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「#お仕置き」のBL小説を読む
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「しばらく会えません」の置き手紙をカカシの部屋に置いてきたのは先週のことだった。
右下の奥歯がズキズキと痛んで我慢ができず、歯医者に駆け込んだら、「親知らずが生えているので抜きましょう」という人生の中で十本の指に入るくらい嫌な台詞を聞かされてしまった。
しかもかなり状態が悪いらしく、早く抜くよう急かされ、そのまま流されるように翌週に抜歯の予約をしたのだった。

上ならともかく、下の親知らずは痛いよと聞いていたし、ものすごく腫れるだとか熱も出るかもしれないと医者に脅され、心がズタボロになる。
こんな時は優しい恋人に慰めてもらおうと抜歯を予約してしまった帰りにカカシの家に寄ると、なんと急な任務でしばらく不在になると書かれた置き手紙だけがポツリとテーブルに残されていた。
忍同士の私達にとって急に相手が不在になることは珍しいことではなかったが、さすがにこのタイミングはショックで、彼の置き手紙の余白部分に「しばらく会えません」とだけ書き記して帰宅した。
抜歯をするので、と理由を書き忘れたことに気づいたのはその日ベッドに入ってからのことで、一晩眠ったらそのことすらすっかり忘れてしまっていた。

そんなこんなで、あっという間に予約していた日になって、グロッキー状態の抜歯後三日目のこと。
案の定熱が出てしまい、任務をパスしてひたすらベッドで横になっていたら、夕方頃やかましく玄関のチャイムが鳴った。
こんな時に誰だと思って、よろよろベッドから起き上がって玄関の覗き穴から訪問者を確認すると、カカシが立っている。
こんな腫れた顔を見せたくないと、居留守を決め込もうとした瞬間、カカシが写輪眼を使って扉を挟んだ私のチャクラを感知してしまった。

「カナ!」

私の名前を呼ぶ声がして、扉の鍵がガチャリと開く。
カカシは合鍵を持ってきたらしい。しかし、扉にはチェーンをかけていたため、ガシャン!とすごい音を立てて扉が止まる。同時に大きな音が顎に響き、思わず右頬を押さえてしまった。

「カナ、頼むから開けてくれない?」

カカシは隙間からこちらを覗いて、機嫌を伺うように声をかける。

「手紙見たんだけど……もしかして、急に任務に出たから怒ってる……?」

そんなことはないのだが、否定しようにも口が痛くて喋りたくもない。しかし、この顔を彼には見せたくない。
どうしようかと考えたが、ふらふらの身体でなんとか分身を作り、代わりに話をさせることにした。

「ごめんカカシ、抜歯して顔腫れちゃって。ひどいから会えないってことだったの」
「なんだ、怒ってるわけじゃなかったのね」
「そんなので怒らないよ、仕事だもん」
「よかった。じゃあ開けてくれるかな」
「やだよ、顔腫れてるもん。今も分身が喋ってるし」
「腫れてるくらいいいじゃない。それよりちゃんとご飯食べてる?」
「痛くてゼリーしか食べてない……」
「そんなんじゃ治んないよ。ほら、オレが食べやすいもの作ってあげるからあけてよ」

カカシはいつだって優しい。いつだって、私を子供のように甘やかしてくれる。
彼が一度扉を閉めると、私は仕方なくチェーンロックを外した。そして、分身を解くと、右頬を掌で隠しながらゆっくりと玄関の扉を開く。
向こうには、いつもの優しい顔をしたカカシが立っていた。任務終わりで荷物だけ家に置いてすっ飛んできたのか、額当てはしているのに、家で寛ぐ時の服装をしている。ちなみに足元は、ゴミ出しする時にしかほとんど履いていないつっかけサンダルだ。
声のトーンこそいつもと変わらない様子だったが、全身チグハグで、いかに焦ってここまで来てくれたのかがよくわかる。
私はそれが嬉しくて、くすぐったいような気持ちになった。

カカシはそのまま玄関へ入り、靴を脱いで一緒に部屋の中へ上がると、そっと私の右手を頬から外すように彼の左手を重ねる。

「あーあー、右だけ輪郭が真四角になってるじゃない」
「……だから嫌だって言ったのに」
「ふふ、これはこれでかわいいよ」

重ねられた手は、キュッと握られそのまま下される。久しぶりの彼の温もりに、心なしか照れ臭くなった。
二人きりになると、頻繁にスキンシップをとってくれる彼のこんなところが私は大好きだ。
それから彼は、空いている方の手で子供をあやすかのように私の頭をそっと撫でてくれた。

「熱もあるみたいだね。辛いだろうからゆっくり横になってて。いますぐに栄養のあるもの作ってあげるから」

後頭部に手を添えたまま、カカシは私の額にそっと口をつける。ただでさえ熱を帯びている顔が、余計に熱くなった。

クラクラしながら彼から離れ、やっとの思いでベッドへ戻ると、私は大の字になって体を投げ出すように横になった。
しばらく瞼を閉じてうとうとしていると、キッキンから小気味良い包丁の音と愛しい人の鼻歌が聞こえる。
こんな顔になっても「かわいい」なんて言って進んで看病してくれる恋人がいるなんて、私はなんて幸せなのだろうと思った。
ものすごく痛い思いはしたが、こうやって大切にしてもらえるのなら抜歯も悪くないなと、すっかり次の抜歯のことを考えていた。

(やさしい恋人)

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