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いつだって、失う時は一瞬だ。

「カカシ!私、久しぶりに彼氏が出来たの!」

久しぶりに任務から里へ戻ってきて、気になるあの子はどうしてるかな〜なんて顔を出したらこのザマだ。見たことのないようなとびきりの笑顔でオレに恋人が出来たことを報告されてしまった。
ずっと今まで同僚として過ごしてきて、大切に温めてたきた気持ちが一気に砕け散る音が聞こえた。

「あ……、」

「おめでとう」「良かったな」「へぇー、どんな奴」「やっとだな、今度紹介してくれよ」──目の前にいるのがカナじゃなければ、オレはどんな風に返事をしたのだろう。
カナだって年頃の女性なのだから、彼氏なんて今までもいただろう……いや、確かいたな。あまり聞きたくなかったから詳しく聞いたことはなかったが、周りの奴らから付き合っただの、別れただのはたまに耳にしていた。
けれど、こんなにずっしりとしたボディーブローを食らってしまうのは「次に付き合う人とは結婚したいな」みたいな事を何時ぞやに呟いていたからだろう。

「そうか」

オレは三文字だけで返事をした。声が震えてしまいそうで、今は極力口を開きたくないと思った。

「なにその反応、全然興味無さそう!」
「オレには関係無い話だろ」
「そりゃそうだけどさぁ、」

カナはしばらく彼氏がいなくて、それを彼女自身もちょっぴり面白おかしく話していた。だから今回もそのテンションで、突然恋人が出来たことをオレに驚いて欲しかったのだろう。こうしている今も、物足りなさそうな顔をしている。それを見ながらオレは臍を噛む。

どうして気持ちを伝えようとしなかったのか。どうして彼女との距離を縮めようとしなかったのか。思い返せばチャンスはいくらでもあったはずだ。それに、きっとカナはオレに好意を示してくれていたことだってあった。
オレは臆病すぎて、結局何もしなかった。何もしないまま、終わってしまった。

はいそうですか、と気持ちを切り替えられるくらいに彼女のことを好きでなければ良かった。この歳までまともな恋愛をしてこなかった反動だろうか。

「ま、末永くお幸せに!」

せめて大切な人が幸せになってくれればと、ほんの僅かに残された自身の良心が吐いた言葉が、自分の胸にぐさりと突き刺さった。
無理な強がりが一番良くないとわかっているのに、表情筋は重力に逆らってぐいと持ち上がり、目は緩やかな三日月型になる。
自分でザクザク勝手につけた心の傷で気を失いそうなほどなのに、心以外は至って無傷のオレはふらりともせず、しっかりと地面に足をつけて立っている。このままその場に倒れ込めたらどれだけ楽だろうか。

突然のオレの態度の変わりように「なんか適当じゃない?」と少しムッとするカナに、オレは首を横に振った。

「ひどいな、本心なのに」
「えー?だってさっきから随分あっさりしてるじゃん」
「いつでもこんな感じでしょ」
「まぁ確かに、『カカシが目をキラキラさせるのはイチャイチャパラダイスの話くらいだ』ってアスマ達もよく言ってたけど……」
「だろ?」

今度は上手く笑えた気がした。そして、その笑顔のまま、「用事を思い出した」とかなんとか言って、無理やり彼女の元を去ろうとする。これ以上そばにいたら、自分の感情に呑み込まれてしまいそうだった。カナに、「本当は好きだった」と洩らしてしまいそうだった。

「あ、そうそう。彼氏に泣かされたらいつでも相談に来いよ」

そう言いながら歩みを進め、どんな表情かもわからないくらい視界の端に彼女を追いやる。オレは背を向けたままカナにひらひらと手を振って別れを告げた。


(はいそうですか)
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