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「このやかましいのがナルト、見たことあると思うけどこの子がサクラ。で、奥のすかしてるのがサスケだ」
「やかましいってどう言うことだってばよ!」
「そう言うところだろ」
「んだとサスケ!テメェはすかしてんじゃねぇってばよ!」

ひっそりと心の中で喜びを噛み締めていたのに、随分と賑やかになってしまったものだ。
一楽のカウンターでは、カナ、オレ、ナルト、サクラ、サスケの順に並んでいる。
カナは優しい表情で、騒ぎ立てる子供達に「はじめまして、カナです」と丁寧に挨拶をした。つられて子供達も礼儀正しく頭を下げる。
オレは間に挟まれながら、我関せずでラーメンを食べ続けた。明らかに面倒な事になるのが目に見えているから、さっさと食べ終えてしまおうと必死なのだ。
特にナルト。オレとカナを交互に見てソワソワしている。何か余計な事を言わないといいが。

「あのさあのさ!先生達、デート?!」

……思ったそばから余計なことを言いやがる。
サクラからの前情報があるからか、修行の時に話していた知人というのが、この目の前のカナだということをどうやら三人ともきちんと認識しているらしい。
本当、こういう所だけはイヤに勘がいいと呆れてしまう。

「バカ、違うよ。火影様のところへ行ってきたんだ。で、その帰りに買い物」
「三代目のじーちゃんのとこに?」
「明後日から、本部の入館受付で働かせて頂くことになったんです」

「んー」とナルトが曖昧な返事をする。話がつながっていないようだがまぁいい。
そうこうしているうちに、ナルト達のラーメンが揃ってカウンターに並べられた。
オレは自分のラーメンの残り具合を確認する。あと半分くらいだ。
カナのを見ると、まだまだ丼の中にたくさん麺が残っている。しかし、彼女を急かすわけにもいかない。これは長期戦になってしまいそうだ。

カナとオレの関係に興味津々なサクラは、「カナさんも忍者なんですか?」と麺を箸で持ち上げ、冷ましながら尋ねる。

「いえ、私は全くの一般人で」
「それなのになんでじーちゃんに呼ばれるんだってばよ?」
「もしかして親族とかですか?」
「カカシが言ってた任務絡みってことか?」

部下三人は質問を口々に唱える。
丁寧に説明していたら、話してはいけない事まで話さなければならなくなりそうなので、オレはすぐにピシャリと突き返した。

「この前言ったように、これは極秘任務のうちだ。お前らにここでは話せないの」
「あー!また極秘任務とかいって先生ずりィってばよ!」
「あーもーうるさい、静かに食え!」

やり取りを見て、カナは口を手で抑えてクスクス笑う。「かわいい部下達ですね」と、まるで母親が子供を見るかのような目をしていた。
ナルトはそんな彼女をじいっと見ると、ばつが悪そうな顔をして静かになる。
年上のお姉さんにかわいい子供扱いをされて恥ずかしくなったのだろう。このくらいの年の男の子は特に年上の女性を意識しやすい。
急に大人しくなってラーメンに箸をつけた。

「ところでカナさんと先生ってどこで知り合ったんですか?」

今度はサクラが話題をぶっ込む。
朝起きたら隣に寝てました、なんてストレートに言えるわけがない。青少年の教育に相応しくない事実があったと勘違いされてしまうだろう。それだけは避けたい。
色々言い方を考えてみたが、珍しくうまい嘘も見つからず、オレは「まぁいろいろだ」と濁すことにした。

「つまりは、言えないとこで出会ったってことか」
「サスケ、それは誤解だ。先生がそんなとこ行くわけないだろ」
「でも先生ってば、イチャイチャパラダイスなんて読んでるむっつりスケベだしなー」
「変な冗談はよしなさい」

再び調子に乗り出したナルトに一発ゲンコツをお見舞いすると、「ギャッ」と言って頭を抱えて恨めしそうにオレを見る。
イチャイチャパラダイスを読んでいるのは事実だが、断じてむっつりではない。断じてだ。
カナに今更警戒されたらどうしてくれよう。オレの今まで積み上げてきた信頼が崩れては困る。
恐る恐る左側のカナの様子を伺うと、カナは苦笑いをしてオレたちを見ていた。

