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- ナノ -
カナの修行についてから約一週間が経とうとしていた。
オレも自分の任務があるので、カナの様子を見に行ったり見に行かなかったりだったが、先週とは比べものにならない程チャクラのコントロールが良くなっていた。
もうゴーグルもグローブもマスクもしていないが、十分安心して見ていられる。

「ほら見てください!こんなにペラペラ喋っても、電球を指先でつまんでも回路ができるようになりました!」
「よくやった。第一関門突破だな」

想像以上の仕上がりで、カナはアクロバティックな動きをしながら回路を作って見せる。
多少アホっぽくて呆れてしまうが、ここまでできれば文句はない。次の段階に移っても問題なさそうだ。

「そしたら次はそのチャクラを通しながら、弾けさせるイメージで回路を回してみろ」
「え、そんな感覚的な話なんですか?!」
「理論的にはもっと細かいやり方があるんだが……カナ、多分そういうの得意なタイプじゃないでしょ」

ガイについてここまで伸びているということは、おそらくそういうことだ。ガイは勿論きちんと教えるが、そこまで理論立てて教えるタイプでもない。ということは、感覚的に分かればコツを掴めるタイプだということだろう。

「カカシさんひどーい!私のことバカって言ってますそれ?!」
「まぁまぁ、そこまで言ってないじゃないの。とりあえずやってみてよ、理論ばっかり叩き込んでも実戦で使えなきゃ意味無いし」

そう諭すように言うと、カナは渋々目を瞑って集中を始める。
すると、早速バチンと音を立て、フィラメント部分が光り始めた。ここまでくればあと一息だ。

「ほら、やってみた方が早いだろ?」
「おー!」
「で、ひとつ言い忘れたんだが、気をつけないといけないのが雷の性質を使い始めるとお前の場合、またチャクラコントロールが乱れる可能性があるから──」

そう言いかけた瞬間、また演習場に破裂音が響き渡る。
思わず一瞬目を瞑ってしまい、ゆっくり開くと、そこには修行初日とまさに同じ状況が広がっていた。

「……また絶対怪我するからグローブとゴーグルとマスクしてからやってねって言おうと思ったんだが、遅かったか」
「あはは……病院行ってきまーす」
「今のはオレが悪かった、すぐ木ノ葉病院に行くぞ」


修行初日と同じように傷を清潔な布で包み木ノ葉病院に行くと、前回と全く同じ先生に診てもらうこととなった。
まだ完全に前回の傷跡が治っていなかったので「一体何してるんですか!跡残っちゃいますよ!」とこっぴどくオレが先生に怒られる羽目になる。
当の本人はけろっとしていて、ヘラヘラ笑って「すみません」とやり過ごしていた。

「すいません、私のせいで怒られちゃいましたね」
「いや、これはオレの責任だ。また痛い思いをさせてすまない」

罪滅ぼしの気持ちから、診察代と薬代をオレが支払うと、カナは「ラッキー、ありがとうございます」と嬉しそうに笑っていた。
気を遣わせないためなのか、本当にそう思っているのかはわからなかったが、少しだけ気が軽くなる。
とりあえず今日はもうこの状況では修行は出来ないので、解散しようと薬局を出ると、横からグゥと大きな音が鳴った。なんだと咄嗟に音のした方を見やる。

「……あ、お腹鳴っちゃった。聞こえました?」

カナの腹の音だった。恥ずかしそうにお腹をさすり、照れ隠しなのか首を突き出すように会釈をする。

「昼時だな、飯でも食うか」
「え?!もしかしてコントロールできたご褒美にお昼奢ってくれちゃう感じですか!」
「バカ、怪我してご褒美があるかよ」
「ま、そうですよねー。わかってますよ」

