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- ナノ -
カカシさんが任務に出てから六日が経った。
今日も雨がしとしと降っている。
あれから毎日天気が悪く、部屋干しのせいでジメッとした室内ですることもなく私は腐っていた。
料理を作って食べても味気なく、美味しくない。そもそも自分で作ったものは大抵人に作ってもらうよりも美味しくないと感じるものだ。
一回作れば、食べきるまで同じものを食べ続けなければならないのも嫌だった。もちろん、贅沢な悩みだとはわかっている。
カカシさんはいつ帰ってくるのか、もしや任務先であっけなく死んでしまっているのではないか不安になって、昨日外にいたお面をつけた見張りの方を探して尋ねてみたが、おそらく任務が長引いているだろうとのことだった。
雨の中の見張りは大変だろうなぁ、と申し訳ない気持ちになった。

だいぶ食料も減ってきたことだし、カカシさんがいつ帰ってきてもいいように、私は身支度をして買い物に出かけた。
風がなく小雨なので、傘だけさしていれば濡れることはない。
先日、この赤い和傘を買った。裾のところにレトロな椿がぐるっと描かれている可愛らしい傘だ。
こちらの世界では、傘といえば和傘らしく、雨の日にカカシさんの傘を勝手に借りて自分の傘を買いに一人でお店へ行ったら、まるで城下町にあるお土産屋さんのようなラインナップに心が躍ってしまった。
買ってから毎日雨なので、大活躍だ。
お気に入りの傘を右手に鼻歌を歌いながら街を歩き、もしカカシさんが帰ってくる時は、私が夕飯を作ってみようかなと考えながら食料品店へ向かった。


たくさん買い込んで帰ってくる頃には、雨は上がっていた。
もっと後から買い物に行けば良かったなぁと、冷蔵庫にものを詰めていると、ベランダからコンコンと物音がした。
なんだろうと思って見に行くと、夕顔さんが立っている。
久しぶりにお会いできたことが嬉しくて、冷蔵庫へものを詰めるのも途中にベランダへ駆け寄り窓を開けた。

「お久しぶりです!お元気でしたか?」
「おかげさまで。カナさんもお元気そうで何よりです」

ふふふ、とお互い微笑み合うと、夕顔さんは「お知らせが、」と一言。

「先輩が任務から帰ってきました。今さっき火影様の元に戻られたみたいでして、一時間後にはこちらに帰ってくると思います」

昨日の者から随分心配されてると聞いたので、と夕顔さんは言うと、キッチンの方へ視線をやった。

「先輩に手料理でも作るんですか?」
「え?!あ、いや……まぁ、」
「喜ぶと思いますよ!頑張ってくださいね」

考えていることを見抜かれてしまい、急に恥ずかしくなった私は、全身がカッと火照り始める。首の裏から耳にかけてが異様に暑い。
そんな様子を見てか、夕顔さんはまたクスクスと笑っていた。

「先輩、彼女いないですからチャンスですよ!」

悪戯っぽく彼女は言う。
私はその言葉にたじろいでしまって、「そんなつもりじゃ……!」と両手を振って否定した。

「でも、私が作って怪しまれないでしょうか……忍者の方とかって、毒とか気にされません?」
「気にするようなら最初から家には住まわせないと思いますけど、もし気になるなら立ち会いましょうか?」
「お願いしてもよろしいでしょうか……」

もちろん、と夕顔さんは頷くと、玄関の方へ向かって飛び去っていった。
私も窓を閉めてから、急いで玄関へ向かい、鍵を開け彼女を迎え入れた。
一瞬で移動ができるなんて、と思わず感心してしまった。


今晩の献立は、旬の魚のアジのなめろうと、アジの蒲焼、ナスのお味噌汁、ほうれん草とにんじんの白あえだ。
なめろうだけでは寂しいかなと思い、蒲焼も作ってみた。
どれもそこまで複雑な調理方法ではないから、そんなに料理が得意でない私でもなんとか作れる域だ。
ナスのお味噌汁は、なんとなく初日にいただいた味が忘れられなくて作ってみたが、カカシさんのとはどこか違った。
なめろうと白あえが出来上がり、蒲焼に取り掛かろうというその時、玄関からガチャリと鍵が開く音がした。カカシさんだ。

「はー、疲れた……」

料理する手を止め、洗ってから玄関へ出向くと、ヘトヘトな顔をしたカカシさんが靴を脱いでいた。

「お疲れさまです!おかえりなさい!」

私は帰ってきてくれたことが嬉しくてしょうがなくて、顔が思わず緩むのがわかった。
カカシさんは一瞬驚いたように目を丸くしていたが、すぐに「ただいま」と微笑み返してくれた。それから、背負っていた荷物をドサっと床に置き、家の中へ上がる。

