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「#エロ」のBL小説を読む
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※嫉妬譚 上編の続きになります。


「うわー、かわいい!」

メロメロにされたあのカフェを一度出てきたオレたちは、腹ごなしにウィンドウショッピングすることにした。カフェ巡りとは言ってみたものの、さすがに連続して入るのはお腹がきつい。
セールがやっているからと近くにあったファッションビルに入り、適当に中をうろつく。
カナはあれこれ洋服を見て、楽しそうにしているが、いざ買ってあげようか?と聞くと、見てるだけだから、と言って首をなかなか縦に振らない。
もっとねだってくれてもいいのになぁと少し物足りなさを覚える。

ちょこちょこ動き回るカナのそばでぼーっと立っていると、オレはある店が目に止まった。
店の前に立つマネキンが身に纏っている、淡い色合いのもこもこのパジャマ。あれは、ももやがインタビューで話していたパジャマ屋だ。

先程のカフェで、食べ終わったあと、少しカナに雑誌を見せてもらっていた。
店の名前もきちんと確認していたため、間違いない。
女性用のパジャマしかないようだが、男性用もあるのだろうか。ここからではわからない。

「カカシどうしたの?」

パジャマ屋に気を取られていたオレを見て、カナが呼びかける。視線の先を追って、パジャマ屋に気づくと、カナがクスクス笑った。
「え?」とオレはカナに視線を戻す。

「ははーん、カカシったら、あのパジャマ屋さんの店員さんセクシーだなって見てたでしょ」

なんのことやらと思って再びパジャマ屋を見ると、確かに女性の店員さんが着ているパジャマは随分と露出が多い。
胸元がV字にザックリ開いたキャミソールタイプのトップスに、パーカーを羽織っているのだが、キャミソールの紐がずれて肩が見えかけている。それにパジャマだから胸元がずいぶんゆるい。
確かにセクシーだが、そんなの言われるまで気づかなかった。

「そんな、パジャマ見てただけだよ」

弁解するが、カナは聞いちゃいない。

「私たちもパジャマ、見にいこっか!」

何を勘違いしたのか、カナはぐいぐいオレをパジャマ屋に引っ張っていく。
基本、このパジャマ屋は世の中の彼氏が彼女にプレゼントするのに来店することが多いと言われているため、オレたちが店内に入ると、早速店員が笑顔で寄ってきた。……目のやり場に困るな。
カナと言えば、エロガキみたいに興味深々で、オレよりも楽しそうに店員を眺めていた。もうやだ、なんなのこの子。
しかし、あの格好をカナがするのは悪くない。それに、パジャマ姿で外に出かけるわけでもないからオレだけがあの姿を楽しめる。
これはいいぞと、俺は自分好みのパジャマをセレクトして、カナを呼んだ。

「ねぇねぇカナ、これどう思う?」

するとカナは、かわいい!とニコニコして服を手に取った。

「カナに似合うと思うから買ってあげるよ」
「え、本当に?!でもちょっと……エッチじゃない?」

カナは声のボリュームを落としてそう言うと、恥ずかしそうにオレを見る。
確かにオレが選んだのは、店員が着ているようなざっくりとした胸元のキャミソールに、もこもこのショートパンツ、それからさらっとした緩めのロングカーディガンだ。
斜め後ろで店員がオレ達のやりとりを見ていたのか、「このキャミソール、男性からのプレゼントで買っていかれる方が多いですよ」とスッと前に出てくる。
なんだか、下心のある男にひとくくりにされたようで恥ずかしい。……まぁ、否定はできないが。
恥ずかしい思いをしでても、オレはカナにこれを着てもらいたいと思ったので、とりあえずサイズを確認して店員にレジでの取り置きをお願いした。
カナはあんなの恥ずかしいよ、とかわいく講義していたが、そんなのお構いなしである。

それはそうと、ももやの愛用しているようなパジャマはあるのだろうかと、店内をキョロキョロ見渡すと、店の端の方に男性物のコーナーがあった。
その中にももやの言っているようなもこもこのパジャマがあった。肌触りもいいし、パジャマなんてほとんど持っていないから買ってもいいかと無難なデザインのものを上下セットで手に取ると、レジへ向かった。
カナは別で店内を見ていたが、オレがレジで取り置きのパジャマと合わせて会計を始めた瞬間サッと寄ってきて「本当に買うの?!」と焦りだした。

「買うからレジにきたんでしょ」
「えっ、でもあのパジャマ……」

もごもごいっているうちに、ちゃっちゃと支払いを済ませ、購入品を受け取って店を出た。
観念したのか、耳まで真っ赤にして静かにオレの手を握る。

「さーて、お次は……」

もう一件カフェに、と言いたいところだが、せっかくこれを買ったのだから着ているところを見てみたいと思うのが男心である。
しかし、このまますぐ家に誘うのも、なんだかそういうことばっかり考えている男に思われてしまいそうで癪だ。
何か街中で誘うきっかけになるものを探さないと──