子供みたいに拗ねたように言うので、つい笑ってしまう。
今時珍しいくらいに素直だなと、心が和んだ。

「でも、その手で食べられるの?」
「一応は痛みもなく動かせるので大丈夫です!」
「なら良かった。何か食いたいものは?」
「ラーメンで!」
「りょーかい」

ラーメンが食べたいと言うので、薬局からそう離れていない一楽へ連れて行くことにした。カナもよく来るらしく、オレの左の席に座ると、テウチさんと親しげにやりとりをしていた。
席につくなり、カナは何を頼もうか一人でぶつぶつ呟き始める。

「いやぁ、今日は味噌チャーシューもいいけど、気分的には醤油かなー……でもチャーシューも食べたいし……」
「ま、全部は奢らずとも、トッピングくらいなら奢ってやらないでもないか」

きっと喜ぶだろうなと予想して、オレはそんな事を言ってみる。勿論、トッピングだけなんて言わずに全部奢るつもりだが、最初から奢りなんて言っても面白くない。
どうかなぁと反応を伺っていると、「本当ですか?!やったー!」と予想以上の喜び方で思わず嬉しくなる。

「じゃあ醤油ラーメンにチャーシューと煮卵両方二倍、それからのり多めで!」
「そんな食べられるの?!」
「あの修行体力使うんで、食べないとやってられなくて」
「後から食べられないとか言って残すなよ?」
「大丈夫ですって!今日朝食べてないですし」
「はいはい……じゃあ大将、カナは醤油のチャーシューと煮卵とのりのトッピング二倍と、オレは普通の味噌ラーメンで」
「はいよ!」

本当にその小柄な身体で食べ切れるのだろうかと疑問に思いつつも、彼女の言う通り注文をする。カナはとびきりの笑顔で厨房を眺めていた。
ラーメンの量も予想以上だが、愛想の良さも予想以上だ。これはガイが肩入れするわけだと心の中で密かに笑う。
オレ自身も、彼女の初日のふて腐れ具合からは想像もつかない素直さと、愛嬌のあるその挙動に少しずつ目が離せなくなっていた。

「そういえば、もう例の跡取り息子は国を出たのか?」
「あ!それがですねー!出たは出たんですけど色々あったんですよ!」
「ほー、色々ねぇ……」
「なんと彼、許嫁がいたんです!」
「はぁ?」

思わずオレは眉間にシワを寄せて相槌を打つ。

「次の日、謝りに来たんです。実は国を出るのは他国の商家の女性に婿養子に行くんだ、って」
「そりゃ災難だったな」
「もう一瞬で冷めましたよ!ガイ先輩、実はそれを知ってたみたいで、あの時突撃してきたらしくて」
「……ガイがねぇ、」

そういうのに鈍そうなガイが、噂を聞いてカナのために嫌われ役に出るなんて意外だった。まぁらしいと言えばらしいが。
カナの話に耳を傾けていると、「お待ち!」と注文したラーメンがそれぞれの前に並べられる。
彼女は手を怪我しているから、さりげなく割り箸を割って添えてやった。

「一昨日ガイ先輩に久しぶりに会ったんですけど、もう平謝りですよ。本当、吹っ切れて良かったです!」
「そりゃ良かったな、あの日はまぁ酷いふて腐れ顔で修行になるか心配だったもの」
「いやぁ本当にあの時はすいませんでした!あ、割り箸ありがとうございます!」

やっと話しが落ち着いて、彼女は「いただきます!」とラーメンに飛びつく。
恋はあっさり散ってしまったが、これで修行に集中してもらえそうだとオレも一安心だ。彼女に遅れていただきますと手を合わせラーメンにありつく。

「あ、先輩お冷やおかわりされますか?」
「怪我してるんだから気なんか使わなくていいよ」
「反対の手でできますし、私もおかわりするんで」
「じゃ、お願いしようかな」

コップを手渡すと、少しだけ包帯から出ている指先が触れる。細くて柔らかい感触がした。
思わぬ女らしさに触れてしまい、どきりとする。まるで思春期の男子のような感情のざわつきに、自分を自分で嘲笑った。
勿論カナはなんの意識もしていないようだった。当然だろう。
それからオレは、一つの違和感に気づく。