「フン!カカシ先生ってば、かっこつけちゃってさー」
「普段はどんな先生なんですか?」

ふてくされるナルトに、カナが訊ねる。
あーあー、話を広げなくていいのに、とオレはまた無言で残りのラーメンを一気に啜った。

「んーと、むっつりスケベでしょー。そんでそんでー」
「やる気のない脱力系」
「遅刻魔、だな」
「……おい」

部下三人は息ぴったりにオレの悪口を言う。
最初のは断固として否定するが、あと二つに関しては事実といえば事実であるし、流石にコレにはツッコむ言葉も見つからず顔を歪める。カナはクスクスと楽しそうに笑っていた。

「全然そんな風に見えないですけどね」
「冗談だから信じないでね、ホント」
「嘘じゃないのにー!昨日だって……」

すぐに茶々を入れるナルトに、「もう一回ゲンコツくらいたい?」という強い念を込めて満面の笑みを向けると、ヤツは開きかけた口をすぐに真一文字に結んだ。コレでよし。

さて、オレはラーメンを食べ終わったがカナはどうだろうかとまた左を見やると、あと少しのところまで来ている。
オレはさりげなく食べ終わったアピールをするために、お冷やのコップを空にした。
しかし──

「ところでそのピアス、先生からのプレゼントなんですか?」
「え?!」

まただ。またもやサクラが直撃してくる。
「もうラーメン伸びちゃうから早く食べなさいよ」と喉から出かかるが、カナの反応にその言葉をゴクリと飲み込んだ。
カナはラーメンを箸で持ち上げ、顔を真っ赤にしたまま固まっていた。

「前見かけた時はつけてなかったから」
「……ほー、あんな一瞬でよく見てたな」
「そりゃ女の子ですから!」
「うひょー!先生、プレゼントなんてかっこいー!」

ナルトはなぜか一人で興奮し始める。
カナは大丈夫かなと気にすると、恥ずかしそうにラーメンを黙々と食べていた。わかりやすい子だなぁ、と思わず口元に笑みがこぼれる。
オレは一応彼女へのフォローとして、「カナの就職祝いに買ったの。それと、そうやって大人をからかうんじゃありません」と付け加えておいた。
しかしナルトもサクラもそんなのは聞いちゃいなくて、「オレも大人になったらサクラちゃんに……」「いいなー、私も大人になったらサスケくんに婚約指輪を……」なんて、勝手に自分の世界に浸っていた。

「お前ら、なにぶっとんだ妄想してんだ……」

呆れるサスケに、コイツも大変だろうなぁと同情していると、隣でカナが「ごちそうさま」と手を合わせた。ようやくこの場から出られる。

「さ、カナ、食べ終わってすぐだけど、長居すると他の客に迷惑になるからいこうか」
「あ、はい!」

オレはすぐにラーメンの丼を厨房側の一段高いカウンターにあげる。
それから「ごちそうさまです」と言ってテウチさんに伝票と代金ぴったりのお金を手渡し、そそくさと暖簾の外へ出た。

「あ!カカシ先生逃げたな!」
「じゃーな〜」
「ごめんなさい、後で私の分きちんとお渡しします」
「別にいらないって」
「いつも私たちには奢ってくれないのにー」
「フン、そんなもんだろ」

カナも「美味しかったです!ごちそうさまでした!」丼を返し、買い物の荷物を抱えてでてくる。
そして暖簾越しに腰をかがめ、「皆さん修行頑張ってくださいね」と丁寧に三人へ会釈していた。
子供にもブレずに律儀だなぁと感心してしまう。
ナルト達は「またねー!」とカナに大きく手を振っていた。


一楽から少し離れると、オレは彼女の抱えていた荷物を横からひょいと取って持ってやる。
「重くないので大丈夫ですよ」とカナは慌てるが、「いいって」とオレは荷物を渡さない。

「すみ……ありがとうございます、」
「あ、いますみませんって言おうとしたでしょ」
「そ、そんなことありませんよ!」

お互い顔を見合わせて笑う。
平和で幸せな空気が流れる。
こんな穏やかな時間が、この先もずっと続いてくれればいいのにと密かに心の片隅で思った。

「悪かったな、落ち着いて食えなかっただろ」
「いえ、そんな。話に聞いていたより可愛らしくていい子達ですね。それに、カカシさんにすごく懐いてるじゃないですか」
「可愛いけど、やんちゃ盛りの悪ガキだよ」
「そこがいいんじゃないですか」