「あ!かわいい〜!」

横でカナが黄色い声をあげる。
声のした方を見ると、ペットショップのショーケースに小さな仔犬たちが眠っていた。
そうだ、これだ──

「カナは犬が好きなんだね」
「うん、猫よりも犬派かな!触りたいな〜!」
「実は、うちにも犬がいるんだよ」
「え?」

そうだったっけ?とカナが、ショーケースから視線をはがし、オレを見上げる。

「ま、来ればわかるよ。……ちょっとおじさん犬だけど、触らせてくれるし」
「本当?!」
「おいでよ」

カナは満面の笑みで頷いた。


こうやってうまく彼女を家に誘い出したオレは、家に着くなりパックンを口寄せして、かわいい犬を演じてもらうように口裏を合わせる。

「いや〜頼むよ、ほんとに」
「女口説くのに拙者を使うな!全く……」

しぶるパックンに「わ●ちゅーる弾むから」、となんとかお願いをして、パックンに愛くるしいさ三割増しで登場してもらう。

「よっ!」
「喋るワンちゃん?!」

忍犬の存在を知らないカナはすっかり喜んでくれて、興味津々でパックンとお話ししたり、肉球を触ったりとまるで子供のようにはしゃいでいた。
若い女の子に可愛がってもらえるのはパックンも満更ではないらしく、あんなに渋っていたのにノリノリで肉球を差し出している。
若干そのポジションを変わって欲しいななんて思いながらも、オレは笑顔でその様子を見守る。

「カカシ、すまんが拙者も用事があってな。そろそろお暇する」

1時間くらい経ったところで、パックンが帰ると言い出した。カナは「もう帰っちゃうの?」とさみしそうに肩を落とす。
……いやいや、今オレとのデート中だからね。

「なーに、またカカシに言えばいくらでもぷにぷにさせたるわい」

パックンはカッコつけながらそんなことを言うと、「じゃあな!」と可愛らしい肉球を見せながら消えていった。
これでようやく二人きりになれる。

さて、ここまで生麦ももやのインタビューにあったポイントは、カフェ巡り・動物を飼っているを抑えたので、残りは自炊男子アピールともこもこパジャマだ。
普段からカナに料理は振る舞ったりすることがあるから、今日は特別アピールしなくてもいいだろう。そうなると残る後一つ──

「ねぇカナ?」

パックンと戯れた後、洗面台へ手を洗いに行っているカナに声をかける。
カナはかわいい声で、んー?と返すと、小走りでオレの元へ戻ってきた。
あぁ、こんなにかわいいカナがこのパジャマを着たら、オレはどうなってしまうんだろう──そう思いながら、オレは「さっき買ったパジャマ着てみない?」と、下心を感じさせない
爽やかな笑顔で試着を勧める。
するとカナは首から上を真っ赤に染めて、固まってしまった。

「そ、そんな、恥ずかしいって……」
「いーじゃないの、オレしかいないんだし」
「オレも買ったやつ試着するから、ね?」

はい、と無理やり手渡すと、彼女の背中を押して脱衣所に送り込む。オレは寝室で着替えるから、と扉を閉めて退散した。

パジャマに袖を通すと、肌触りが良くとても気持ちいい。カナのパジャマも確かボトムスが同じ素材だったよな……と妄想して思わず口元が緩む。おっと、これでは下心全開だ。
上下とも着替えて、気を引き締めてカナを呼びに行く。
脱衣所の扉がガラリと開いて、目の前に現れたカナは、それはそれはもう今すぐ食べちゃいたいくらいのかわいさで。オレは理性を保つために思わず声を失くす。

「やっぱり似合わない、よね」

何も言わないオレに、ガッカリしたのかカナが少ししょんぼりした様子で俯く。
ボトムスの丈が短く脚が出るのが気になるのか、裾を下にキュッと下げるように抑えていて、なんだかそれすらもそそられる。

「ちょーかわいい」

オレは下心を抑えるのも何もかも忘れて、恥ずかしそうなカナを抱きしめた。
彼女は最初「ちょっと、恥ずかしいって」なんて抵抗していたけれど、すぐにオレの着ているもこもこのパジャマの肌触りの良さに気づいて、オレの背中を撫で始める。

「カカシのパジャマ、もこもこだね」

もうすっかり我慢ならなくなったオレは、ひょいとカナを抱き上げて寝室へ連れ去った。

「やだ、カカシってばやっぱりそういうつもりだったんだ!」
「いやー、こればっかりはもう……想像以上だったからね」
「なに変なこと想像してんのよ!」
「なにって、こんなこと」

カナをベッドに降ろすと、オレもその手前側に腰を降ろして彼女を押し倒すような体勢をとった。それから羽織っているカーディガンを、彼女の肩からゆっくり剥がしていく。

「せっかくこんなにかわいいパジャマなのに……」
「かわいいからこそいいんじゃない?それに、カナも負けず劣らずかわいいし」

カナは、「いつもかわいいって言うけど恥ずかしいよ」とオレから顔を背ける。首の筋と鎖骨が浮き出て妙に色っぽい。
今まで照れてオレの言葉を聞こえないフリしてたなんて、より愛おしくなる。もっと言って、もっと恥ずかしがらせてやりたい気持ちになる。

「なーんだ、聞こえてたの?」
「……知らない」
「恥ずかしがっちゃって。かわいい」

オレはもうその頃、すっかり生麦ももやに焼きもちを焼いていたことなんて忘れていた。
だって、こうやってカナを独り占めして触れられるのも、恥ずかしがる顔を見ることができるのも実際はオレだけなのだから。

「ねぇカカシ、マスク外して」
「どうして?」
「そんなの女の子に言わせないでよ、バカ」

ホント、なんてバカだったんだろうなぁ、と先ほどまでの自分を思い出し笑いをすると、「バカで結構」と彼女のお望み通りマスクを外し、覆い被さるようにキスをした。

(嫉妬譚)
 
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