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「#甘甘」のBL小説を読む
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- ナノ -
※カカシのキャラがかなり崩壊しております。ご注意ください。
※架空のアイドルが登場しますが、こちらは今回のみのため名前固定としております。
※決めセリフを文字ってふざける部分があるため、そういう傾向が苦手な方はお読みにならないことをお勧めします。ご了承くださいませ。


「あ!生麦ももやだ!」

通りすがりの書店の前でカナの足が止まる。どうやら店頭に並んだ週刊誌の表紙のアイドルが気になるらしい。オレと繋いでいた右手を解いて雑誌を手にとり、表紙をじっと見つめている。

今日は長期任務から帰ってきたカナと久しぶりのデートだった。
オレとカナは付き合いたてもホヤホヤ、まだラブラブの付き合って3ヶ月である。
しかも3ヶ月といえど、互いの任務でなかなか会えなかったりして、満足にデートできていない。
オレはもうただでさえ会い足りなくてイライラしているのに、カナの注意をオレから逸らした週刊誌のアイドルが憎くて仕方なかった。

「カナ、ほら行くよ。映画見たいんでしょ」
「ちょっと待って!ちょっとだけだから」

カナはオレには目もくれず、雑誌を開き、特集ページを読み始める。
なんだなんだ、最近パッと出のヤツに、長年のカナへの想いを募らせてやっと恋を実らせたオレが負けてなるものか。
オレは彼女の斜め左後ろから記事を覗き込み、まずはそいつがどういうヤツなのだろうかと敵情を把握することに努めた。
『甘いものが大好き。女の子とのデートはカフェ巡りしたいです』『基本は自炊ですね、健康のことも考えて』『動物が好きで、ウサギを飼っています』『もこもこのパジャマがお気に入りです』──インタビューをざっと見るとこんなところがキーワードか。
甘い物は苦手だが、オレだってデートでカフェ巡りしたり、料理もできるし、動物はまぁウサギじゃないがパックンたちを口寄せできる。それに、もこもこのパジャマは……ちょっとビジュアル的にキツいもしれないが買えばなんとかなる。
そうだ、オレはコピー忍者のカカシだ。カナの好きなアイドルのコピーなんて朝飯前だ。

「カナちゃーん?」
「ごめん、まだあとちょっと、」
「いいよ、オレがそれ買ってあげるから」
「え?いいの?」

カナはパッと顔を上げて嬉しそうにオレを見る。
ここは雑誌を買い与え、カナが読んでいない間にオレもさっと読み、徹底的にコピーする作戦だ。

「その代わり、後でオレにも読ませてよ」
「うん!」

彼女はえへへ、と笑うと素直にレジに向かった。値段にして800円、これでカナの心を独り占めできるならまぁ安い物である。
ご機嫌なカナと書店を後にすると、今日は彼女が映画を見たがっていたので映画館へ足を運んだ。
すると──

「これが見たかったの!」

ジャジャーン!という効果音でもつきそうなくらい可愛い仕草で、映画の看板を指でさすカナ。思わず「かわいい」と口にしてしまったが、こういう時カナは決まって聞いていない。でもそこがまたいい。

しかし、その指の先にはまたしてもアイツがいたのだ。

「生麦ももや初主演……」
「そう!ももやくんが人生初主演のホラー映画なの!」

大好きなアイドルのラブロマンスを見たいならわかるが、ホラー映画とは。オレは一瞬頭の中が固まる。

「ま、まぁカナが見たいならそれにしよっか……」

オレは、正直言って映画の中で最もホラー映画に興味がない。作り物のお化けや怪物を見て、何が怖いのかとすら思う。
しかし、これはアイツをコピーするチャンスだ。徹底的に勉強しよう。

──そう意気込んだのはよかったが、このホラー映画、なんとサイレントホラーで俳優のセリフが少なく全く参考にならなかった。
ただ、カナはそれが逆に怖かったのか、ずっとオレの手や腕につかまっていて、結果としてはかわいいカナの様子が堪能できるかなりお得な2時間となったのだった。

「はー、映画怖かったね!」
「カナは怖がりすぎだろー」
「カカシ全然怖がってなかったもんね!怖がってるとこ見たかったなー」
「そういうことなら今度オレの家でホラー映画でもみ……」
「あ、私ちょっとお手洗い行ってくるね!」

やっぱりこういう時、カナは聞いていない。まぁしょうがないか、とガックリ肩を落とす。ついでにオレもトイレへ行くことにした。

用を済ませ、手を洗い、鏡に映った自分を見ると、随分とやる気のなさそうな目をしている。生麦ももやはくっきりときらきらした目をしている。オレとは似ても似つかない。

しかし、そんなことであきらめてはいけない。
それをオレ流でカバーしてこそコピー忍者の本領発揮である。これよりカナの心をイケメンアイドルから取り戻す!……と、ふざけるのは大概にして、髪を少し整えてからトイレを出た。

キョロキョロと見渡すと、まだカナの姿は見当たらない。
どこへ出かけても、トイレの出入り口周辺に彼女の化粧直しを待つ男が大抵いるように、オレもまたその一人である。手持ち無沙汰でどんな風に待ってたらいいかわからないが、案外この待つ時間は嫌いじゃあない。