「なんかいい匂いがするねぇ」
「もし食欲があればなんですが、お夕飯いかがですか?」
「あるある、もうお腹空き過ぎてるくらい」
「よかったです、そろそろ出来上がりますので。ゆっくりされててください」

私は先にキッチンに戻ると、再び調理に取り掛かる。
カカシさんはしばらくすると、こちらへやってきて、ぐるりと部屋の中を見渡し夕顔さんの存在に気付いた。

「あれ、夕顔じゃない。どうしたの」
「カナさんの調理過程の監視役です」
「え、まだそこまで疑ってるの?」

カカシさんが半笑いで言うと、夕顔さんは「ほら、言ったじゃないですか」と言いたげな表情で私を見る。

「私がお願いしたんです」
「カナに毒を盛られるなんて思いもしないよ」

危機意識を見習わないとな、と冗談ぽく言うと、彼はテーブルの上を眺めたあと、蒲焼きを焼き始めた私の後方へやってくる。

「こりゃうまそうだね」
「お風呂も沸いてますので」
「おー、なかなか気が効くじゃないの。じゃ、ひとっ風呂浴びてからだな!」

嬉しそうな表情になると、彼はくるりと向きを変えて風呂場へいそいそと消えていった。
出てくるまで料理が冷めないよう、少しだけ焼き時間が長くなるよう火加減を調整する。
「夕顔さんも良かったらいかがですか?」と訊ねてみるが、気を遣ってくれているのか「お二人で過ごされてください」とニッコリすると、私はこれで、と玄関から外へ出て行ってしまった。
私は一人で勝手に気まずくなる。


「じゃあ、いっただっきまーす」

カカシさんは20分もしないうちにお風呂から出てきた。
暑くて髪を乾かし切る気がしないといって、少しだけ風を当ててタオルドライで出てきたため、まだ毛先が濡れていて色っぽい。もちろん額当てはしていない。
それに、今日もいつものあのタンクトップ姿だ。
久しぶりにみる彼は、一層素敵に見える。
一口私の料理を食べると、優しい表情で「とってもおいしいよ」と言ってくれた。

「カカシさんはお魚が好きかと思って、旬のアジにしました」
「オレ、サンマとかアジとか青魚好きだから嬉しいよ」
「喜んでもらえてよかったです」
「それにナスの味噌汁も大好物なんだよ。最高だね」

心から喜んでもらえているようで、私もとっても嬉しくなる。やっと、少しだけカカシさんに恩返しできたような、不安に思っていた心が満たされるような感覚に浸った。
私も少しずつ箸をすすめる。
しばらくお互い食べることに集中して少しの沈黙が流れたが、不意に「いやぁ、ほんと、任務で疲れた後に労ってもらえるってのはいいもんだな……」とカカシさんがしみじみと口を開いた。
突然のことで少々驚いたが、不思議と「私で良ければいつでも労います!」と口をついて出た。その時の私は、顔いっぱいの笑顔だったと思う。

「ありがとう。ほんと、カナがうちに来てくれてよかったよ」

その言葉に、胸の奥がジーンと響く。
なんて返事をしたらいいのか分からなくて、私はただただはにかむことしか出来なかった。

「そうだ、今日の帰りに火影様から明日カナと一緒に来いと呼ばれたんだ。オレはそれが終わったら買い物に行くつもりなんだが一緒にどうだ?」
「いきます!」

火影様からの呼び出し──なんだろう、私の帰り方が見つかったのだろうか。カカシさんも内容は知らないと言う。
暗い話じゃないといいな、とぼんやり考えながら夕食を取り終えた。


食後、食器を洗い終え、最後の仕上げにテーブルを拭こうと振り返ると、コーヒーを飲んでいたはずのカカシさんが机に突っ伏していた。
倒れているかと思って駆け寄ると、背中が大きく上下している。
どうやらお腹がいっぱいになって寝てしまったようだ。
顔の下で両手を重ねて枕のようにしていて、右側から少しだけ寝顔が見える。
こんな子供みたいなところもあるんだなぁ、としばらく近くでその様子を眺めると、風呂場から厚手で大きめの綺麗なバスタオルを持ってきて、寒くならないようにそっと彼の肩にかけた。
もう少しだけこの綺麗な寝顔を見ていたいなとちょっと離れたところにしゃがむと、足が痺れるまでそうしていた。
満足すると、私が座っていた側のテーブルだけサッと水拭きをして、ダイニングの電気を消して静かに退出した。


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