。
自来也さんは顎先を人差し指と親指で挟んで少しだけ考えるポーズをとると、「書店の嬢ちゃんか!」と目と口を大きく開いて驚いた。

「なに、ここで働いとったのか」
「今日から知り合いの方のつてで働いてまして」
「そりゃ凄い偶然だのォ、ワシもここに随分久しぶりにきたんじゃ。して、知り合いの名前は?」
「はたけカカシさんという方です」
「おーおー!カカシのこれじゃったか!あいつもこんな嬢ちゃんを選ぶとは、意外と初い奴よのォ」
「いや、カカシさんとはそういう関係では……」

私が否定をするも、ニヤニヤしながら小指を立てるジェスチャーをする自来也さんは全く聞いていないようで、拾ってくれた包みについた砂を手で払うと、「ほれ」と満面の笑みで手渡してくれた。
その様子に私は訂正するのを諦め、お礼を言って大人しく受け取る。
何故知り合いなのかも聞きたかったが、そんなことを聞いてくれそうな雰囲気もなかったのでこれまた諦めることにした。

「そういえば、本は読んでくれたかの?」

不意に自来也さんがモジモジしながら私に小さい声で尋ねる。
そういえばあれから読んでいなかったなぁと思い出すが、目の前の期待に目を輝かせた彼にそんなことを言えるわけもなく。
「官能的で言葉では言い表せないほど凄かったです」と当たり障りのないように答えておいた。

「じゃろじゃろ!言葉に言い表せないほどの壮大なロマンを感じたじゃろ?」
「えぇ、」

誤魔化し方として正解だったのか、自来也さんはものすごく喜んでくれて、私はホッと胸を撫で下ろす。
帰ったらもう少しあの本を読んでみようと思った。

「よーし!嬢ちゃん、名前はなんと言ったかの?」
「しののめカナです」
「相分かった!カナよ、これをカカシにプレゼントするとよいぞ!」

そう言うと自来也さんは、懐から一冊の本を取り出し、私に差し出した。
その本の表紙には、『特装版!イチャイチャパラダイスの秘密』と大きく書かれていた。

「これから発売される予定の新刊なんじゃが、サンプルを貰ろうてな。まだどこに行っても手に入らない代物じゃ!サインも入れておいた。きっと喜ぶぞ〜」
「ありがとうございます!」

私は持っていた包みを服のポケットに押し込むと、賞状を受け取る時のように両手で大切に受け取り、深くお辞儀をした。
確かに、カカシさんはイチャイチャパラダイスが好きだとナルトくんが言っていたっけ。
あんなに真面目そうなのに、こういうのを本当に読むのかなぁと不思議に思っていたが、どうもファンなのは確実なようだ。
これを渡したら、きっともの凄く喜んでくれるだろうなと彼の喜ぶ姿を想像して、思わず笑みが溢れた。

「おっと、急がねばならん。カナ、約束の忍術は教えられんかったが、カカシと頑張っての!」

自来也さんは慌ただしくそう言って、胸の前で何かのポーズをとると、ボン!という音と煙と共に一瞬にして消え去ってしまった。
あまりの早技に、私はその場に立ち尽くす。
本当に自来也さんが忍術を使えたのかと驚くと同時に、漫画や映画の世界に出てくる忍者そのものの技を日常生活の中で目の当たりにして、まるで夢でも見ているんじゃないかと錯覚した。

私は本を手にベンチへ戻る。
周囲に人がいないかを確認し、中を開いてパラパラと捲ると、やはり官能的な表現が所々目につき、恥ずかしくなってすぐに本を閉じた。
カカシさんに渡すまでは絶対に職場の人に見つからないようにしないと、とお弁当を入れてきたミニバックの一番奥へ大切に仕舞い込んだ。


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