「はいどうぞ!」
「って言うかお前、オレの事先輩なんて呼んでたっけ?」
「奢ってくれたら先輩呼びにするって決めてるんです!」
「現金な奴……」

その後もラーメンを食べながらカナのお喋りは続いた。
話題は同期の忍者の話から個人的な話まで様々だった。登場人物が多いので途中から殆ど聞き流していたが、いつの間にかオレへの質問にすり替わっていて、「先輩って彼女いるんですか?」なんて質問が飛んできた時には前後関係がわからず、思わず吹き出すところだった。
すんでのところで堪えてむせ返ると、カナはそんなオレをみて、コップにお冷やを注ぎ足しながらケラケラと楽しそうに笑っていた。

「あ!先輩その反応はもしかして彼女いない感じですか!」
「……どうでもいいだろそんな事、あー苦しかった、」
「先輩全然興味なさそうですもんね〜、女の子に」
「ほら、余計なことペラペラ喋ってないで静かに食え。せっかくのうまいラーメンが伸びるぞ」
「あー、そうやって話を逸らす〜」

オレはブーブー文句を言うカナを横目に、一気に残りのラーメンを啜り、どんぶりをあける。
彼女もそれを見ると、自分だけほとんど食べ進んでいないことに気づき、ようやくラーメンに集中し始めた。猫舌なのか、フーフーと冷ましながら一生懸命に食べている。

「なんだ、お子ちゃまみたいな食い方だな」
「猫舌なんですー。先輩もう食べ終わったんですか?早いですね」
「職業柄、早食いは得意でね」
「私も同じ職業なんですが」
「まぁホラ、オレは大人だから」
「……また小馬鹿にしてます?」
「いやいやそんな、かわいいと思うよ、猫舌」
「絶対嘘!」
「はいはい、いいから食べる!」

これがガイと一緒に修行したらどれだけ賑やかなのだろうか。想像するだけで疲れてしまう。
けれど、楽しく二人でかけ合っていることは確かだろう。
再びラーメンを冷ましながら食べ進めるカナを、オレはマスクの下で口元を緩ませながら見守った。

「ごちそうさまでした!はー美味しかった!」
「本当に全部食べられたの」
「カナちゃん、今日もいい食べっぷりだね!」

カナが食べ終わり、テウチさんにどんぶりを返すと、オレもコップとあいたどんぶりを返した。
それからオレは、カナとの間に置かれた伝票をひょいととり、お代をカウンターへ伝票とぴったり合わせて並べる。

「ごちそうさまでした。丁度で」
「まいどあり!」

テウチさんに会釈をして、席を立つ。
暖簾をくぐって店の外に出ると、何故かカナがなかなかこちらへやってこない。
「どうした?」と声をかけると、戸惑った表情で財布を開いて「先輩、私のラーメンのお勘定……」と呟きながらとぼとぼやってくる。
本当にオレがトッピングだけしか奢らないと思ったのだろうか。
さっきまでの元気な姿とは一変、おろおろするカナの姿に胸のあたりがムズムズするような感覚に襲われた。

「今日は特別に奢ってやるよ。お前トッピング盛りすぎて計算めんどくさいし」
「やったー!カカシ先輩太っ腹!」

大人の女性らしからぬガッツポーズで、カナはオレの奢りに喜ぶ。
ガイ譲りのオーバーなリアクションだが、ラーメン一杯でここまで喜んでもらえるのなら悪い気はしない。
それに、先輩・後輩として距離を縮めることもできた。これで修行もいくらか進めやすいだろう。
 
「その代わり、明日からちゃんとゴーグルとグローブとマスクつけてきてよ」
「はーい」
「万が一忘れ物でもして木ノ葉病院行きになったらカナ、お前がオレにご馳走な」
「えー?!そんなぁ!」

どこまでもからかいがいのある奴だ。
さて、これから先こいつは上忍としてどういう成長を遂げるのだろうか。
「楽しみだな」とカナに聞こえないよう独り言を言うと、マスクの下でひっそりと微笑むのだった。


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