一度離して、舌を絡めていた彼の口の中に、氷を居れる。
「舌は冷たくないね?」
だんだんとわかってきていた。生体は生体、死体は死体。
死のフリなどドラマのカメラ越しで限界だ。
ぐにぐに、と死んでいる癖にまだ元気そうな部分をつかんで寝かせる。
彼の体温は下がり切らなかったし、その部分が寝かされ続けることもなかった。厳密には、それはさすがにしなかった。
一度手を離して、呼吸を確認する。控えめだが、ある。
「あぁ。なんて、活きた死体なんだろう」
話しているのは自分だけ。
生きてる、のは自分だけだ。
変な空間。
なのに、それがだんだんクセになる。
「みんな死んじゃってる!
みんな死んだ!
死んじゃってる!」
はぁ、はぁ、と自分の荒い息が上がる。
「ほらみろ俺しか話してない、俺だけ生き残った、俺しか話さない世界だ誰も邪魔しない!」
やったあ、と両手を挙げてみる。選挙に当選したみたいな、ああいう形式的なものを、あえてやってみる。
シャンパンでもあればいいのに。
「由来手ー、そういやお前なんで死んだんだ?」
乱れている前髪を、のんびりと撫でる。
由来手は話しかけてこないが俺しか生きていないんだから仕方がない。
死因なんか死体がしゃべらない。我に返って引き出しから出した軟膏を手に取る。
「……いや」
まだだ、と一度机に置いた。
王様みたいな気分。
満たされた気持ちになる。
一人生きている、漫画とかでよくある、みんな戦って死んで自分だけ生き残る。
強くなったような、ワクワク。
由来手の身体を引きずるのは、重かった。死体なので勿論全身を預けてくるわけで、持ち上げるのも大変ながら、どうにか浴室まで運んだ。
蛇口を捻りシャワーを水にする。身体が冷えてないと、死体って感じがしない。
服を脱がせてから水を出して、身体を丹念に冷やしていく。
由来手は抵抗していなくて、興奮する。
「由来手……由来手」
せっかく冷えてきた身体なのになんだかひっつきたくなって抱き締める。冷たくて気持ちがいい。ひんやりと、自分まで冷えていきそうだ。
「あぁ、由来手……可愛い」
がたん、と音がして足元にシャワーが転がる。
由来手はけなげに目を閉じている。ぴくりとまぶたが動くが、それくらいだった。
「すき……」
俺はとても正常だ。
かなり、正常だ。
由来手の顔が少し、白に近づき、唇が紫に近づくと水を止め、何度も口付けた。