「ごめんごめん、お待たせ!」

彼女が化粧室から出てくると、笑顔で毎回駆け寄ってきてくれて、決まって腕を絡めてくれる。それが嬉しいのだ。

「ぜーんぜん、」

ニッコリ微笑んでいうと、カナは「ありがとう」、と絡めた腕をより密着させた。

「ねぇねぇ、次どこいこっか?」
「そうだなぁ……」

よし、ここでアレだ。

「小腹も少し空いたし、カフェ巡りでもするか」

そう、ももやのコピーその1である。
カナは一瞬驚いたような顔をしていたが、すぐに花が咲いたような笑顔になると、行きたいカフェをリクエストしてくれた。

看板などを頼りに探すと、映画館のすぐ近くにあるお店だった。なんとも女子が好きそうなおしゃれな雰囲気のカフェだ。

店内に案内されてメニューを見ると、キラキラしたした甘いものだらけだったが、ご飯物も見つけることが出来た。
オレは甘いものが苦手なので、軽食とコーヒーにすることにした。

カナはと言えば、嬉しそうにメニューを行ったり来たりしていて、ずいぶんと悩んでいる様子だった。
こういう時、甘いもの好きな男であれば彼女とシェアしてあーん、とかそういう甘い展開が待っているのだろう。こればかりは真似は難しい。

「ごめんな、オレが甘いもん苦手なばっかりに」
「ううん、いいの。でも迷っちゃってさー、」
「食べれるだけ頼めば?オレが払うし」
「うーん、」

カナは季節限定のデザートプレートと、人気ナンバーワンのケーキで迷っているようだった。悩んでいる姿すら愛おしい。永遠に見ていられる。
思わずまた「……かわいい」と漏らすや否や、カナが突然メニューを指さし顔をあげ、「季節のやつに決めた!もう一個はまたカカシと来た時にする!」と破壊力抜群の笑顔をオレに向けた。
恋のキューピッドがいるならば、オレの心臓はもう身体の向こうまで打ち抜かれて即死状態だ。

「す、すみませぇーん、」

オレは魂が抜けたような声で店員を呼んで、カナの分とオレの分の注文をお願いした。
その間もカナはテーブルに前のめりで両肘をついて、所謂ぶりっこのポーズをとりながらニコニコしていた。
こんな彼女を見られるなら、たとえ甘いものが食べられなくても何軒でもカフェ巡りをしてやろうと思えてしまう。

それから注文したものが運ばれてきた後も、カナはキラキラ目を輝かせたり、美味しいと言ってオレに興奮した様子で感想を伝えてきたり、もうそれはそれはかわいかった。もうかわいいという語彙以外頭の中から消えてしまうくらいにはかわいかった。

「あ、そうだ!」

微笑ましくコーヒーを飲みながら彼女を見守っていると、スプーンでプレートのシャーベットを一掬いした。そして、それを、なんと、オレの口の前に差し出したではないか。

「カカシもシャーベットなら食べれるでしょ?」
「食べるー!」

気持ち悪いと言われようが関係ない。オレは元来恥ずかしがり屋だが、人前でカナがあーんをしたいならなら受け入れよう。それが男というものだ。
若干この状況にうっとりしながら、オレは薄目を開けて、さらにあーんと口も開けてスプーンを待った。

しかし──なかなかスプーンが来ない。
おかしいと思って薄目のままカナをよく見ると、「はい」と笑顔でスプーンの持つ方をオレに向けているではないか。

「……え?」
「はいどうぞ!」

オレは口をぽかんと開けたまま状況を一つ一つ整理する。
……これは事故だ。しかも大事故だ。30近くの男が、おしゃれカフェで意味もなく一人で口を開けている。ただの不審者ではないか。しかも──

「──ブッ!」

どこかのテーブルで誰かが吹き出した。
笑ったのは誰だとカフェの中をキョロキョロ見渡すと、たまたま来ていたのか、いのとシカマルがお腹を抱えてこちらを見ていた。チョウジもいたが、ポテトに夢中のようだった。あいつら絶対許さねぇ。

ギロリと睨みつけていると、カナが「どうしたの怖い顔して、食べないの?」と首を傾げる。
すぐに笑顔を作り直し、「あーいや、食べる食べる」と返事をしようとしたその時。

「わかった、あーんして欲しいんでしょ、拗ねちゃったんだね!」

やだもう、と意地悪な顔をしてカナが笑う。こっちがやだもうだ。この状況からのあーんは恥ずかしすぎる。
しかしカナはそんなオレの恥ずかしがる気持ちをを知ってか知らずか、何のためらいもなく、あーんの準備に取りかかる。
スプーンに乗ったシャーベットが少し溶けかかっていたため、カナはもう一度掬い直してオレの口の前に差し出した。

「はい、あーん!」

オレは大人しくシャーベットを受け入れる。口からスプーンが離れるや否や、恥ずかしさのあまり思わず両手で顔を覆ってしまった。
シャーベットは、顔の熱さもあり、ひんやりとしてとても美味しかった。
きっと今頃、いのもシカマルも見てるんだろうな、と覆った両手の指の隙間から三人の座るテーブルの方を見ると、二人ともオレと同じように顔を両手で隠していた。
チョウジは相変わらずポテトに夢中だった。なんだか少しだけ悔しい。

「あはは、恥ずかしい?」
「ぜんぜん」
「まだ顔隠してるけど」
「美味しすぎて隠してるだけだから」
「本当?!じゃあもう一口食べる?」

指の隙間から覗くと、すっごく嬉しそうなカナの顔。
あぁ、オレは幸せだな、今日死んでもいいや。でもやっぱりもう少しカナの隣にいたいかもしれない──

「……食べる」
「やったぁ!はい、あーん」

かわいいカナの二度目のあーんに、オレの左胸が弾ける音が聞こえた。
イケメンアイドルのコピーをしてカナを口説くどころか、オレがメロメロになってどうする。計画はボロボロだ。

しかし、今日はまだ昼過ぎ、14時だ。
これから絶対に絶対に巻き返してやる!絶対にカナをデレデレにさせてやる──
そう心の中でひっそりと叫ぶのだった。

(嫉妬譚 上)

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