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2020/09/15

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いつもオレのことを事あるごとに好き好き言う割には、いざこちらがそういうそぶりを見せるとさっと退いていくもんだから、いつのまにか気になってしまっていた。
オレが9月15日が誕生日だと言えばとても張り切って「全力でお祝いしますね!」なんて言っていたっけ。

そんな話をしたのはもう半年も前だったと言うのに、8月15日に突然、「先輩、1ヶ月後は空いてますか?」と聞いてきた。
まさか覚えているとは思わないから、何か面倒な用でも押し付けてくるつもりかと警戒して聞き返すと、「私に全力でお祝いさせてください」だなんて言う。
素直にかわいいな、なんて思って快諾すると、彼女は物凄く嬉しそうに笑っていた。

それからはなんだか忙しそうにしていて、任務終わりもさっと帰って何かしているようだった。
ある日手を怪我していたから、工作でもしているのだろうか。心配になって訊ねても教えてくれない。
これはオレの誕生日絡みなのか?と察して、そのあとは気づかないフリをしていると、とうとう一週間前、彼女に招待状を渡された。彼女の家の住所と、時間が書いてある。
女の子の家に男が行くなんて、いいのだろうかと戸惑う。まぁオレは別に気にしないが。
念のため「家になんか行って大丈夫なの?」と聞くが、「それは私もカカシ先輩の守備範囲内にいると言うことでよろしいですか?!」なんて返してくるのでたちまち閉口し、聞かなければよかったと反省した。
勿論そのあと、彼女は物凄く落ち込んでいた。思わず笑ってしまうほど、わかりやすくしゅんと萎れていた。


当日、彼女の家に行ってみたら、部屋はきれいに飾りつけられた上に、ダイニングテーブルにはご馳走が並べられていた。
オレが甘いものが苦手だからと寿司ケーキをテーブルの中央にどんど並べ、そのほかにはナス料理、それからとてもよく脂ののったサンマの塩焼きなど、オレの好物がたくさん並べられていた。食べ切れるか心配になる程だった。

「お前、料理こんなに得意だったっけ?」

盛り付けはさることながら味もよく、驚きながら尋ねると、「今日のために練習したんですよ!」とはにかむ。あの手の傷はそういうことだったのか。

「先輩、先月から激務続きでろくなもの食べてなさそうだったから、色々考えた結果、先輩の好物フルコースにしようと思いまして!でも料理苦手なのでせいぜいこのくらいしか……って感じですけど」
「ありがたいよ。オレもこうやって健康に気を使ってくれる嫁さんでもいてくれたらねぇ」
「え?!それってまさか、私をお嫁さんに……?!」
「別にお前とは言ってないけど」
「ですよね〜」

彼女は明るく落ち込む。しかし、このくらいではへこたれない。
「そう簡単に喜んでもらえないと思って、実は自来也様にお願いして……」と呟きながら、部屋の隅から赤いリボンでラッピングされた金色の包みを取り出した。

「ん?なんだ?」
「開けてみてください!」

オレはしゅるりとリボンを解き、キラキラとした包装紙を丁寧にはいでいく。すると中から現れたのは──

「これは……?!」
「ジャジャーン、幻の短編!イチャイチャパラダイス外伝です!」
「なん……だと……?!」

彼女はいつもオレのことを好きだ好きだと言ってはいたが、ほぼ挨拶同然で言われていたので、どうせただの軽口だろうと本気にしないでいた。
自惚れるわけじゃないが、この容姿のおかげかそこそこ女には人気がある。だから、彼女もまたそんなオレの容姿だけを追って、まるで芸能人にキャーキャー言うように、上部だけの好きを言っているのだと思っていた。

「お前、わざわざ里の外まで出て自来也様を探したのか?!」
「さぁどうでしょう?でも、カカシ先輩が喜ぶのはこれしかないって思ったんです!どうです?!」
「……あぁ、とっても嬉しいさ」

別にモノに釣られた訳じゃない。危険を冒してまでオレの喜ぶものを手に入れて来てくれるなんて、上部の好意だけなんかじゃ到底出来ないと思った。そして、そこまでしてオレが喜ぶことをあれやこれやと考えて動いてくれたことがとても嬉しくて仕方なかった。
彼女がオレを好きになったきっかけは、オレがいつぞやの任務で助けた時からだとか言っていたか。そんな本人にとっては些細なことでも、時には大きく心を動かされることもあるのだなと感じた。



「今日はわざわざ来ていただいてありがとうございました!」

あっという間にお暇する時間になり、オレは玄関先で彼女に見送られる。食事の後、おしゃべりな彼女の話に付き合っていたらあっという間だった。外はすっかり日が暮れていた。

「こちらこそ。こんなにご馳走になって悪いね」
「いえいえ!憧れのカカシ先輩に手料理を食べてもらえるなんて私はむしろ夢のようです!とっても楽しかったです!」

「祝う側が祝われる側より楽しんでどうするんだ」といつもならつっこむところだが、今日は違う。オレのためにここまでしてくれたことが嬉しくて、そんなにオレを想ってくれているのかと思うと愛しくてたまらなかった。

「あぁ、オレも楽しかったよ。それに嬉しかった」
「本当ですか?!よかったです!自来也様の本は絶対に喜んでもらえると思ったんですよ!」
「勿論それも嬉しかったけど、お前が今日を一緒に過ごしてくれたのが一番嬉しかったよ」

オレはにっこりと微笑んで、少々キザなセリフを言ってみせた。本心だった。

「や、やだ!先輩何言ってるんですか!好きになっちゃう!」
「いつも自分から好き好き言ってるでしょうが」
「さては本格的に惚れさせてきてますね?!」
「あーはいはい、そういうことでいいよ」

いつもの彼女の好きを軽くあしらってきた罰なのか、全く信じて貰えないことに少しだけ傷つく。
このままでは本当に冗談だと思われてしまいそうだから、オレは「じゃ、とりあえず次の休みはデートでもするか」と言った。言った後、あまりいい言い方ではなかったな、もっとスマートに好意を伝えればよかったなとすぐに恥ずかしくなって思わず視線を逸らす。
けれど、恥ずかしいのは彼女も同じだったようで。

「せんぱいが……冗談じゃないなんて……」

そう言われて視線を戻すと、顔を真っ赤にした可愛らしいキミがいた。
それを見た瞬間、オレの中で何かが弾けて「もう、お前のそれ、ほんと好き」と沸き起こった感情のままに彼女を抱きしめるのだった。

(或る誕生日)