意外なことを言う。
真面目なだけに、やんちゃな子供は苦手かと思ったが、随分とナルト達のことを気に入ったらしい。
それから、「カカシさんはきっと、凄くいい先生なんでしょうね」なんてオレを真っ直ぐな目で見て嬉しいことを言ってくれる。

「聞いてたでしょ。オレなんて、ただのだらしない先生だよ」

照れくさくて、伏し目がちにそう返すので精一杯だった。


家に帰ると、一休みしようとキッチンに立ってコーヒーを淹れた。慌ただしく一楽を出てきたので、少し食休みがしたい。
もちろん彼女の分も用意し、廊下に出て「コーヒー淹れたけど」と声をかけようとした。かけようとして、やめた。
カナが洗面台の鏡越しにピアスを眺めているのを見つけたからだ。
顔をくるくると鏡の前で動かして、いろんな角度から見ては嬉しそうにはにかんでいる。
オレはそんな微笑ましい彼女をしばらく見て満足すると、ようやく「コーヒー淹れたよ」と声をかけた。
カナは恥ずかしいところを見られた、といった様子で慌てて返事をすると洗面台の電気を消し、パタパタとオレの方へ駆け寄ってきた。

「いつから見てたんですか……」
「んー、三分くらい前かな」
「コーヒー冷めちゃうじゃないですかー!」

顔を赤らめて言う彼女は、なんとも可愛いらしくて抱きしめてしまいたくなる。
勿論、小心者のオレにはそんなことはできっこないが。
二人でダイニングに戻ると、揃ってテーブルにつく。オレは本を片手に、カナは三代目から貰ってきた書類を後から持ってきて、テーブルに広げながらコーヒーを静かに飲んだ。

「あの、」

本を10ページほど読み進めた頃、カナが突然口を開いた。

「本当に素敵なものをありがとうございます」

書類で半分顔を隠しながら、カナがペコリと頭を下げる。「気に入ってくれたみたいでよかったよ」と返すが、なぜ彼女が顔を隠すのかはよくわからない。
何気なく「なんで顔隠してるの?」と問いかけると、彼女の顔がポッと赤くなった。

「いや、あの……嬉しすぎて変な顔になっちゃって、恥ずかしくて……」
「なにそれ、かわいい」

カナは、紙で顔を半分以上覆っているが、それでもわかるくらいに額のあたりが赤く染まっている。
もしカナと恋人関係だったら、ここでオレは彼女を間違いなく抱きしめに行っていただろう。
けれども、ここは適切な関係性を保つために、もどかしさを感じつつ微笑むだけに留めた。

彼女を喜ばすことができて良かった、そう思うと同時に、また昨晩と同じえも言われぬ感情が胸に押し寄せる。
彼女を好きだとしても、決して彼女の未来にオレが存在することはできない──報われもしない自分の感情に踊らされているように思えて、随分と自分が寂しく、惨めに感じられた。

「向こうに帰っても、たまーに使ってくれたら嬉しいかな」

そんな強がりを言うと、カナは「大切に身に付けます!」とニッコリ笑った。
「向こうに帰っても」なんて、言いたくない言葉だったのになぁと思いながら、オレも無理矢理笑顔を作り続ける。

カナはオレのこと、どういう風に見てるのかな──書類の記載を終えて、機嫌が良さそうに部屋に入って行く彼女の後ろ姿を見ながらとりとめもなく考える。
異世界での救世主様か、ただのお人好しか、それとも気前のいいお兄さんか。ま、自分でお兄さんと言うには違和感があるか。
それでも、サクラの『先生からのプレゼントなんですか』という問いかけに、あんなに顔を真っ赤にしていたんだから嫌われているわけではないだろう。何も意識していないなら、カナの性格からして普通に答えるはずだ。

「……なんて、都合よく考えすぎか」

ポツリと呟いて、マグカップに口をつける。
カナのいる客間からは、聞いたことのないメロディの鼻歌が聞こえていた。


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